第183話 ヤンキー、理解に苦しむ

※今回はヤンキー徳田秀紀目線の話になります。


 サイゾー達が二度目の邪竜の偵察から戻って来た。

 戻って来たのは良いのだが、今回の偵察では色々とトラブルが発生していたらしい。


 表向き、サイゾー達が訪れた村が山賊に襲われ、偵察に同行した兵士は村人を守るために犠牲になったことになっているが、実際に兵士を殺したのは村人だそうだ。

 良く分からないが、その村にとっては邪竜は守り神のような存在で、それを討伐しようと考えているサイゾー達は敵認定されて殺されかけたらしい。


 サイゾーに手を出した時点で返り討ちにされるのは決定だが、村人全員の命と引き換えに奴隷を一人差し出させたようだ。

 本来なら、サイゾーが奴隷を選ぶところだが、サイゾーに固執している宮間が一緒では無理だという事で、木島が代わりに奴隷にする女を選んだらしい。


 まぁ、ここまでは何とか理解できた。

 村人全員を殺すよりも、一人の犠牲で済ませようというのも仕方の無い話なのだろう。


 だが、木島の奴隷に対する執着は、はっきり言って異常だ。

 佐久間と村上が、冗談めかして俺達にも奴隷を貸してくれ……みたいな話をしたらしいのだが、木島はガチ切れして危うく魔法の撃ち合いに発展しかけた。


 偶々、俺が近くにいて止めに入ったが、あいつらの魔法でもバズーカ砲ぐらいの威力があるのだから、仲裁するのも命懸けだ。

 木島は訓練をしている間も含めて、奴隷を四六時中そばに置いて、他の男には指一本触れさせようとしない。


 そして毎晩のように、木島の部屋から艶めかしい女の喘ぎ声が聞こえてくるのだ。

 あんな声を聞かされて、健康な十代男子が冷静でいられる訳がない。


 うちのグループの野郎どもが女に行為を求めるが、女は奴隷扱いされるのは御免だと拒否する。

 結局、良い思いをしているのは木島とサイゾーと、まぁ俺もだが、他の連中が不満を抱え始めている。


 ガス抜きのために、佐久間が提案した娼館通いを許可したが、野郎どもからは自分達も奴隷を買いたいという要望が日毎に強くなっている。

 村にいる全ての女の中から選び出しただけあって、木島が連れている女はレベルが高いからだ。


 顔付きは整っているし、服を着ている状態でもスタイルが良いのは分かる。

 サイゾーの話によれば、奴隷として選んだ時には全裸だったらしい。


 つまり、日本育ちの木島の性的嗜好を満たすレベルの女なのだ。

 他の野郎どもが嫉妬するのも無理は無い。


 木島の態度は奴隷の女に対してだけでなく、他の状況でもおかしくなっている。

 特に訓練中の目付きは、必死というよりも人殺しのような目付きをしている。


 魔法の訓練は各々が課題を決めて射撃場でやっているが、近接戦闘の訓練は仲間と組んで行う。

 最近の木島は、他の連中と溝ができてしまっているだけでなく、訓練だというのに殺気ダダ洩れの状態で打ちかかって来るから他の奴らには相手をさせられない。


「木島、訓練なんだから、もうちょっとセーブしろよ」

「徳田君、そんな甘っちょろいことを言ってたら死ぬよ。僕は偵察に行って、まだまだ自分の考えが甘かったって思ってる。敵は邪竜だけじゃないよ」


 実際に、自分の目の前で兵士が殺されるのを見て来た木島の言葉は重い。


「訓練なんだから手を抜くなんて、徳田君は僕に死ねって言ってるの?」

「そういう訳じゃねぇが……分かったよ、ガチで来い。ただし止めまで刺そうとするな、それはもう訓練じゃなくなっちまう」

「分かった……」


 口では分かったと言いつつも、木島は相変わらず人殺しみたいな目をしていた。

 異世界なんて異常な状況だから少々性格が変わるのは仕方の無い話なのだろうが、サイゾーといい、黒井といい、木島といい、どうしてここまで変わっちまうのか。


 いや、変わったのではなくて、世間体とか建前とかが削られて、そいつの本性が剥き出しになっているのかもしれない。

 サイゾーは、日本に帰れない可能性の方が高いと思っているようだが、木島のような状態で日本に戻れてしまったら、それはそれで問題になるんじゃないのか。


 ベトナム戦争の当時、アメリカに残っていた連中と実際に戦場に出向いて命懸けの戦闘を行った連中との間に大きな溝ができたという話は有名だ。

 平和ボケした日本に、木島みたいな殺るか殺られるかみたいな人間が戻ったら、警察沙汰待った無しだろう。


 だが、こちらの世界で生きていくには、木島のような考え方も必要なのかもしれない。

 それでも木島の変貌ぶりは、俺の理解の範疇を超えている。


 サイゾーに、どうなってるんだと尋ねたが、色々あったんだよと話を濁されてしまった。

 黒井のように一晩に十人以上の命を奪った訳ではないらしいが、兵士が殺された以外にも何か木島をおかしくした出来事がありそうだ。


 最初の実戦訓練の後、二つに分かれていたグループが合流することにサイゾーは反対だった。

 俺は、木島たちのグループがあのままでは命を落とすことになると思ったから、見捨てられずに合流を認めたが、今となっては失敗だったと感じている。


 合流する前、俺達のグループは結束を固めて上手くやっていた。

 だが、合流してから歯車が狂い始めたみたいに、対立、嫉妬、見下し、執着など、人間関係がギスギスする一方だ。


 今のところは、みんな俺の話には耳を貸すが、魔法という力を考えれば、日本に居た頃のように絶対的なアドバンテージがある訳ではない。

 自分達が置かれている状況を考えたら、仲間内で争っている場合ではないことぐらい分かると思うのだが、どうしてどいつもこいつも勝手なことをしやがるのか。


 邪竜討伐のための偵察や作戦立案、それに駐屯地の司令官や王弟との交渉などはサイゾーに任せきりなのだから、せめて仲間内の話は俺が解決するべきだ。

 するべきなのだろうが、理解不能なことが多すぎるんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る