ムスリムの女性
増田朋美
ムスリムの女性
ムスリムの女性
今日も暑いというか、湿度が高くて、ムシムシした日だった。その日は日本ではなく、近隣の国家で大型台風が上陸したというニュースが流れていた。その影響で、日本は、こんなに蒸し暑くなっているという。まあ、どこっへ行っても、世界は何処かでつながっているということなんだろうが、何だか自分たちの国家の事ばかりではなく、ほかの国家のことまで心配しなければならないのは、現代社会の宿命なのかもしれなかった。
その日、杉ちゃんとジョチさんは、近くにあったショッピングモールで買い物に出かけた。途中、道路わきにちょっとした空き地に差し掛かるのであるが、そこに、四、五人の頭にスカーフを巻いて、白いワンピースのようなものを着た女性たちが、ぐるぐる回転するような踊りを踊っているのが見えた。彼女たちは、外国人というような雰囲気もなく、まぎれもなく日本人である。よく見るとその中には、一人のリーダー的な女性がいるようで、踊りのリズムやテンポなどを取り仕切っているようだ。一体何をやっているんだろうかと、杉ちゃんもジョチさんも不思議な顔をして、それを眺めていた。
「おい、盆踊りにしてはちょっと変な服装だな。」
と、杉ちゃんがつぶやくと、ジョチさんが、
「歌は、ペルシャ語のようですね。」
と一言言った。
「ところどころ、歌詞にアラーの名が出てくるので、イスラム教の踊りだと思います。踊ることによって、悟りを開くと言われる、いわゆるスーフィー教団だと思いますね。」
「なんだかちょっと怖い気がするなあ、それは、新興宗教なのかな?」
ジョチさんの話に、杉ちゃんが言った。
「いいえ、新興宗教ではありません。オスマントルコ時代から登場している、イスラム教の一派です。ぐるぐる回転するような踊りを踊ることにより、自らを鍛えて、悟りを開くようにするんですよ。」
と、ジョチさんが解説するように言った。それを聞くと、中心にいたリーダー的な女性が、手をあげて、踊りをやめるように言った。彼女たちは、はいと言って、踊りを中断した。
「こんにちは、お二人さん。」
「はあ、どうも。」
杉ちゃんはとりあえず挨拶する。リーダーの女性は、アラビア系でなければイラン系の顔でもなく、れっきとした日本人であった。
「お二人ともスーフィズムに興味がおありですか?」
「いや、そういうことじゃなくてね、なんで日本人が中東の古いダンスをしているのかなと思って。」
と、杉ちゃんがそういうと、
「中東の教えは、古くはありませんよ。私は単に、スーフィズムの教えのすばらしさを伝えたくて、こういう活動をしているだけですよ。」
と、彼女は言って、名刺を二人に渡した。
「中村櫻子さん。スーフィズム研究家ですか。」
と、ジョチさんは名刺にかかれた肩書を読んでみる。
「で、その、お前さんがなんでこんな空き地でスーフィズムを教えようとしているんですか?」
と、杉ちゃんが言うと、
「ええ、単に、市民文化会館が、いま流行の発疹熱の影響で使えなくなったものですから、時々ここの空き地に集まってみんなで踊りの練習をしているんですよ。」
と、彼女、中村櫻子さんは言った。
「イスラム教の宗教指導者というとイマームみたいなもんだろうか。イスラムって、難しいから、わかる人いるのかなあ。何をやっても意味はないような気がしないわけでもないが、、、。」
杉ちゃんがそういうと、
「いいえ、私はイマームでもなんでもありません。ただ、クルアーンの教えと、スーフィズムの踊りを踊って、自分を鍛えるという教えを伝えたいだけです。日本で言うところの禅宗と同じようなものですよ。私たちは踊りを踊ることによって、より祈りの姿勢を強めて、唯一の神であるアラーにより近づこうということを目指しているんです。」
と、櫻子さんは答えた。
「まあ、今はなんでもありの時代ですからね。こういうものがあってもいいんじゃないですか。多様化と言ってもそれがなかなか実現するものでもないですから、そっとしておいてあげましょう。」
「そうだよな、イスラム教ってよくわからない宗教とされることが多いが、きっと何かの役に立っていることは確かだと思うから、頑張ってくれい。」
杉ちゃんとジョチさんが、相次いでそういうことを言うと、
「ええありがとうございます。多様化と称して受け入れてくださるのは、最高の誉め言葉だと思っています。ありがとうございました。」
と櫻子さんは、にこやかに笑った。そして再び練習を開始した。ぐるぐる回転しながら踊るのは、一寸、怖い気がしないわけでもないが、杉ちゃんとジョチさんは、軽く頭を下げてその日は彼女とっ分かれた。その日は何ごともなかったのだが、其れから数日後、大変なことが起きてしまった。
その日は、杉ちゃんとジョチさんは、ぱくちゃんの経営しているいしゅめいるらーめんで、黄色いさぬきうどんのようなラーメンをいつも通りに食べていたが、店に設置されていたテレビのアナウンサーが、こんな事を言い始めたのである。
「昨日、静岡県富士市の新浜公会堂付近で、女性の遺体が見つかりました。女性は、持っていた免許証から、名前を杉田笛子さんとみられ、勤務先の学校関係者などの話から、イスラム教系のサークルに入っていました。警察は、そのサークルのものが、何か事情を知っているとして、調べています。」
「へえ、そんなことが在ったのか。」
と、杉ちゃんは、黄色いさぬきうどんのようなラーメンを食べながら言った。
「その女性の入っているサークルというのは、あの時の女性かな、あの、中村櫻子さんとか言う。」
「そうかもしれませんね。日本でイスラム教のサークルとなると、数は少ないでしょうからね。」
杉ちゃんとジョチさんが、そういうことを言い合っていると、
「へえ、そんなところがあったのかあ。」
とぱくちゃんが面白そうな顔をして、二人の話しに入ってきた。
「僕たちの間では、当たり前のように信仰されていた宗教なのに、日本ではニュースになるのか。」
「まあ、そういうことになるな。」
杉ちゃんは、水をがぶっと飲んだ。
「ええ、日本にはムスリムはあまり多くありませんし、またこんな事件があるとニュースになるんでしょう。」
ジョチさんがそれに付け加えるように言うと、店の入り口の戸がガラッと開いて、華岡が店の中に入ってくる。
「一寸、お二人にお伺いしいたいんですけどね。」
「なんですか、華岡さん、また犬みたいに僕たちの事嗅ぎまわって。」
「いや、そういうことを言わないでくださいね。こっちも、事件について調べているものですからね。協力してくださいな。八月二十一日に、お二人はスーフィズム研究者の中村櫻子さんと会ってますね。」
ジョチさんがそういうと、華岡は聞いた。
「ええ、確かに彼女に会いましたよ。ショッピングモール近くの空き地の中で、スーフィズムの踊りの練習をしていました。それがどうしたというんです。」
ジョチさんが正直に答えると、
「おう、その中村櫻子なんだが、何か悩みを持っているとか、そういうことはなかっただろうかな。対人関係とか、弟子たちとの軋轢とか。」
と華岡は聞いた。それを聞いたぱくちゃんが、
「華岡さん、そういうひとは、みんなの悩みを聞いて解決に導く人ですよ。そんな人が事件にかかわるなんて、まずないでしょう。」
と、即答した。まあ、そうだけどねえ、と華岡は首をかしげる。
「しかし、イスラム教徒言うのはさ、ほら、中東のニュースを見ればわかるけど、しょっちゅうテロを起こすとかそういうことをしているじゃないか。」
「いいえ華岡さん、それをしているのはごく一部のひとだけですよ。テロを起こしているのは、イスラム教を過剰に信仰している人たちであって、普通に信仰されている人は、そのようなことはしません。それだけのことです。」
と、ジョチさんが言った。
「そうだよねえ。それに、僕たちにとっては、こころのよりどころでもあるわけだから、それはいくら警察さんでもわかってもらいたいなあ。」
ぱくちゃんにそういわれて華岡は黙ってしまう。
「それよりも、日本でイスラム教の団体があったというのが驚きだよ。中東だけの宗教だと思っていたのに。そういうことはないのか。」
杉ちゃんの発言に、華岡もそうだよなあと頷く。
「まあそうですね。日本は宗教的な取り締まりはあまり多くないですから、変なものがぎゃくに流行ってしまう要因でもあるんですよね。それだけ日本は国としての方向性が、明確ではないということでしょうか。」
ジョチさんは、そう解説した。
「確かに、なんでもありの時代といえ、それが悪い方に転べばそうなるよな。」
と、杉ちゃんは、ため息をついた。
「おい、それにしても杉ちゃん、今回の杉田笛子さんを殺害したのは一体どこの誰なんだろうな。杉田笛子は、私立中学校の非常勤講師をしていたようだが、生徒からの評判は上々だった。保護者からの信頼もある。ただ、クラスを持ったことは一度もなくて、非常勤のままだけどな。何回も、クラス担任をしたいと、校長に申し入れているようだが、一度も願いがかなったことはない。理由は、年が若すぎるからだということだ。まあ、まだ24歳だしな。でも、そういうことは、一度や二度は経験するだろう。若いから、活躍できないってこと。」
華岡が黙っているのを我慢できなかったのか、いきなりそういうことを言った。多分きっと、一人だけつまはじきにされるのが、嫌いな性分なんだろう。
「そうですか、それで杉田笛子さんは、自分ではどうにもならないことを恨んで、イスラム教のサークルに加盟したわけですね。きっとクラスを持たせてもらえないことを、極端に考えすぎてしまったのでしょう。最近の若い人は、思うようにいかないと、誰かのせいにしてしまいますからな。」
ジョチさんが華岡の発言を肯定するように言った。
「おう、それはそうだ。理事長さんいいこと言う。一個の悪いことにとらわれすぎて、ほかの良いこと、幸せな事が全然見えていない。そういうもんだと達観してしまうものもいる。そうなってしまうから、若い人が躓いてしまうと俺も思う。」
華岡が、そういうと、彼のスマートフォンがなった。
「はいはい、華岡だ。え?なんだって?」
と、華岡は急いで手帳に何か書く。
「どうしたの華岡さん。」
杉ちゃんが言うと、華岡は電話を切って、
「おう、杉田笛子さんの通夜が、今夜行われるようだ。時間は今日の六時。俺、彼女の両親に会ってくる。」
と、答えた。すると杉ちゃんが、
「そうなんだ、序に僕も参列させてくれよ。なんかイスラム式の葬儀ってすごく興味ある。」
といきなりいいだした。杉ちゃん、人の悲しんでいるところで、のこのこ入っていくのは失礼ですよ、とジョチさんは注意したが、
「いや、俺の知り合いということで参列してくれよ。杉ちゃんだったら、何かつかんでくれるかもしれないじゃないか。まあ、最も、イスラムにかかわっていたのは、杉田笛子のみで彼女の家族はそれにかかわっていないから、葬儀は、仏教式で行われるけどな。」
と、華岡は言った。こういう時に杉ちゃんが行くと、微妙な変化を感じ取ってくれるから、非常に役に立つという。
「ついでに理事長さんも一緒に来てください。俺、実をいうと一人で行くのはちょっと怖くて。」
と、華岡があんまり言うので、杉ちゃんとジョチさんは、杉田笛子の通夜に参列することになった。夜の六時になる数分前に小園さんの運転する車で、通夜が行われる会場に向かった。華岡が言った通り、イスラム教を信仰していたのは笛子さんだけなので、ほかの家族はちゃんと仏教式の葬儀を心得ていた。
「ちょっとあなた。」
杉ちゃんが会場に入ると、笛子さんの母と思われる女性が、声をかけた。
「笛子の通夜に、そんな着物で現れるなんて、失礼じゃありませんか。」
「いや、これは黒大島で麻の葉だよ。そのどこが悪いというんだよ。」
と杉ちゃんが言うと、
「黒大島だけでも失礼ですが、そんな変な模様の着物で来られちゃ困ると言っているです。そういう連続模様はあいつがはまっていた、宗教に関する柄では?」
と、彼女の父親と思われる男性がそういうことを言った。
「だからあ、麻の葉は別にイスラム教とは関係ありません。そんなこと気にしないでくださいませ。」
杉ちゃんがそういうと、
「娘が今回、このような目にあったのは、その変な宗教が原因だと思いますから、私たちはちゃんとしたやり方で、娘を弔ってやりたいと思っているのです。それを邪魔しないでください。」
と、父親は言った。それでは僕たちどうしたらいいのかなと杉ちゃんもジョチさんも考えていると、
「あ、中村櫻子だ。」
と、隣にいた誰かが言った。確かに、そこへやってきたのは、先日杉ちゃんたちがあった女性、中村櫻子である。
「どうもこんばんは。杉田笛子さんのお通夜という事で参りました。杉田さんにはお詫びしたいなと思いまして。」
と彼女は宗教家らしく堂々と言った。櫻子は、仏教式と変わらない黒の紋付を身に着けていたが、髪にはイスラム教徒らしく、黒いベールをかぶっている。
「それでは、杉田笛子さんにお線香でもあげさせてください。」
「お前だな!うちの笛子を殺してしに至らしめたのは!」
と、櫻子に向かって、父親が怒鳴り付けた。
「お前がやっているそのわけのわからないものではなく、こうしてちゃんとした葬儀がやれることを見せてやる!」
「そんなもの見せても何もなりませんよ。娘さんを奪われたことは確かかもしれないけど、宗教がどうのこうのと言ってはいけません。本来宗教というものは、人がどうやって生きていくかを示すものです。平和に暮らしていくための道具というものが宗教でしょう。それを原因にして対立してはなりませんよ。」
と、ジョチさんが、父親をたしなめるように言った。
「いや、イスラム教というものでは、平気でテロを起こしたりすることができるそうじゃないか!そんなひどいところに娘をそそのかして、入信させるなんて!」
「ちょっと待ってください。クルアーンによりますと、殺人というものは認められておりません。イスラム教であっても、他人を殺害するということはやってはいけないことです。」
と、櫻子は、父親に向かってそう言った。そんなことを言うと、ちょっと矛盾があるように見える。なぜならジハードと言って、イスラム教を守るために戦うことも、クルアーンに明記されているからである。
「すみません、中村櫻子さんですね。一寸お伺いしたいんですけどね。あなた、八月二十三日の夜、どこにいたんですか。」
と、華岡が刑事らしくそういうことを言った。
「いえ、これは、あなたを疑っているわけではありません。ただ、関係者全員に確認のためお尋ねしているんです。」
「わかりました。いわゆるアリバイを調べているんですね。ならお話をいたしましょう。私は、二十三日の夜なら、自宅で、次の講義の資料をまとめていました。普段は、雑誌にイスラムにまつわるコラムを書いて、生活していますから。」
華岡の質問に櫻子は静かに答えた。
「違うだろ!お前が娘をそそのかして、殺人に導いたに決まっている!俺たちの大事な娘が、おかしな宗教の教祖にとられてしまうとは!こないだの事件のように、宗教が人をおかしくさせることはいくらでもあるじゃないか!」
再び櫻子を殴りつけようと、腕を振り上げたお父さんに、
「いいえ、そんなことをしたって、娘さんは戻っては来ませんよ!お父様まで犯罪を起こすなんて、娘さんは喜ぶことはないはずです!」
と、ジョチさんはそういって、彼を制した。
「そうだけど、、、。」
父親はがっかりと落ち込む。
「それに、私たちは、テロ事件を起こすような組織ではありません。ただのサークルです!」
櫻子は父親に向かって言った。
「しかしねえ、以前、事件を起こしたところも、初めはそういうサークルであったと聞きましたよ。そうなってしまう、可能性もないわけじゃないですよね。宗教というものは。だからこそ、娘を何とかしなきゃいけなかったんだ。そういうことでしょう?」
「そうですが、伝統宗教であっても、マインドコントロールとか、そういうことはあったはずです。それはどんな宗教でもあったはずです。それに、悪い方ではなく良い方へマインドコントロールしてくれうこともあります。それをまっぽうから否定してはいけません。」
父親が再び突っかかると、ジョチさんがまた彼に言った。
「それでは娘をどうやって助ければいいでしょう。」
「それはですね。もう仕方ない事だと思ってくださいよ。そう思うしかないということは、本当にたくさんありますよ。」
そういう父親にジョチさんは、諭すように言った。それは仕方ないことでもある。誰のせいでもないけれど、あきらめなければいけないことは結構ある。
とりあえず、その日は会場へ入らせてはもらえなかった。杉ちゃんたちは、仕方なく櫻子と一緒に、
駅へ帰ることにした。
「それにしても。」
と、ジョチさんは駅で電車を待ちながら彼女に聞いた。
「どうしてイスラム教に興味を持つようになったんですか。」
「ええ。」
と彼女は答える。
「私、以前霊感商法に騙されたことが在るんです。其れから、周りの者がみんな信じられなくなって、そんな中、唯一一神教である、イスラム教に興味を持つようになりました。たった一人の神を、大勢の人数で信じること。ここに共鳴したんです。だって大体の宗教は、信仰する対象が色いろあって迷うじゃないですか。でも、イスラム教ではそうじゃなくて、集団で神様のもとへ行こうとするのが私は好きなんです。」
「はあ、なるほどねえ。そういうことなのねえ。確かにそういうことを求める宗教ってのは、日本では少ないかも。集団主義の多い割には、信仰は個人的な制度が多いよな。」
と、杉ちゃんがそれに相槌を打った。
「そうなんですね。赤信号、みんなで渡れば怖くないに近いものがありますね。」
ジョチさんはちょっと首をひねった。
「それにしても、女性でありながら、女性にとって不利な宗教によく入ったなというところが、僕は疑問に思いますけど。」
「まあそれはよく言われます。でも、そういうことだって、私は必要なんじゃないかと思うこともあるんですよ。女性は男性の生き方をまねしないほうが、いいと思うこともあるんです。だって、女性でありながら、男性のような生き方をして失敗してしまった人を、私は何人も見てきました。其れよりも、この世には神様がいて、私たちを見てくれるという教えのほうが、より教育的な気がするの。私は、それでテロを起こすとかそういうことは求めていませんよ。其れよりも、クルアーンに書いてあることを心の支えとしてほしいんです。」
彼女はにこやかに笑ってそういうことを言った。その時、華岡のスマートフォンが鳴る。
「はいはいもしもし。華岡だ。ああ、そうかそうか。なるほどねえ。では、その彼女が、、、。」
杉ちゃんとジョチさんは顔を見合わせた。
やがて、華岡は、スマートフォンをカバンの中にしまう。
「あの、杉田笛子殺人事件の容疑者が現れました。杉田笛子の同僚だそうです。杉田笛子が、あまりにも、担任になりたいと主張していたため、自分の居場所をとられるのではないかと恐れて、笛子を殺害に至ったと。」
と、華岡は、そそくさとそういうことを言った。ということは事件はやっぱり単なる事件だったのだ。それに、イスラム教を持ち込んでくることは何も関係なかったのだが、そういう風になってしまうものらしい。
「まあ、それはしょうがないのではないですか。中東ではテロリズムが多く起きているわけですし、それを、日本人は、そういうことばかりニュースで見させられているわけですから。」
と、ジョチさんが言った。
「ある意味、日本のテレビというものも、一種の宗教に近いものかなあ。」
と、杉ちゃんは、カラカラと笑った。
「そうですね。私は、これからも、スーフィズムの教えを続けていきますよ。私は、これでも、イスラム指導者の端くれなんですから。」
と櫻子さんはにこやかに笑って言っている。その顔は、おかしな顔をして笑っている、あのテロ組織の主宰者とは違う、普通の女性の顔である。之さえ在れば、彼女は正常な女性ということなんだろうなと杉ちゃんもジョチさんも思うのであった。
ムスリムの女性 増田朋美 @masubuchi4996
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