やる気なく立ち上がって、鏡から目をそらした。


 街を見に。


 いかないと。


 街を守っていよう。せめて。彼がいなくても。街はそこにある。守らないと。


 着ているものを脱いで、外へ出るための動きやすい服を探す。


 彼がいたから、部屋着という概念ができたのだと、なんとなく思った。外に出ていないときは、基本的に何も着ていなかった。


「女でもなんでもないな」


 鏡に映った自分。


 綺麗な顔。均整のとれた身体。


 それでも。


 私は女では、ない。街を守る、機械か何か。


 扉が開く。


 彼。


 走っていた。


 抱きつく。


 抱きしめられる。


 キスをする。


 彼の口。もごもごと動く。


 話したいのだと気付いて、口を離した。唾が、少しだけ。


「まず服を。服を着てください」


「あっ」


 彼が外に出る。そして、閉まる扉。


「ここに、いられることになりました」


 扉越し。彼の声。


「上司がいい人で。辞められると困るからって、地方を回る仕事を、週末に回してもらえることになりました。内偵する人間に必要なのは、大事な人の存在だって。平日は、ここにいても、いいって」


 扉を開けた。


「じゃあ、ずっとここに」


 あれ。彼がいない。


「前に開いてドアを開けるとですね、ドアがですね、ぶつかるんですよ」


 ドアと壁の隙間から、彼が出てきた。


「ごめんなさい」


「大丈夫です。くらったふりですから」


 彼の手をとって。部屋に引き入れて。扉を閉めて。


 抱きつく。もういちど。


 ゆっくり。キスをする。


 たっぷりと。


 そして、彼が。こちらをまっすぐ見て。


「なんでまだ服着てないんですか」


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グルーヴのあとで 春嵐 @aiot3110

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