第一章『シャヴァネル王国の(物理的)最強メイド』

 目を覚まして、驚いたことが三つある。


 まず、生きていることが一つ。


 二つ目に、内装が本当に豪華絢爛な王宮内にあるようなお部屋のベッドに寝ていたこと。


 三つ目。


 ここが、『ドキプリで、ものすごく見たことがある部屋』であること。


 順応力がかなりある訳では無いが、あの事故で私が死んだのは確定事項だろう。


 これは、あの説を認めざるを得ない。


「これ、ドキプリの世界に転生トリップしたっぽいなー」


 起き上がった私は、自分に掛けられたふっくらとした真っ白な毛布をぽふぽふと叩きながら、まるでこの状況を俯瞰するように呟く。


 しかも身につけているのは、シャヴァネル王国のメイドたちの寝巻きだった。


 しかも、のだ。


 メイドにも実は階級があり、この作品の中での最高クラスは国王専属メイドだった。


 国王専属メイドは、国王の身の回りのお世話は勿論、彼の護衛も兼任するため魔術や剣術、体術や話術に長けていなければならない。


 身の回りのお世話や話術は、元の世界で嫌という程身に付けてきたから大丈夫なのだが、問題は魔術や剣術、体術だった。


 元の世界では部活は運動部ではなく、完全に帰宅部だったから、運動について全くと言って良いほど縁が無い人生を送ってきていた。


 そんな私がメイドにはなれても国王専属メイドになれるはずが無いのだが、まず転生トリップすること自体がイレギュラー中のイレギュラーのため何があってもおかしくはなかった。


 とりあえず制服に着替えて、王宮内を散策してみようと思う。


 と、言ってもこちら側で過ごして来た記憶が頭の中にあるから、そこまで苦労はしなさそうだった。


 国王専属メイドの制服はメイド服のように、白と黒を基調とした制服なのだが、どちらかと言うと戦闘用に改良が施されている。


 敵と敵対した際に打撃や、蹴撃を繰り出しやすいように、キュロットスカートになっていたりする。


 つまり、戦闘用のために動きやすさを追求したメイド服なのだ。


 制服に身を包み、腰には壁に立てかけてあったレイピアを携える。


 初めてそれを手にしたのだが、どうやら私の愛刀らしく、すぐ手に馴染んでいるのが分かった。


「……もう、我慢しなくてもいいんだよね?」


 私は、どこかこの状況を楽しんでいた。


 私はようやく、前世で戻ることが出来なかった本当の私に今なら戻れる。そう確信していた。


「……セドリック様は。私の推し様は、私の命に賭けてでも守ってみせる……。私の、この手で」


 窓から見える、綺麗な青をバックにして燦々と輝く太陽に向けて手を伸ばした。


 その時、櫻井 春は死んだ。


 そして同時に、ハルモニア・サクラ・ルーテンベルクと呼ばれる国王専属メイドが誕生した。


 ***********


 国王専属メイドの朝は早い。


 他のメイドの誰よりも早く起き、国王のスケジュールの把握をしなければならないからだ。


 そして、他の国々の情勢にも目を光らせなければならない。


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転生したら推しの物理的最強専属メイドになっていたので、死ぬ気で推しを守ります。 あんにんどうふ。 @tofu_almond

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