第3話

七月の学校はなんだか活気づいているように感じる。

そう感じるのはきっと夏休みが近いからだろう。皆が皆それぞれの夏休みを過ごす。

私は特に部活に入っておらず、いつも夏休みは家でダラダラしたり、家族と旅行したり、部活休みの友達と遊んだりもする。

あかねはきっと夏休みに死に場所を探しに行く。私が断ろうとも。

止めるべきなんだろうか。

廊下を歩いていると、グラウンドから運動部の野太い声と甲高い声が聞こえてくる。いつもは何とも思わないのに今日はやけにうっとおしいく感じる。


「あ、あおいさんちょうどよかった。」


背後から声を掛けられ振り向くと、そこには学年主任の優月先生が立っていた。


「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」


話の要件は大体予想がついている。私の進路についてのことだ。


「いや、今ちょっと急いでて…」

「あ、そっかごめんね。でも、ほんのちょっとでいいからさ。」


優月先生はとても優しい先生だ。どんな生徒にでも一生懸命向き合い、親身に話を聞いてくれる。生徒からの評判もいい。

だからこそ、ほかの先生と違って強引にここから逃げ出すことは出来なかった。


「進路の事、やっぱりまだ決められてないよね?」

「…はい。」

「酷な話だよね。高校二年生の時に自分の一生を左右することを決めなきゃいけないなんて。」


優月先生は私を傷つけまいと、優しい言葉をかけてくれる。ただその優しさが少し痛い。

「あおいさんは成績優秀だからさ、やりたいことがないんだったらとりあえず大学とか行ってみるのがいいかもしれない。そこでやりたいこととか…」

「…すみません。」

「いや、謝る必要なんてないよ。夏休み入るまでなら私がなんとかしてみせる。だから、とりあえずの進路の形だけ決めておいて。ごめんね、引き留めちゃって。」

「いえ、先生は何も悪くないですよ!私が決められてないのが悪いんです。すみません、じゃあ失礼します。」


私は進路希望調査票をまだ出せずにいた。

やりたいことも、なりたい職業もない。

あかねのことで埋め尽くされていた脳に進路のことが混じり、頭がおかしくなりそうだ。

青春なんてくそくらえだ。

私は廊下を走って正面玄関に向かった。

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少女自殺旅行 夜部咲 @yorubesaku39

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