第2話

昼休みが終わり、午後の授業が何一つとして頭に入らないまま放課後になった。

皆が部活へと急ぐ中、あの言葉が頭から離れずにいた。


「一緒に死に場所を探して欲しい。」


あかねに一体何があったのだろう。

喧嘩や失恋、成績不振、生活環境の悪化、健康問題…

ありとあらゆる可能性が脳内を駆け巡っていったが、それらが彼女の「死」に対する価値観を変えてしまうようなものには到底思えなかった。

それに、あかねがここ数日そんな素振りを見せる様子はなかった。何事もなくただ普通に過ごしているように見えた。

一度思考した可能性が何度も何度も同じように駆け巡る。


「空っぽな心を抱えて生きていたくない。」


死に対して、あかねが出した答えがそんなものであってはいけない。という私の想いがそれを答えとするのを否定し続けた。


「だーれだ!」


ぼうっとしたまま帰りの支度をしていると、聞き覚えのある声と共に視界が真っ暗になった。


「みどりでしょ?」


「当たり〜!」


葉月みどり。私のクラスの委員長であり、成績はいつでもトップ。

整った目鼻立ちとロングヘアーが特徴で身長も高く、容姿端麗、才色兼備といった言葉がよく似合う女の子だ。

高校一年生の時、読書が趣味というのがきっかけで友達になった。


「あおい、今日までのアンケート回収しにきたよ。」


「あ、ごめん。出すの忘れてた。」


私はファイルからくしゃくしゃになったアンケートを取り出し、それを渡す。

みどりがそれを受け取り、心配した顔で私の顔をまじまじと見る。


「なんか凄い難しい顔してるね、どしたの?」


「あー…え?うーん。なんでもないよ。」


「なんでもないわけでしょ。すっごい顔してるもん。なんか人類の終末でも見たみたいなチワワみたいな顔。」


「あはは、なにその表現!みどりってば毎回毎回変な言い回しするんだから。」


私はいつものようにみどりの変な言い回しをつっこむ。

いつもならみどりはすぐに「えー、いい表現でしょー。」といじけて二人で笑いあうのだが


「いや、今回に限ってはそんなことないね。本当にそんな顔してる。」


と真剣な口調で返されたので、私はたじろいでしまった。そのたじろいだ私を見て、みどりはさらに心配そうな顔を強める。私が何か返さなければと考えている内に、みどりが口を開き、「まぁ、いいや。じゃ、今日一緒に帰ろ!アンケート先生の所に出してくるから、正面玄関で待ってて。」と教室から出て行った。


私らしくないな。と自嘲気味に呟きながら、私は帰りの支度を再開した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る