少女自殺旅行
夜部咲
第1話
「死にたい。」
昼休みの食事中、この言葉が私の時間をしばらく止めた。
死にたい、それは日常のどこにでも溢れる言葉だ。特に珍しい言葉でもない。
誰でも使うことがある言葉だし、冗談まじりに言うことも本気で言うことだってある。私だってよく使う。
それでも、この言葉が私の時間を止まらせるほどの衝撃があったのは理由がある。
この言葉を使ったのが幼なじみの渚あかねだったということだ。
「…どうして?」
渚あかねはいたって普通の女子高生である。
勉強は中の上、運動神経は良くはないが悪くもない。顔はかわいいけれど、内気で誰とも付き合ったことはない。家庭環境だって普通で、大学生の兄と会社勤めの父、保育士の母がいる。
ただ一つ他の女の子と違う点が死に対する価値観の違いだ。
彼女は死に対しては非常に敏感なのだ。
例えば、彼女の前で冗談めいて死にたいというと涙を流して本気で怒る。鳥や虫の死骸を見るといちいち鞄の中から袋を取り出して持って帰り埋める。小学生の頃、ふざけて虫や蛙を殺していた男子グループと取っ組み合いの喧嘩をしたこともある。
異常なほど死に対して敏感な彼女は周りから奇異の目で見られることも少なくなかった。
だからこそ、私は彼女が死にたいと言ったことが信じられなかった。
「あおいちゃん。あのね、私ずっと考えてたの。」
「…何を?」
「生きる意味。どれだけ頑張っても、どれだけ足掻いても最後はみんな死ぬ。なら、なんで生きるんだろう?」
「…そんなこと考えたって」
無駄だろう、と続けようとしたが私は口をつぐんだ。あかねが泣いていたからだ。
「考えたって無駄なことはわかってるの。でも、でもね。この空っぽな心を抱えたままこの先生きていたくないの。だから」
あかねは大きく一息おいてからこう言った。
「私の死に場所を一緒に探して欲しいの。」
その日は七月のジメジメとした暑さと教室がやけにうるさい日だった。
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