第5話 センポラ!

 夜。街灯の少ない通りにあるコンビニ。ゴゼンゴゴへオレは向かっていた。


一般的に夜に外を出歩いてはいけない。誰が教えたわけでもないが、小さい頃に理解する。

夜には野球の試合だってやらないし、テレビの生放送もない。

夜にやらなきゃいけない事は国がやる。


「うぃ〜す。きたよ〜」

「おぉカイチ」


ルイファちゃんは今日もかわいい。

そして今日も仕事をしていない。クビにならないのだろうか。


「昨日はどうだった?一日たったけど感想は?」

「サイッコーだったよ。オレさぁ、夜に憧れてたんだよね。映画でみて」

「本物だったでしょ、映画の世界じゃないんだよ」


 ルイファちゃんは冷蔵庫からコーラを取り出して飲んだ。

自由な彼女を見て、深夜のコンビニバイトも楽しそうだと思った。


「もうアタシたちは友達だ。だからお互いの事をもっと知ろう」


オレは友達と言われて、嬉しさ半分、寂しさ半分。


「まずは趣味ね。カイチは映画だよね?」

「うん」

「アタシの趣味は深夜徘徊。特技はパルクール」


パルクール…。ビョンビョン跳んだりするアレか。


「すごいね〜!ルイファちゃんって運動できんだね」

「カイチはできなそうだね。どうなの?」


そう言ってルイファちゃんは笑った。悔しいけどまだ負けない。


「バカにしんでよ…!オレぁ男だかんね。動けるっつーの」

「そうか良かった。じゃあ行こーか」

「へ?」


彼女はレジにいたインドラ君に100円を渡して外に出た。コーラは100円では買えない。

あとの20円はインドラ君がだしていた。


 「ちょ…ちょちょ…ルイファちゃん?バイト中でしょ?どこ行くってんだよ〜…!」

「友達とは楽しい事を共有するもんじゃない?アタシはカイチと遊びたいんだよ」


バイト中の人間の発言とは思えない。素直にサボって遊びたいらしい。

よくみたらルイファちゃんは制服を着てない。

どこまでも自由だ。そこに惹かれるのだろうか。





 「悪いことして逃げるのって楽しくない?」

「ルイファちゃんて犯罪者なの?」

「ちげーよバカイチ。ちっちゃなイタズラして、追いかけっこすんの。やったことない?」

「あ〜…。屋上の鍵盗んだ時にやったな。確かに楽しかったかも」


なんて話をしながら深夜の街を練り歩く。

夜の世界は楽しい。

電柱やブロック塀。灯のついていない学校に趣を感じる人間で良かったと思った。







 廃墟があった。

ルイファちゃんと一緒に屋根へ登った。


「あー…そんな高さでもないね」

「ん…そう?オレ十分に怖えんだけどぉ〜…」

「こんなんでビビんなカイチ!」

「いやさぁ…そうは言っても怖いんだもんよ〜」

「殺人犯に襲われるのとどっちが怖い?この近くだろ、死体が見つかったのって」

「あ、天使の死体だってヤツか。怖くないね。だってオレぁ天使じゃね〜も〜ん!」

「でも襲われるかも知れないよ?その時のために準備はしとこーよ」

「センタパラタスだな〜」




その瞬間、

ルイファちゃんはオレの背中をおもいっきり押した。

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パルプ・バイブル シィマン @c_man

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