ストック「永遠の美」
それを知ったきっかけは、ちょっとした世間話だった。まさかそんなことが起こっているだなんて、私は知らなかった。
「でも、いいじゃない。西岡さんのところはディナーとか連れて行ってもらっているんでしょ。うちの旦那はそういうのさっぱりで」
主婦友達である高岡さんにそう言われたが、私の頭の中ははてなマークでいっぱいだった。でも、下手なことは言えない。
「ええっと、いつのことかしら。ディナーねえ。お会いしましたっけ ? 」
「西岡さんに会ったんじゃなくて、待ち合わせしていた旦那さんの方にこの前うちの旦那が会ったみたいでね」
「あらそうでしたの。そういうこと夫は何も言わないもので……」
平静を装っていたが、手のひらはハンドバッグを滑り落としそうなほど汗でビショビショになり、額からもファンデーションがよれてしまいそうなくらい汗が吹き出た。
高岡さんと別れて家に帰ってから、ぐるぐると考える。
考えたくもないことだが、考えざるを得ないかった。一体誰と、どのくらいの頻度で。本人に直接聞くことなんて出来ないけれど、知りたくて仕方なかった。
「奥さん、依頼されていたものはこちらですね」
後日、私はある小さな部屋で1枚の写真を見ていた。
そこに写っていたのはスーツ姿の男と腕を組み、楽しそうに笑う若い女。私よりも十歳以上若いのではないだろうか。ばっちり盛っているアイメイク、軽く内巻きにセットされた明るめの茶色い髪、スカートからは今にも折れそうなほど華奢な足、そしてその先にはハイヒール。
もしも、私がまだ美しかったらこんなことにはなっていなかったのだろうかとぼんやり考える。
永遠の美しさがあればよかったのに。
その恋は花のように 天野蒼空 @soranoiro-777
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