白雪が死ぬ話(その後)

@fulltica_zon

❄︎

通信が途絶えた


妙な胸騒ぎに襲われ、周囲の敵を蹴散らすと彼女の元へと向かう


「大丈夫だ、きっと…」


強いと知っていて任せたんだ

ただの杞憂のはずだからと自分に言い聞かせ歩みを進めるが、微かに見えてきた小さな影がハッキリと視界に映るにつれて段々と足取りが重くなった


「白雪…」


既に事切れているであろう小さな身体を呆然と見つめる、重い枷がついたかのように足がうまく動かない

その足を引きずるように数歩近づき膝をつく


手にはリンクシェルが握られていた、彼女のことだ、通信は“出来なかった”のではなく“しなかった”んだろう


「馬鹿だな…」


瞳は閉ざされ 涙の痕が残る目元に触れると自らの着ていた羽織を身体に掛けて抱き上げる。

とても軽い、けれども僅かに硬直しはじめた肢体は心にまでのしかかるように重く感じた。


出会って間もない頃、負傷した彼女を抱き上げた時も見た目より重く感じたものだ。

それは臆病な彼女が緊張していたからで、とても身体は強張っていたがそれでもどこか柔らかくて。

ちゃんと生きていた。



彼女の身体を抱えたまま地面に座り込んでいたが、時間が経つごとに霞んだ思考がはっきりとしてくる。どれだけ現実から目を背けても もう彼女と共に歩むことはできない。

堪えようとした涙が溢れ出し、羽織に包まれた愛する人を濡らす


震える声で名前を呼び抱きしめた。

いつものように微笑んで名前を呼び返して欲しかった。だが愛した手のひらはこちらに伸ばされることはなく、瞳に自分の姿が映ることもない。

みっともないかもしれないが、彼女が生きる全てだった。



過呼吸のように乱れた吐息が落ち着くまで暫くそうしていたが、意を決したように深く息を吸って吐き出すと 刀を抜き自らの首筋に当てがう。


ひとりで幸せになる道なんて考えられない、意地っ張りで寂しがりなお前を一人になんてしないから。

どうか彼女の元へと逝けますように


「白雪…愛してる。」



愚かな俺達に神のご加護があらんことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白雪が死ぬ話(その後) @fulltica_zon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る