この星の光はじっと眺めてみてほしい

とても風雅な百合でした。
花の話ではありません。高校生の女の子二人の物語であり、星の話です。

あらすじはこうです。あるところに美人さんで男からモテモテでありながら恋愛感情を理解できない女の子がいて、ある日部活の後輩から『月が綺麗ですね』されてしまいます。女の子から告白されたのは初めてなのでドギマギしながらもいつもの如く「好きという気持ちがわからない」と言う、すると「私がわからせてあげます」と後輩は胸を張るのです。こうして二人のちょっと奇妙な時間が始まります。

彼女達が会うのはもっぱら放課後、天文部の部室。全部員五名中三名は幽霊部員、つまり活動しているのはこの二人だけ。夕暮れを除き邪魔者はいない静謐な部室、そこで先輩と後輩は理知的に話し続ける、何を? 好きとはどんなものなのか。

た、たまらん。

こんなにひたむきで、こんなに穏やかな時間があるなんて。高校生という時期で、賢くも自分を詳らかにできる愚直さ(勇気とも言う)を持ち合わせた二人を描いた見事な書きぶりに思わず感傷に浸ってしまいました。その「好き」を巡る議論、いかにも青春って感じで初々しいですが、それだけじゃないんです。感情という不明な世界をどうにか表現して渡り歩いていくという恋愛の試みそれ自体を書くことで、恋物語の面白さを再確認させてくれる。本作の魅力はここです。

誰かを好きになったりならなかったり、付き合ったり付き合わなかったり、別れたり別れなかったり、別れたと思ったらくっついたり二度とくっつかなかったり。結果だけ言葉にするとありふれてて決まり切ってて、なんてつまらないんでしょう。ですがそこに血の通った感情、心のうねりがあればこそ面白くなるわけです。雨雪が降った新月の晩、眠れない真夜中、ふと起きると雲は立ち消え空には一面の大きな星々、初めて星のことを知ったような心持ちになる……。「月をこそながめなれしか」とは星の美しさに気付いた瞬間を清新に描いた名歌ですが、本作の情緒はそれに通じます。心を語るという行為がいかにドラスティックに世界を開示し変えていくか、理解らされてしまいました。

好きとは何か? 後輩の恋の行方はどうなるのか? 
果たして先輩の思念の群雲は晴れ、宇宙に燦然と光る星《ピストル・スター》を見ることはできるのか?
どうか貴方も星のように眩く瑞々しい二人の交流をじっと眺めてみてほしい。