美容院より床屋さん (恋愛)
私がやって来たのは、行きつけの床屋さん。椅子に座ると、顔なじみのお兄さんがハサミを手にして後ろに立つ。
「ミサちゃん、いつもうちに来てくれているけど、たまには床屋じゃなくて、美容院で切ってもらいたいって、思ったりしないの?」
お兄さんの言いたい事は分かる。アタシももう高校生。周りの友達の多くは美容院に行って、オシャレで可愛い髪型にしてもらっているもの。だけどアタシが髪を切ってもらうのは小さい頃から決まって、この床屋さんだ。
「いいの、アタシはここが好きなんだから」
「ありがとう。それで、今日はどんな感じでいく?」
「うーん、お任せする。その代わり、ちゃんと可愛く切ってよね」
「ふふふ、責任重大だな」
優しい手つきで髪に触れながら、そっとハサミを入れていくお兄さん。
本当は、美容院に興味が無いわけじゃないけど、だけどいいの。だってここだったら間違い無く、好きな人が可愛いって思う髪に、切ってもらうことができるから。
「それにしても、ミサちゃんもすっかり綺麗になって。男子が放っておかないでしょ」
「そんなこと無いよ。……気になっている人はいるけど、全然脈無しだし」
「そっか……。その子、勿体ない事してるなあ。もしも俺が同級生だったら、絶対にミサちゃんのこと、好きになってたのに」
「へ、へえー、嬉しいなー。ふふふ、ありがと~」
同級生じゃなくたって、好きになってもいいんだからね。
鏡を見ても、目に入っちゃうのは自分じゃなくて、ハサミを動かしているお兄さん。
好きな人にたっぷり髪を触ってもらえるなんて、こそばゆくて心地いい。とっても幸せな一時です♡
※『千文字以下の小話たち』、これにて一端完結にします。だけどまたいつか、しれっと復活させるかもしれません。
今まで読んでくださって、ありがとうございました。
千文字以下の小話たち 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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