実験

@mizutarou

第1話

「また失敗だ。」

P博士はそう呟いて唸った。

彼は一つのフラスコの中に、多様な菌を共存させる研究をしていた。

「今度はどうしたんです?」

「ああ、Q君、今回も同じだよ。」

P博士は頭を抱えている。

「この鞭毛を持った菌が凄まじい勢いで増殖して遂には周りの菌を殺し始めてしまうのだ。」

P博士は続ける。

「途中まではそれぞれバランス良く増殖したんだが、この30分ですっかり狂ってしまった。中々上手くいかないものだね。」

助手のQは困ったように言う。

「そう落ち込まないで下さい、P博士。必要ならお手伝いしますよ。」

P博士は幾分元気になったようで、

「じゃあすまないがQ君、このフラスコを加熱処理してきてくれ。また最初からやり直しだ。」

菌の入ったフラスコは加熱され、綺麗に殺菌された。


遠い惑星にもまた、異星人の科学者がいた。 

科学者のRは結果を見て、呟いた。

「ああ、今回もダメだったか。 

多様な生物を共存させるのがこうも難しいとは。」

同僚のSが気の毒そうに尋ねる。

「君がご執心だった、あの惑星系の第3惑星かい?」

「うん、途中までは上手くいったんだよ。僕が送り込んだ微生物は多様な生き物に進化して、それぞれ共存していたんだ。」

Sが不思議そうに言う。

「それならどうして失敗したんだい?」

Rはうなだれて答える。

「ほんの5万年ほど目を離した間に、この気味の悪い猿みたいな生物がぶくぶく増えたんだ。今じゃ惑星中に広がってる。」

「こいつらは増えすぎて他の生物を滅ぼし続けてるんだ。しかも今や仲間内で互いに殺し合っている。」

Sは納得したようにうなずいた。

「そりゃあ完全に失敗だな。まあ気を落とすなよ。」

Rは肩を落として呟いた。

「仕方ないが、もう一度やり直すよ。S、悪いけどあの惑星を加熱処理してくれないか。」

Sはうなずいた。

「ああいいとも。綺麗さっぱり最初からだな。」


地球の気温は急速に上がり始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実験 @mizutarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る