恋人同士

 カエデの家につくと、自分たちの下着や衣類、女バスのビブス等を全自動洗濯機に放り込んでからから、二人でお風呂に入って、いろいろなレクチャーを受けた。


 しかし、いきなり女子の体になって女の子同士でお風呂入る状況に、シオリは混乱し、恥ずかしくて、レクチャーどころではなかった。

 

 カエデはそれでも、構わずレクチャーを進め、隙さえあれば、シオリに抱きついたり、体を触ったりした。


 カエデとは、体格差も筋力差もあるので、シオリは抵抗するのを既に諦めていた。


 大きな湯船に手を繋いで並んで浸かる。


 カエデは言う。

「はずかしい?」


 シオリが返す。

「……あたりまえだよ」


 カエデが嬉しそうに言う。

「可愛い」

  

 カエデは、空いてる手をシオリの顎に手を据えると、シオリにキスをした。

 カエデの甘いキスにシオリは抗えなくなっていた。


 カエデが言う。

「シオリ嬉しそうだね。よかった、すっかり私の彼女になってくれてる。

 ちゃんと、私の体も触ってよ。恋人同士でしょ?」


 シオリの手を取り、カエデの胸やお尻、股間などに手を当てさせた。

 シオリは、初めての感触に恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「ほんと可愛い」

 カエデは、シオリにもう一度、甘いキスをした。


 カエデが言う。

「じゃ、さっきの場所、自分の意思で触ってみて」

 

 シオリは、一瞬固まったが、おずおずと手とのばして、カエデの体に触れて行った

 カエデもシオリを真似て、嬉しそうにシオリの体の同じ場所に触れて行った。


 シオリは、自分がカエデと同じ女性であることを嫌なほど自覚させられた。



……



 入浴や着替え、ヘアケア、スキンケアなどのレクチャーを終え、

 夕食を済ませると、二人はカエデの部屋に行った。


 部屋の隅には、シオリの荷物が積んであった。


 カエデが言う。

「じゃ、シオリの荷物の中身、一通り把握しておこっか」


 そう言うと、カエデがバッグを開き始めた。

 衣類や下着、日用品類がたくさん入っていた。

 その全てがいかにも女性向けのものだった。


 カエデのレクチャーが始まり、どう使うのか具体的に説明してくれた。

 実際に実演もしてくれ、練習もさせられた。

 一通りレクチャーが終わると、カエデが言う。


「これからアユミとビデオ通話するけど、言葉使いに注意してね。

 あと、男子のことは苗字に君付けね。

 アキト君だけはアキト君て呼ぶこと。

 女子は、アユミと私は名前で呼び捨て、それ以外は苗字で呼び捨てね。

 わかった?」


「うん。でも男子に君付けしてたっけ?」


「うん。入れ替わりの準備期間に3人でいる時はそうしてたの。

 シオリのイメチェン計画にはアユミにも協力してもらってるの。

 シオリの交友関係はいまのところうちらだけだから、気にしないでいいよ。

 あと、わかってると思うけど、入れ替わりのことは黙っててね。

 変なこと口走ったら、私、本気で怒るから。

 ちゃんと前向きに女子に染まるように努力すること。

 あと、うちらが付き合い始めたことは私から説明するから、余計なこと言わないでね。

 アユミとアキト君のことは、親友って立場で祝福して心から応援すること。

 約束できる?」 


「……うん、わかった」

 シオリに拒否権はないのだ。


「いい子だね、愛してる」


 カエデはシオリを抱き寄せてキスをした。

 

 カエデは、一頻ひとしきりキスを堪能すると、満足そうにシオリをベッドに座らせ、ノートパソコンを取り出して、ビデオ通話の準備をした。


「つながった? ヤッホー、アユミ」


 スピーカーからアユミの声が聞こえた

<ヤッホー、カエデ。つながってる、映像も大丈夫だよー>


 カエデは、ノートパソコンをテーブルの上に載せて向きを調整すると、シオリの隣に腰掛けて、手を絡めてきた。


<お、シオリ。ヤッホー。可愛くなってるね。その部屋着、似合ってるよー>

 アユミがシオリに話しかける。

 アユミとはほとんど会話したことがなかった。

 カエデがひじでシオリを促す。

 シオリが恥ずかしそうに口を開く。


「ヤッホー、アユミ。ありがとう」


 アユミが返す。

<うふふ、シオリってば、すっかり可愛くなっちゃってる。

 カエデのレクチャーの成果かな?>


 カエデが返す。

「まぁね、今日はみっちりレクチャーしたから完全に女子モードだよ。

 かなり変わったでしょ?」


<うん、別人かと思うくらい、女の子っぽくなったね。

 よかったね、シオリ。可愛いよ>


「あ、ありがとう……」


<恥ずかしがってるー。可愛いなぁ>


 カエデが返す。

「ダメだからね、シオリはもう、私の彼女なんだからね」


<え? もしかして?

 そっか、すごく仲良さげだと思ったらそうういことだったのね。

 二人とも、おめでとー。応援してるからね>


 カエデが返す。

「ありがと、思い切ってカミングアウトしてよかった。

 アユミ本当にありがとね。気持ち悪がらずに支えてくれて」


<何言ってるのよ。親友じゃない。応援するに決まってるよ。

 それに、アキト君のこと、ありがとね。

 ついに想いが実ったよ。

 カエデ達が協力してくれたおかげだからね。

 本当に彼から告白されるなんて思わなかった。

 ありがとね。今日は最高の一日だよ>


 シオリは複雑な心境だったが、何も言えなかった。

 カエデが強く手を握ったのだ。

 無言の圧力だった。


 カエデが言う。

「で、アキト君ってどんな感じだった?

 期待通り?」


<期待以上かな。初めて話すとは思えないくらい話しやすくてさ。素敵な彼氏だよ>


 シオリは思った。自分だったら期待以上なんかになっていないだろうと。


「よかった。〝二人〟ならお似合いになれると思ってた。

 大事にしなよ」


<うん、もちろん。もう花火大会に誘われちゃった。

 浴衣の用意しないとだよ>


「そうなんだ、よかったね。

 うちらもいくから一緒に途中まで行こうよ。

 浴衣姿の記念撮影しようね」


<もちろん、でも、女の子同士だと危なくない?

 大丈夫?>


「大通りを歩いて行けるから大丈夫」


<そっか、なら安心だね。

 楽しみだねー。

 シオリは今日はだいぶ静かだね? どうしたの?>


 シオリが答える。

「え? あ、うん……」


 カエデがフォローする。

「ビデオ通話前にいろいろあったの。

 恥ずかしがってるだけだから気にしないで。

 キスしたらすっかり乙女モードだよ」


<……え? もうしたの? はやくない?>


「お泊まり中だし、我慢できなくない?

 一緒にお風呂に入ったばかりだし」


<まぁ、それもそうか……女子同士だしね。

 でも進んでるなぁ、羨ましい。

 仲良さそうに手を握ってるしなぁ。

 なんだか私だけ取り残されてる気分。

 キスか……いいなぁ。

 憧れちゃう>


「花火大会でいい思い出作りなよ」


<だねー。でもリードしてもらえるかなぁ?

 流石に自分から誘うのは無理だし>


「彼、大丈夫、そこらのヘタレ男子とは違うと思うよ。

 絶対狙ってくるって」


<だといいな。楽しみにしておこう>


 そのあとも、数時間ほどだらだらといろいろな話題についておしゃべりをした。


<それじゃまた明日。お幸せに!>


 カエデが言う。

「アユミもね。また明日」


 シオリが言う。

「また明日」

 


 カエデがノートパソコンを片付ける。


 シオリが言う。

「ぼ……私、おかしなこと言わなかった? 大丈夫?」


 カエデが答える。


「初日にしては悪くないかな。

 そのうち話題にも慣れてくると思うしね。

 あとは、ちゃんと自分のことは〝私〟って言うようにしてね。

 なんどか危なかったよ」


「ごめん、気を付ける」


「誰が?」


「私」


「よろしい。

 じゃ、寝る前に女バスのマネージャーの仕事内容のおさらいしよっか」


「……うん」


「元気ないね、どしたの?」


「もう、プレーできないのかなって」


「そっか、でももう転向しちゃったからね。

 でも、練習前に早めに行ってちょっと遊びでやってみる?

 アキト君はそうしてたよ」


「え? 私もいいの?」


「もちろん。でもさ、筋力がまるで全然ちがうから怪我しないように気をつけなよ」


「わかった、ありがと」


「けど、プレーヤーへの復帰は無理だからね。

 うちの女バス、強豪だし、平均身長かなり高し。

 私ですら平均ギリギリだし、運動神経抜群のアキト君ですらレギュラーに入るどころか、ユニフォームすらもらえなかったから。シオリがアキト君だったときのプレーは、あの身長と体力が前提になってるのだから、同じことしてもまるで通用しないよ。女バスのレベルを男バスより低く見てるのかもしれないけど、性別のハンデキャップが段違いなんだからね。今のシオリは、前のシオリに遠く及ばないって思ったほうがいいよ。前のシオリの運動センス半端ないんだから。明日、男バスでみんな驚くと思うよ」


「……私の技術、そんなに通用しないの?」


「うん。かわいそうだけど、プレースキルはたいして高くないもの。身長と体力だけって感じ。うちの女バスのみんなはそれを補って今のレベルにあるんだから。考えても見なよ、大会の成績、女バスは上位の常連で優勝だってしてるんだよ? 男バスは中堅でしょ? もし、身長と体力が同じだったとしても、ベンチ入りすらできないと思っていいよ。でも、アキト君の場合は、才能はトップクラスなのに、身長と体力に恵まれなかったんだよね。頑張って筋トレしても筋肉、全然つかなくてさ、ほんとかわいそうだった。性別まで恵まれなかったのだから」


「……わかった、覚悟しておく」


「もしさ、マネージャーするのが辛いようなら、退部していいからね。

 大会の時は応援にきて欲しいけど、自分の彼女に辛い想いはさせたくないしさ。

 シオリは私のそばにてくれればそれでいいから」


「……退部か……バスケには関わっていたいな」


「なら、切り替えて、マネージャー頑張ろ? 仕事のおさらいしようね。

 シオリは、マネージャー向きだと思うんだよね」


 二人は、マネージャーの仕事内容のおさらいをした。

 メンバーの顔写真と名前や性格なども事細かに覚えこまされた。やることも多く、想像以上に大変な仕事だった。しかもできて当たり前の雑用あつかい。少しのミスも許されない、奉仕活動なのだ。


「女バスの顧問、厳しいからね。ボヤってしてると叱られるよ。中途半端な気持ちならマネージャーも諦めて、退部したほうがいいからね」


「……わかった」

 

「そろそろ、寝よっか」

 カエデがシオリの手を引いて、ベッドに誘う。


「いっしょ?」


「当たり前でしょ。

 でも、明日の練習にひびくから普通に寝るだけだよ。

 ついにシオリを抱き枕にして眠れる日が来るとは、最高の日だよ。

 元アキト君、シオリになってくれてありがとね、大切にするから」


 カエデは、そう言うと、シオリをベッドに押し倒した。

 明かりを消し、シオリに抱きつく。

 

「いいにおい、幸せ。おやすみ、私のシオリ。これからよろしくね」


「……おやすみ。カエデ、こちらこそよろしく」


 二人は軽くキスをすると、甘い香りに包まれながら、すぐに寝息を立てた。


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