転機

 

 シオリは、翌朝、カエデと早めに体育館へ行って 1 on 1 をやらせてもらった。


 しかし、まるで歯が立たず、心が折れまくった。

 カエデは、優勝争いに食い込む強豪校の主力選手だ。

 隙がなく、プレッシャーも段違いで、シオリは、男バスの優勝常連校と試合した時を思い出した。シオリは、自分との格の違いを思い知らされた。


「ね、わかったでしょ? シオリじゃ相手にならないよ。

 アキト君はその体で私といい勝負してたんだからね?

 バスケに関わっていたいなら、マネージャー頑張りな」


 シオリは、半泣きになりながら言う。

「……うん……そうする」


 シオリは気持ちを切り替えて、マネージャーの仕事に取り掛かった。


 練習が始まり基礎練習が終わった頃、男バスのコートが大騒ぎになった。


 アキトが大活躍していたのだ。

 

 普段は男バスに興味すら示さない女バスの顧問も、今のアキトを見て感心していた。


 シオリはコートの隅でモップを持ちながら、泣きそうな気持ちを必死に抑えていた。

 今のアキトが眩しすぎたからだ。

 アユミと付き合い、バスケもダントツに上手で、過去の自分も今の自分も完全に否定されているように感じた。


 シオリは堪えきれなくなり、体育館から飛び出した。

 校舎裏、誰もいない多目的コートの水道にいくと、嗚咽した。

 涙が止まらなくなっていた。

 

 今のアキトに、全てを奪われた気持ちでいっぱいだった。


<……なんで、ぼくがこんな目に合わなきゃいけないんだ>


 大人の女性の声がした。

「フルカワさん? 大丈夫?」


 でも、嗚咽が止まらなかった。


 大人の女性は、シオリを抱きしめて背中を摩ってくれた。


 シオリは一頻ひとしきり泣いたあと、お礼をいって、水道で顔を洗った。


 大人の女性は、美術部の顧問、カワスミ先生だった。

 美術部の部室から心配そうにシオリの方を見ている女子生徒が何人かいた。


 シオリは、体育館へ戻ろうした。


「フルカワさん、ちょっと話そっか」

 カワスミ先生に引き止められた。


「でも、女バスのマネージャーの仕事を放り出してきちゃったから、早く戻らないと」


「フルカワさん。部活より、自分を大切にしなきゃダメ、今は、その時だよ」


 カワスミ先生は、スマホを取り出すと、どこかに連絡を入れた。


<カワスミです。今、フルカワさんと一緒にいるところなのだけど、体調が悪いみたいなの。今日は私の方で預かるわね。それじゃ>


 女バスの顧問に話を通してくれたらしい。


 シオリは、美術準備室に通され、冷たいお茶を入れてもらった。


 カワスミ先生は、シオリの隣に座ると、優しく尋ねた。

「落ち着いた? なにがあったの? 話せる範囲で話してみて?」


「……辛くなって我慢できなくなっちゃっただけです」


「何が辛かったの?」


「……自分の実力不足かな……でも、バスケに関わろうとおもって、マネージャーになったけど、みんな上手で輝いてて……」


 シオリはまた泣き出してしまった。


「そっか、辛かったね」

 

 カワスミ先生はしおりを抱きしめてくてた。


 しばらくそうしていたあと、カワスミ先生が言う。


「すこしバスケから離れてみよっか?」


「え?」


「少しの間だけだよ。気持ちの整理ができるまでまってから、また向き合って見たら?」

 

「でも、どうしたらいいか……」


「絵、描いてみる? 美術部で」


「絵ですか?」


「うん。いい気分転換になると思うよ」


「でも、何を描けばいいか……」


「なんでもいいのよ。今見てる風景でも、心の中のイメージでも」


「なんでも……ですか」


「どう? やってみる?」


「でも、美術部の女子とは交流ないし、私、孤立してるから」


「大丈夫、うちの子達はそう言うの関係ない子しかいないから。

 みんな穏やかで優しい子達だよ。

 さっきだって、フルカワさんのことみんなで心配してたのよ?」


「……ほんとに?」


「うん。ついてきて」

 カワスミ先生は、そういうと美術部の部室に案内してくれた。


 中には、8人の女子がいた。

 カワスミ先生のいうとおり、みんな穏やかで優しそうな子たちだった。


「ちょっと事情があって、フルカワさんを、しばらく美術部で預かることになりました。みんな仲良くしてあげてね」


「「「はぁい」」」

 女子達は笑顔で答えた。


「……よろしくお願いします」

 シオリは頭を下げた。


 カワスミ先生がいう。

「それじゃ、バスケ部に私物とりいこっか。顧問の先生にも話しないとだから」


 シオリはカワスミ先生について体育館へ向かった。

 

「制服に着替えて、私物をもって美術部にいっててね」


 そういうと、カワスミ先生は、女バスの顧問の先生のところに向かった。

 シオリは、部室に行って、制服に着替え、私物をまとめて、美術部へ向かった。

 練習中だったので、女バスのメンバーと鉢合わせることはなかった。


 途中、背後から声をかけられる。

「シオリ、女バスの練習終わるまで待ってて。一緒に帰ろうね」

 カエデだった。


 シオリは振り返って、答える。

「……うん。わかった」


「大丈夫?」


「うん」


「じゃまたね」


「うん」


 シオリが、美術部の部室へ入ると、みんなが歓迎してくれた。

 女バスと違いほとんどの子の身長はシオリと同じくらいだった。


「フルカワさん、よろしくね」


「フルカワさん、席用意したよ、ここ座って」


「フルカワさん、シオリってよんでいい?

 うちの部みんな下の名前で呼び合ってるの」


「うん」


「やった。よろしくね、シオリ」


「私もよろしく、シオリ」


「よろしく」


 同学年の女子はシズク、ミユキ、アズサ、ユカリの4人だった。

 

「よろしくね、シオリ、久しぶりだね。下の名前で呼び合うなんて」


 そういったのは、シズクだった。

 シズクは、そう言うと、自分の椅子をシオリの隣に移動した。


「え? あ、うん、そうだね、よろしくね、シズク」


「まさか、久しぶりすぎで、わすれてた?」


「いあ、そんなことないよ」


「もう、親友だと思ってなのにな……超ショック」


「ごめんごめん、いろいろあって混乱してるだけだから」


「そっか、そうだよね、大丈夫?」


「うん、大丈夫、みんな優しいね、ありがと」


 4人は、シオリを交えて、部活動そっちのけで、おしゃべりに夢中になった。

 途中、カワスミ先生がきて、シオリに転部届を書かせて出ていたっが、みんなは気にせず、おしゃべりをしていた。


 シズクが言う。

「うそー。いま、マツタニさんのところにお泊まりしてるの?」


 シオリが返す。

「うん、イメチェンしようと思って、カエデのところで修行してるんだ」


 シズクが言う。

「ならうちおいでよ。もう女バスから離れたのだし。

 女子力ならマツタニさんよりあたしのが上だよ。いろいろ教えてあげる」


 シオリが返す。

「そうもいかないよ。たくさんお世話になってるし。

 それにシズクの家にも悪いし」


 シズクが言う。

「まーそっか、でも、また一緒になれるとはなー。

 あたしはうれしいよ。

 シオリ、孤立してるみたいだったから、心配してたんだよ。

 なんであたしを頼ってくれなかったの?

 待ってたんだからね?」


「ありがとね、シズク。これからはよろしくね」


「まかせて」


 美術部の活動時間は短く、あっという間に終了してしまった。


 シズクが言う。 

「シオリ、いまからどうするの?」


「カエデと待ち合わせしてるから、ここで時間潰すつもり」


 シズクが言う。 

「なら、あたしも付き合うよ。どうせ暇だし。途中まで一緒に帰ろ?」


「え? あ、うん。でも、カエデが気にするかな?」


「マツタニさんなら大丈夫でしょ。社交的だしね。

 ついでに超美人だし」


 二人はスマホを開きながらおしゃべりをしていた。

 みんなが帰宅したのを見計って、シズクが切り出す。


「シオリ、小2の頃の約束覚えてる?

 あたしさ忘れたことないよ」


「……えーっと、その。ごめん」


「あんた誰? シオリじゃないでしょ?」


「え? あ、えっと……」


「正直に答えて」


「……うん。ちがう」


「で、誰?」


「信じてもらえる?」


「うん。シオリじゃないのわかるし」


「タキモト=アキト」


「……うっそ、タキモト君なの!?」


「うん、昨日、入れ替わったばかり」


「なんでまた?」


「フルカワとマツタニにおまじないに協力して欲しいって言われたから、ついていったら交換されちゃった。信じてくれる?」


「うん。たしかにタキモト君っぽい雰囲気はあるね。

 そんなこともあるんだね。でもなんでマツタニさんと同居してるの?」


「うん、もう戻れないから、女子のことレクチャーされてる」


「ひどいね。それで、泣いてたのか……」


「うん、全部奪われた気がして、どうにもならなくなった……」


 シオリは泣き出し始めた。


 シズクはシオリを抱きしめてあげた。


「ごめん、私、男なのに泣いてばかりで……」


「気にしないでよ、女子は涙腺ゆるいからさ。

 いろいろ詳しく教えてくれる?」


 シオリは、昨日からのことを細かく説明した。


「そっか。

 まぁ、シオリはしかたないか。

 もともと男子になりたがっていたしね」


「そうなの?」


「小二の時、いつか男の子になって私をお嫁さんにしてくれるって約束したの」


「そうなんだ……」

 

「まぁ、普通は理解できないよね。

 てか、シオリって、ウエノさんに恋しちゃってたのか。

 普通に可愛いからなぁ。

 うーん、これは失恋というのだろうか? どうおもう?」


「私に聞かれても……」


「……そうだよね。

 でも、マツタニさん、ゆがんでるね。

 好きな男子を無理やり女の子にして彼女にするとか」


「でも、優しくしてくれるよ」


「ほんとにそれでいいの?」


「じゃ、他にどうすればいい?」


「それもそうか。

 てかさ、シオリっていまタキモト君になってるんだよね?

 私はどっちが好きなのかな?」


「私にわかるわけないじゃん」


「やっぱりさ、あたしの家に来なよ。

 マツタニさん、やばそうじゃない?」


「……確かに、私もおかしくなっちゃいそう」


「でしょ? シオリの両親にまで取り入ってるし。

 あたしの家に避難して様子見た方がいいと思うよ?

 本当に恋人になるにしても、いまは距離が近過ぎると思う。

 女子のことはあたしがレクチャーするから。

 マツタニさんに言いづらいなら、私が言ってあげるよ」


「いいの? でも、荷物がたくさんカエデの家にある」


「二人で運べる?」


「かなり無理かも」


「パパに頼んで自動車出してもらうよ」


「いいの?」


「うん。中身が違っても親友には変わりないし。

 それに、いまのシオリ、普通に女子っぽくて可愛いと思う」


「シズクまでそういうこと言う?」


「戻るのはあきらめたのでしょ?」


「うん、一人でどうにかできることじゃないしね」


「なら、いいじゃん。親友になろう? シオリ」


「ありがとう、シズク」



……



 カエデは、練習終了後、美術部の部室に向かった。


「シオリ、いる? おまたせ」


「どうぞ入って」

 シズクが答える。


 カエデは、部室に入る。

「イチジョウか。シオリは?」


「シオリは今日から、あたしの家にお泊まりするから」


「何言ってるの?」


「話は全部、シオリ……前のタキモト君から聞いてる。

 今のタキモト君はともかく、マツタニさんは歪みすぎじゃない?

 本当に今のシオリと恋人になりたいなら、距離おきなよ。

 シオリはお人形や奴隷じゃないんだよ?」


「他人が口を挟まないでくれる?

 シオリは私のなんだから私の好きにする」


「シオリは私の幼なじみなの。

 シオリが別人になってるのくらいすぐわかった。

 今のシオリとはさっき親友になったから、もう他人じゃないし。

 それにシオリの両親にも、マツタニさんの両親にも了解は取ったからね。

 荷物もあたしの家に移動させた。

 私、女子同士の恋愛は肯定派だから、恋の邪魔するつもりはないけどさ、

 今のマツタニさん、側から見てやばいよ?」


「やばいって……ちょっと先走った感はあるかもだけど……」


「節度を持って恋愛しなよ?

 でないと会わせないからね」


「……わかった。

 シオリには連絡するから電話出てって言っておいて。

 あと、毎朝、迎えに行くから」


「了解。でも、しばらくは二人っきりにさせないから。

 私が立ち会うからね」


「わかった」


「じゃ、シオリに会わせてあげる。ついてきて」



 ……



 シオリは、シズクとカエデと合流するため、待ち合わせ場所のカフェにいた。

 スマホにはカエデからの着信師歴がたくさんあった。

 シズクから、<マツタニさんに電話してあげて>というメッセージがきたので、カエデに電話をした。

 ワンコールで出た。

<シオリ? いろいろごめんね、先走りすぎちゃった。

 でも大好きなの、恋人でいてくれる?>


<うん……わかった。気持ちは嬉しいから大丈夫。これからもよろしくね>


<ありがと、大切にする。愛してる>


<うん、私も>


<すぐ向かうから待っててね>


<わかった、気をつけてね>


<うん、またね>


<またね>

 シオリは、そういうと、電話を切った。


 しばらくすると、カエデとシズクがやってきた。


 カエデは、急いで会計を済ませ、シオリの隣に座り嬉しそうに、しおりの手を握った。


 カエデが言う。

「おまたせ、キスしたいけど我慢だね」


 後から来たシズクがいう。

「すご、がっつきすぎ。

 これは引くわ。

 てか、なんでそんなにゆがんでるの?」


 カエデが返す。

「え? 歪んでないよ。

 今のしおりが普通に好きなだけ」


 シズクがいう。

「……訳わかんないし、どうでもいいわ。

 それよりさ、二人に相談があるのだけど」


 カエデが返す。

「なに?」

 

 シズクがいう。

「私さ、結婚の約束するくらい昔のシオリが好きだったんだけどさ。

 いま、どっちが好きなのか混乱してるんだよね。

 男が好きなのかな? 女が好きなのかな?」


 カエデが返す。

「どっちにしても割り込む余地はないよ」


「わかってるけど、私の恋愛事情的にどうなのかなって思ってさ。

 マツタニさんは、昔のシオリは恋愛対象じゃなかったんだよね?」


「うん。ただの親友だよ。アキト君になってもただの親友」


「すごいね、ブレないね。歪みきってるね」


「歪んでない」


「シオリはどう思う?」


 シオリが答える。

「うーん、男子になるの前提での約束だよね。

 なら、男子じゃないかな?」


 カエデも答える。

「私もそう思う。だからシオリじゃないのは確か」


 シズクが答える。

「やっぱそうか。これは失恋か……」


 カエデがいう。

「でも、アキト君に幼なじみがいたとか初耳なんだけど、

 なんでひとりにさせちゃったの?

 可哀想すぎない?」


 シズクが答える。

「私さ、一時、転校してたのよ。

 それで、帰ってきたらシオリと接点がなくなってさ。

 話しかけても苗字で呼び捨てされちゃって他人行儀で超ショックだった」


 カエデが返す。

「あー、そういうことね。

 多分、巻き込みたくなかったんじゃないかな、イチジョウのこと。

 アキト君、優しいから。

 私とアユミが、アキト君と仲良くなるのもかなり苦労したしね。

 部活一緒じゃなかったら親友にはなれなかったと思うし。

 でも、アキト君、アユミのことが好きになちゃったけどね」


 シズクが答える。

「ウエノさんとか相手が悪過ぎ。

 性格まで良過ぎる才色兼備の完璧女子じゃん。

 学園カースト最上位でしょ……」


 カエデが返す。

「いまやアキト君も学園カースト最上位だしね。

 あのカップルには誰も手が出せないと思うよ」


「だよね……」


 3人はしばらくおしゃべりを楽しんでから、シズクの家に向かった。

 カエデとシズクは下の名前で呼び合うことにした。


 途中、カエデが言う。

「シズク、ちょっと、まっててくれる?」


 シズクが言う

「どうしたの?」


 そう言うと、カエデは、シオリを路地裏に連れ込んで、甘いキスをする。

 シオリは抵抗できずに受け入れるしかない。


 シズクが言う

「うはー、何やってるのよ」

 

 カエデが言う。

「もうすこしだけ……」

 

 カエデは何度も甘いキスを堪能すると満足そうに路地裏から出てきた。


 シズクが言う

「見てる方が恥ずかしいわ」

 

 カエデが言う。

「まだ足りないけど、明日に取っておく。

 それじゃ、またね。二人とも。

 シオリ、夜に映像通話しようね」


 そう言うと、カエデは別れて自宅へ向かった。


 シズクが言う 

「すごいね、肉食系だね。

 シオリの〝彼氏〟」


 シオリは、恥ずかしそうにうなずく。

「……うん」



 ……


 

 シオリとシズクは、シズクの家に到着すると、シズクの両親に挨拶してから、夕食の手伝いをした。その後、一緒にお風呂を済ませ、シズクの部屋で、荷物の再確認をしていた。


 シズクが言う。

「すごい可愛いのばかりだね。シオリの両親は、よっぽど嬉しかったんだろうね」


 シオリは言う。

「そうだろうね。理想の女の子になれるかわからないけど、後戻りはできないし、がんばってみるよ」


 シズクが言う。

「あ、浴衣もあるね、そういえば、花火大会行くんだっけ?」


 シオリが言う。 

「うん。カエデから誘われてる」


 シズクが言う。

「そっか、じゃ、浴衣の着付けの練習しようか」


 シオリが言う。 

「わかった。でも、ハードル高そう」


 シズクが言う。

「大丈夫。バッチリ教えてあげる」


 シズクは浴衣を引っ張り出して、レクチャーをしてくれた。


 レクチャーが終わると、浴衣のまま。

 シオリはスマホを確認した。

 

 カエデからメッセージがきていた。


 映像通話をつなげてみる。


 ワンコールで画面にカエデの姿が表示された。


<シオリ、浴衣きたんだ。にあってる。

 シズクもいい仕事するね。

 ちょっと待ってね、私も着替える> 

 

 そう言うと、浴衣を引っ張り出してきて、カメラの前で着替え出した。

 

 着替え終わると、カエデが言う。

<どうかな?>


 シオリが答える。

<にあってる。とても素敵。

 着付けの手際がいいね、すごいな>


<ありがと。シオリ可愛いな、抱きしめたい>


 しばらく話を楽しんだ後、シオリがシズクから呼びだされたので、通話を終了した。


 シズクが言う。

「宿題、進んでる?」


 シオリがハッとする。

「私は進めてたけど、今の私の状況は確認していない……」


「だと思った」

 シズクがまっさらなノートを見せてくれた。


「これって、私の?」


「うん。入れ替わるの前提で、丸投げされたね……」


 シオリは頭を抱えた。

「えー、ここまでやってないの?

 やり直すしかないか……」


 シズクが言う。

「私の写す?」


「いあ、自分でやらないと意味がないし」


「真面目だね。じゃぁ、明日からは部活が終わったら勉強時間作ろうか」


「うん、気づいてくれてありがとう。いろいろ大変で、意識が回らなかった」


「まぁ、そうだよね。

 別人になっちゃった訳だしね。性別まで変わったし」


「早速、進めておくよ。ほんとありがとね」


「だめだめ、乙女は寝る時間。お肌に悪いから、勉強は明日からね。

 うちの美術部は緩いから、部活中に宿題進めるといいよ。

 絵はさ、イメージが大切だから集中できるときに無理せずやるのがいいよ」


「わかったありがと。絵のこと教えてくれる?」


「もちろん。それじゃ、布団敷いて寝よ」


「うん」


「昔のシオリが戻ってきたようで嬉しいな。ありがとね、シオリ」


「こっちこそいろいろお世話になりっぱなしで、本当にありがとね」

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