wandering:『XVII』-歯車の修正-
小鳥のさえずり
暖かい陽ざし
美味しそうな匂い
死にそうだったこの体が嘘のように楽になった。
「うん……」
「あっ、ますた!目を覚ましました!!」
可愛い声。天使だろうか。
死んだんだろうか。
そう思いながらスノウはゆっくりと目を開ければ、目の前には長いうさぎの耳を垂らした真っ白な女の子がこちらを覗き込んでいた。
スノウが目を開けたのと同時にだれかを呼んでいるようで、その後またスノウの目を覗き込んでは「よかったよかった!」と、嬉しそうにしたが、急にハッとして逃げるようにその場を離れた。
「目が、覚めたようだね。
栄養失調に魔力の使いすぎ、人間にしては多い量の魔力だね。補助が少し疲れたくらいだよ。
今日は休診にして、一緒にお菓子でも食べてもらおう。
それが君からのお代としようかなぁ。」
白衣らしい物を雑に腰に巻き、
スポーツブラに簡単な黒ズボン。
雑な明るい薄茶に、目立つ白と紫と青のメッシュ。
「ここは…」
「貴女を拾ったマリアに感謝しろよ?ここは滄劉にある、俺、コメット様のお家付き診療所だ。」
「(拾った……助かっちったのかぁ。)」
スノウは適当にズルズルとズボンのベルトを引っ張られ、コメットの家に運ばれて治療されていた。
ボロボロだった衣類はもう治すのも叶わないくらい汚くなってしまったようで、違う洋服をいつの間にか着ていた。
「で……、
お前、魔術師だろうと思うがお尋ねものか?それ、変色の術だろう。
かかっている魔力がお前自身のものみたいだし、あんなボロな状態時たら何かに追われてるのかと思ったんだが。
名前は?」
治癒魔法を施している最中に、髪にも魔法がかかって居るのに気づいたのだろう。
「あーー…助けてもらったのに、悪いんですが…あげるものとか特に無くて…そのうちきち〜んとお返しするんで!本当にたすかりました!
じゃあ出ていくんで、さっきの子も怯えてたんで!!」
せっかく治癒をしてもらったところ悪いが、名前を聞かれてホイホイまた元いた場所に戻される訳にも行かないし、あの場所にはまだヤツもいる。
元々情報部だし、スパイだと勘違いされたとしたら痛い目に会うだろう。
ただ名前を聞かれただけではあるが、多少のことでも危機の可能性を回避したかったスノウはとりあえず逃げたかった。
「おいおいおい、何処に行く。
まだ子供だろう、1人でうろつくにはチビすぎる、倒れてた経緯を聞かせろ!」
「っ、?!」
コメットがスノウの手首を引っ張り簡単にベッドに引っ張り戻す。
確かに彼女の背丈も見た目も幼い子供に見えなくもないが、スノウにはコメットの方が子供に見えている。
「あーたこそまだ子供だろう?あたしは大人だ。」
「子供扱いするな!俺はもう16だ!!」
「なんの副作用かは知らないけどその年じゃあ滄劉ではまだ子供だし、
治癒して人の髪のことまで調べたら少しは分かるもんじゃないのか??」
身長も見たぐらいだと2人とも余り変わらない。
どちらかと言えばコメットの方が小さいように見える。
「はぁ、なにいっ」
「あたし、20超えてんだよね。」
「・・・・・・・マジか。」
コメットは信じられないと言った顔で目を見開いた。
スノウは辺りを見回す。
広い家に、子供が二人。
そしてこのしずかさ。
「……コメット…ちゃん?もしかして、親はお出かけ中?
ご両親にも迷惑かけちゃうから早くあたし、出てったほうがいいんじゃないかなぁ。」
「パパとママは死んだ。今はこの家は俺が守ってる。大事な俺の家だ。」
家事はマリアがよくやっているがな!!と、何故かドヤ顔なコメットはよく分からないが、
こんな子供2人だけで、しかも診療所と言ったからにはこのコメットという人物がまだ幼いのにも関わらず働いているのであろう。
顔に傷や絆創膏の跡が大変な日々を送っているということをスノウに気づかせる。
「…しかたないなぁ。」
「?」
(遠いし、森の中だし…ここまで来れば問題ないだろう。
この2人をほっといてまた放浪するのも大変だし、移住食を一時的に借りてもいいかもしれない。)
正直スノウも少し歩き回り疲れていたこともあり、休みを必要としていた。
「経緯を話してあげる代わりになんだが、ちょっとお願いしたいことがあるんだよ。」
「おう?」
「そのお願いなんだけどさ_________ 」
こうして、スノウは暫くコメット宅に一時的に住み着くようになった。
群に就職することになったのはそれから暫くした後で、
外で数日キャンプしていたら、マリアとコメットが群に仲間入りしたことを聞き、
群の様子が自身の安全を更に保てる所だと分かったスノウは、コメットの勧誘もあって群に入り就職。
少し心配ではあるが、たまに見に行けば良いと考え、群の空き部屋に住むことになった。
彼女はここでも引きこもりを決めこむことになっていった。
溶けない雪の放浪 あとわと @AtWt_01
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