第4話 蛍
あるさみしい夜に、わたしは蛍を取りに裏山に行った。
いつもついーついーと飛んでいるはずの蛍が今日にかぎっていない。
ただただ真っ暗闇の山道を、あてどもなくわたしは進んだ。
やがて、曲がりくねった沢のどんづまりで、わたしは、巨大な蛍に出会った。
四トントラックほどの大きさの蛍が、こちらにおしりを向けて、まばゆい黄色の光をゆっくりと明滅させている。
ほう、とわたしは息を吐いた。
この蛍を、どうやって連れて帰ろうか。
そのとき、天から巨大な二本の指が現れて、大きな蛍をつまみあげた。
蛍の光が夜空に広がり、はるか天上にそびえ立った巨大なものを、ぼうっと照らした。
浮かび上がった顔は、わたしだった。
蛍を取りに来た大きなわたしの目が、蛍の灯を映している。
わたしの意識はそこに吸いこまれるように消えていった。
やっと見つけた蛍が、手の中に光っている。
ずっと音がなかった山に、虫たちの声がもどってきた。
――わたしは、ここでなにかとてつもないものを見た気がしたが……。
しかしそれがなにかわからず、わたしは蛍をにぎりしめて、道を引き返した。
みじかい話 これる @agric20
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