第三十七話
僕は北へ向かい、懲りずに大学時代の思い出の場所に行った。
そこにあったのは、ただの思い出で、これからを導くものではなかった。
やはり誰かが言っていたように、自分の中には何も見つけられないのかもしれない。これ以上自分を探すのはやめ、最終地点として約束通り咲季の元を訪ねた。
「それで、君は、何か見つけたのかい?」
咲希が僕に尋ねた。
彼女の髪は一年前よりもずっと伸びていた。
「うん…。そうだねえ」
僕は言葉を探す。
「僕は、傷つくことを恐れて、自分で道を選ぶことから逃げていた。たくさん可能性があるのに、いくらでも自由なのに。幸せなんて自分で決めることなのに」
咲希は黙って聞いている。
「それとね、おばあちゃんの葬儀の時に昔のことを色々思い出したんだ。昔おばあちゃんちで見た自然の美しさや、目に見えないものへの畏怖。そして誰かの気持ちを想像して泣いてしまっていた僕のことを」
「そうだね。君は人のことを思いやる、そういう優しさを持っているよね」
咲希が静かに相槌を打つ。
「そして思い出したんだ。何よりも、誰かとお別れするのがとっても辛かったってことを。だから…、君とは…お別れしたくないんだ。今は何も持っていないけれど、君のために、そして僕のために生きたいんだ」
「それ何?プロポーズ?」
僕は曖昧に首を振る。
「まあいいや…。わかった。それが君が選んだ生き方なんだね」
今度は首をしっかりと縦に振る。
「安心してよ。私はどこにも行かない。君は持ってないわけじゃないよ。気付いてなかっただけ。君の中にたくさん詰まっていたでしょ?おばあさんのお葬式、泣いた?」
「たくさん」
「そう。良かったね」
咲季は優しく微笑んだ。
「で?私にいいお土産あった?」
僕は鞄からラピスラズリのネックレスを取り出し渡した。
「うわぁ、綺麗!何だか空飛べそうだね」
「その宝石にはとても複雑な物語があるみたいなんだ。おばあちゃんが夢を見た何かなのかも知れない。だけど、真実はもう誰にもわからないんだ…。ともかく、それは君に良く似合うと思って貰ってきた。とても深い青でしょ?それに、天の川のようにキラキラ光っているんだ…」
咲希がラピスラズリを空に透かして見ている。とてもきれいだ。
青のトロイメライ @ukonno
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