白川紺子「九重家献立暦」(講談社)

小学校の卒業式の日、家に帰ると母が駆け落ちしていなくなっていた……

その日から茜は母の影に囚われたまま、生きづらさを抱えながら生きています。

そんななか、好きでなかった故郷に帰ることになるのですが、祖母しかいないはずの実家にいたのは、母の駆け落ち相手の息子、仁木くんでした。

母に、娘に、父に、捨てられた3人暮らしが始まりますが……


静かな切なさと、柔らかな優しさに包まれてページをめくった物語でした。

茜も仁木くんも千代子さんも、しなやかさを感じさせながらも、どこか弱くて、でも、そこが愛おしかったです。

完璧じゃなくても、日々、小さな優しさを重ねていく、そんな物語を読んでいたらなんだかあたたかくて美味しいものが食べたくなりました。

この物語には、質素だけど、丁寧な食事がたくさん出てきます。

本音を伝えることが苦手な、不器用な3人がいっしょに台所にたって作って、いっしょに食卓を囲むのです。

身体に滲み入るように、心を溶かすように、食事を積み重ねていくのがとても素敵でした。

大切な人と食卓を囲みたくなる優しい作品でした。

食事のシーン、日常のシーン、こんなふうに描けたら素敵だなぁ。

憂いがすべてなくなるわけではないし、過去は変わらないけれど、これから紡いでいく未来も確かにある。

現在を積み重ねて、前に進んでいく。

背中をとんっと押してもらった気がします。

わたしもそんな作品、書いていきたいです。

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