「劇的」ではなくとも、幸福であること
- ★★★ Excellent!!!
全体を通し、さらりとした印象を受けました。
非常に読みやすく、程よく肩の力の抜いて読める文体だと思います。
ボリュームも約3,000字と軽く、個人的には大変好ましいです。
処女作とのことですが、これらを意図せずに書かれたのであれば素晴らしく、意図して書かれたのであればなお素晴らしいと思います。
また読者に共感させるという点で特に優れていると感じました。
主人公はある日、今日は自分という物語の「最終回」だと直感し、それ故に今日という日を幸福に終えようと試行錯誤します。
その中で、主人公は「ハッピーエンドとは」について、思案します。
ラブコメなら恋愛成就、冒険譚なら彼の地への到達、戦記ならば勝利と平和…
今 神ひな川への投稿を考えている人にとって、「ハッピーエンドとは何か」という思案は自身と重なる事かと思います。
「誰でもいいから付き合いたい」と言えるほど恋愛脳でも、恐らくは軽薄でもなく、「金のためになりふり構わない」事を良しとはできない、真面目な性根であろう主人公。
フィクションはあまりにも遠く、かといって物語になる程のドラマがあるリアルでもなし。うだうだとあれやこれや考えるうちに過ぎ行く時間、冷凍のチャーハン、無造作に引き抜かれる充電器。
ゴールではなく、スタートとしてのエンディングすら手に入らない一日。
この無造作でありながらリアリティのこもったディテールは非常に好ましいです。
そして「結」で物語は転換し、これが大変小気味よいものになっています。
それまで描かれたものと地続きであり、対照的であるこのエンディングは、この脚本の中で主人公が得られなかったものであり、迎えられなかったものなのではないでしょうか。
冒頭で述べた通り処女作と思えぬ程まとまりがよく、読みやすい一作です。
大変楽しませていただきました。ありがとうございました。
P.S.
なんというかシンプルにこういうの好きなんですよね。
特別ではない、平凡な人間がゆるゆると生きる日々を切り取ったり、外出を「ドアを開けた」「起き上がった」ではなく、「スマホから充電ケーブルを引っこ抜いた。」と表現するあたり。
もう5回位読んだのであと7回くらい読むと思います。
好みの文章が見られて嬉しいので筆者には今度何かお小遣いあげようと思います。