第2話
小走りに教室を出ると丁度他クラスから出てきた部隊員と合流した。
「西嶋少尉、補佐スーツは?」
「校門前に到着した模様です。」
「分かった。」
一刻を争うかもしれないと判断した私は廊下の窓を開け、飛び降りた。他の部隊員達もそれに続いた。
「もう!河野准将!何も言わずに飛び降りないでください!あなたとはスペックが違うんです!」
「何言ってんの橘中尉。軟体化体質の中尉には容易いでしょう。」
「そうですけどー。」
高所恐怖症とまではいかないが高いところが得意ではない橘中尉はムスッとした。
「河野准将、橘中尉。私語は謹んでください。」
その言葉で橘中尉はむきになった。
「もう。相川中佐は固いですね!仕事は怠りませんからいいじゃないですかー。そんなんだから女の子にモテないんですよ。」
「か、関係ないでしょう!」
「ふん!」
校門前に到着した部隊員達が補佐スーツを着用する。
因みに、補佐スーツとは個体の能力を引き出せやすくするもののため、人によって着用する補佐スーツは違う。
すると合流した鯉川中将から詳細を聞かされた。
「本件は緊急なものであることから現地から最も近い君たちを招集した。相手は暴動軍で銃刀等の小型武器のみだと推察される。相手に交渉の意思がなくこちらの命を狙っている場合限り殺人も許容とする。判断は河野准将に一任する。」
「鯉川中将は?」
「私は暴動軍のデータを本部に持っていき、そこで指揮を執る為、残れない。」
軍の情報の多くは機密であるため手動でもっていかなければならない。
「承知しました。では本官、並びに西嶋少尉、櫻田少尉、橘中尉、相川中佐は午前十時二十七分現在、現地へむかいます。」
「健闘を祈る。」
鯉川中将の敬礼とともに皆敬礼した。
「相川中佐、敵の位置は?」
「少しお待ちください。」
相川中佐は振動を過敏に読み取れる特異体質。半径一キロ圏内の蟻が歩く振動でさえ任意で読み取れる。こんな能力、敵に回すと脅威だと常々思う。
「直線距離七十八メートルの南南東に十二名います。手練れは後方に二人。指数はどちらも五十前後と思われます。」
「五十か・・・。では西嶋少尉は前衛を、櫻田少尉と橘中尉は手練れの片方を、相川中佐は位置情報共有と遊撃、本官は手練れのもう片方を担当とします。」
「承知しました。」
四人の声が重なり各自担当場所に移動する。本隊が迷わず向かうことに対し暴動軍は位置がばれていると知り、焦り始めた。
「なんでばれている⁈」
「焦るな!」
後ろの手練れと思われるお願いいたします。大男の威圧的な声が響く。
「ボス!進化組と思われる一人が突っ込んで来ます!」
「まず防御して能力を見ろ!」
だが西嶋少尉が単独で敵の前衛の防御を無視して次々と氷弾で撃ち抜いていく。
彼は肉体の温度を操作して指の先端を極度に冷却し、空気中の水蒸気から水、氷と作りだす。そして何度も素早く温度変化させ指にとどまれなかった温度を空気中に放ち、気圧の変化をつくりだして氷弾を加速させ飛ばすことが出来る。
「あっちが弾を使うならこっちも弾を使え!全滅させろ!」
それを聞いた私は部隊員に殺傷許可を言い渡した。
「全官に言い渡す!殺傷許可を下す。」
「承知しました!」
今まで四肢を狙っていた西嶋少尉の氷弾は心臓に狙いを変えた。
「櫻田少尉、橘中尉、本官たちも行きましょう。」
「はい!」
私は相手のボスと思われる大男の背後に回り、地面を蹴って前宙する。その反動で足に勢いをつけ、後頭部に一発――――。
「え?」
大男は後頭部に入った足を気にも留めず、こちらを睨んだ後ニヤリと口角を上げた。
ヤバい!
後ろに引こうとしたが反応を遅らせてしまった。
その隙に大男に私の足を持たれ、背負い投げのように前に倒された。
「っ!」
どういうことだ。こいつ・・・
「流石天才准将様だ。もう気づいたか。」
男は薄ら笑いのままそう言った。
「お前、アーマー特異体質―――進化組だな。」
私の蹴りは生身の肉体じゃ防げない威力で確実に仕留めに行ったはずだった。
「ご名答。だが、もう一歩だな。」
言われた瞬間はなんのことだか分らなかったが、すぐに気がついた。
「そういうことか。天才准将様だっけ。私の階級まで認知しているということは部隊員・・・イヤ、その能力は元部隊員、森永軍曹だな。」
「perfect.」
「何故お前がそっち側なんだ!」
森永は私が十歳のころ十一歳で同時に部隊に入った、いわば同期だ。
だがある日忽然と姿を消した。
まさかこんなところで再開となるとは。
「同期の中でも飛び抜けて・・・いや、部隊の中でも飛び抜けていたお前にはわからないだろうな。」
「では八つ当たりか?」
「否定はしねぇ。だが違ぇな。そんな理由なんぞ最後の後押しでしかねぇ。」
「話が見えない。」
「まぁそうだな。せっかくの再開だ。助言してやる。あんな部隊、直ぐに辞めろ。」
森永の顔が少しこわばった気がした。
しかしすぐに薄ら笑いに戻った。
「bye.」
ヤバい、逃げられる!
私はスピード重視のスライディングキックで足を捉えにいった。
「森永!」
だが一瞬で森永はブゥンと消えた。森永の手下たちも同時に。
テレポートか!
「くそっ!逃がしたか・・・。」
「河野准将!」
「櫻田少尉、今回は逃がしてしまったが生徒に危害が無かったと思えばいい方だ。」
「はっ。」
私達は着替えて教室に戻った。
教室に足を踏み入れた瞬間、凛花が飛びついてきた。
「良かったー。」
「凛花・・・。大丈夫だよ。あと・・今授業中だよ。」
「あ!」
凛花は教室を見渡してから顔を真っ赤にして席に着いた。
任務が終わった後こんなにホッとしたのは始めてで嬉しかった。
私も席に着いて授業を聞いた・・・のではなく聞くふりをした。
そもそも授業は難しくて分からないから後でハルに教えてもらう約束をしている。初めは皆凛花が教えれば?っていう話だったんだけど運動も出来る凛花は部活に入ることになりそうだからと、ハルになった。
授業を聞かずに何を考えているか。
勿論さっきの任務のことだ。
森永はテレポートを使っていた。普通なら有り得ない。
テレポートを使うには座標登録する機械が必要になる。そもそも進化組の能力は個人の体を操作することができるだけだ。魔法やエスパーの類までは不可能である。だがその機械を起動させる為には部品の希少価値から一国の予算の半分位の資金を要する。
今所有しているのはアメリカの国営研究機関と暴動軍が最も有力か。
だが組織の幹部でないと使えないはず。最も組織内でもスパイに気にする必要があるからだ。
どちらの組織であろうが森永は幹部程の役職であるのだろうか。
否。
まずありえない。森永程度の実力なんて大きな組織にならいくらでもいる。現に部隊での階級も軍曹までだった。
もしアメリカでも暴動軍の所有物でもないものがあるとするなら、見えないところに第三勢力があるということになる。
森永はどこまで手を出し、何を知っているのだ。
キーコーンカーコーン。
急に耳に入ってきたチャイムの音で河野准将からC組の河野咲夜に戻った気がして全身の緊張が解けた。
「咲夜―。」
「ん?」
振り返るとハルがいた。
「今日家くる?」
「いいの?」
「全然いいよー。その方がリラックスして勉強も捗るだろうし。ホームルーム終わったら待ってて。」
「分かった!」
二人とも帰る準備をする為に席に戻った。
友達の家なんて初めてで楽しみだな。
ホームルームが終わった後、私たちは校門を出て駅に向かった。
「にしても南校も変わってるよねー。」
「まぁ私たちの様な人を受け入れるからねー。」
「んー、それもあるけど、始業式も教室でだったりだとか。」
「あぁ、それは私たちがいるからなの。」
「どういうこと?」
「えっと、まず、敵対してる組織を暴動軍っていうんだけど。」
「うん。」
「暴動軍はそもそも進化組に対して敵意の敵意から暴動を起こしてくるの。だから本来一般人には危害を与えないんだよ。」
「なるほど。」
「でも標的の私たち進化組がいて体育館みたいなところに集中すると万が一人質とかにされるかもしれないでしょ。」
「そういうことだったの。でもその代わり二十分ずつのオリエンテーション授業があるのは助かったなー。いつも儀式系の間に授業すればいいと思ってたから助かる。」
「す、凄いね。勉強なんて頭が痛くなるよ。」
「そう?でも咲夜も今からするんだよ。ここ家。着いたよ。」
そう言ってハルはポケットから鍵を取り出してドアを開けた。
「入って。」
「お、おじゃましまーす。」
「フフッ、誰もいないよ。」
ハルは微笑んでドアの内鍵を閉めた。
「突き当り右の部屋に入って。」
「わ、分かった。」
言われた通り突き当り右の部屋のドアを開けた。
「失礼しまーす。」
わあ、綺麗な部屋。モノトーンを基調としていて青が何箇所かに散らばっている。
私の部屋は軽いトレーニング器具と資料で部屋が埋め尽くされているからなんか新鮮だった。少しは見習おう・・・。
「わぁ。」
「わぁ!」
気を抜いているところ、後ろから急に声が聞こえて飛び上がってしまった。
「もう!驚かさないでよー。」
「ごめん、ごめん。硬直してるものだから、つい。お茶持ってきたよ。座って。」
「あ、うん。ありがとう。」
二人とも席に着いて用意をした。
「じゃあ、はじめよっか。」
そうして、しばらく今日の授業内容を復習していった。
進化の未来 羽海 凪 @nagi-integral
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