進化の未来

羽海 凪

第1話

 二十二世紀後半、急速な人類増加により数々の問題が浮き彫りになっていた。

 食糧問題を筆頭に資源不足、地球温暖化とその他多くの問題を抱えたまま時間が過ぎていた。

 そんな中、人類もわずかながらではあるが進化が進んでいた。淘汰が行われていない状況下で個体の差は歴然としていた。

 そこで世間は進化で能力の上がった者を進化組として一目置いていた。だがそれと同時に進化組に対して個体差は差別に繋がると世界各地で暴動も起きていた。

 暴動を起こす方も頭は悪くない。歴史とともに兵器もコストや威力が見違えるほどに上がっていた。いつの間にか禁止されていたはずの、それもルールを無視した戦争が起こるようになっていた。

 そして各国は自国を守るため任意の進化組を集め、「国防特殊機動部隊」を発足した。


 入学式。私、河野かわの 咲夜さくやはこの春、国立南桜台高校五期生として校門をくぐる。十歳のころから国防特殊機動部隊として戦いの最前線で戦ってきた。国立というからには頭の良い人たちが多い学校だが私の様な部隊員で勉強面が弱い人達が部隊から推薦でほぼ確約してくれる学校でもある。

 だから私も勉強は出来ないんだよね。

 高校以前から部隊に属している人は一国に五十人前後いる。この学校では基本のクラス分けは一般生徒と部隊員を分けずにクラス構成されている。いくら学習面が弱いとはいえ一学年に五人程度しかいないため、同じにせざるを得ない。

 一年C組 十番。私は登校時刻の十五分くらい前に教室についた。登校日初日だ。早めについたからとはいえクラスメイト三十人のうち、二十人近くが既に教室でだべっていた。私は自分の机に荷物を置いていると近くに来た三人の女子に話しかけられた。

 「おはよう、これからよろしく!」

 「よ、よろしく!」

 急に話しかけられ少し驚く。

 ずっと部隊に属していてそもそも学校に行く日が少なかったため友達と会話というのは非日常だったのだ。

 初めに話しかけてきたのは茶髪でハーフアップの可愛い子だった。

 「この席だと凛花に近いね。名前なんていうの?」

 「えっと、河野 咲夜!」

 「へー咲夜か。なんかカッコイイね。呼び方咲夜でいい?」

 「うん、えっと」

 「あぁ、こっちの自己紹介まだだったね。私は九条 美南みなみ。美南でいいよー。」

 美南が言い終えた後美南の左肩からひょこっとボーイッシュな子が出てきた。

 「ウチは佐久間 凛花りんか!これでも地元ではぶっちぎりで成績トップやったんよ。でも入試は三位だったん。もうへこんだわー。やっぱ世界は広いと感じたわ。」

 「おいこら凛花め。三位でも充分だろが。あ、私は三國 波瑠はるね。ハルでいいよ。」

 「そうだぞ凛花、三位でも栄誉だわ。でも過去問より難しくなかった?今年。ね、咲夜。」

 そう美南から話を振られるも、どう返せばいいかわからなかった。最難関校のこの学校に合格する為に色々なものを犠牲にしてきたはず。なのに推薦で入試受けてませんなんて、ただでさえ進化組でよく思わない人いるのにいいのかな。

 でも隠し事はよくないよね。もしそうだとしても元に戻るだけだね。そう元に戻るだけ。

 「その、あのね、私受けてないんだ、入試。国防特殊機動部隊員で。す、推薦でこの学校に・・・。」

 そう言ったあと沈黙の間があった。他のクラスメイトも国防特殊機動部隊という言葉に反応してこっちに視線を送ってくる。

 「国防特殊機動部隊・・・。え、すごない?」

 「え?」

 凛花の思いもよらぬ言葉にビックリした。そして教室の角でたまっていた集団の中からその中でも目立っていた茶髪の男子が教室中に聞こえるくらいの大きな声で言った。

 「C組の部隊員はあんただったんだー!へー女子なんだな。てっきりいかつい男子かとおもってたわ。よろしくー!あ、俺、菅野 たつなー。」

言い終えた後、普通にまた元の男子集団と明るく話し始めた。

ふっと緊張が解けた。

いい人たちばかりで良かった。

肩を撫でおろすと同時に担任の先生らしき人が入って来て皆席に着き始めた。

チャイムが鳴り終えると先生が話し始めた。

 「初めまして。富士見 愛美です。今日からC組の担任になりました。担当教科は数学Ⅰです。よろしくね。」

 パチパチパチと拍手が響いた。

 「んー、まだ少し時間があるね。じゃあ皆自己紹介しましょうかー。青木さんからお願い出来る?」

 「はい。青木 拓也です。勉強より運動の方が得意です。よろしくお願いします。」

 パチパチパチ。

 「えー。石ヶ谷・・・」

 順番に自己紹介していき、とうとう自分の番になった。

発表形式は視線が集まるから苦手だ。

 その視線が自分と違う奴とか、人を殺したことがある奴とか、そういうものを見る目に思えてしまう。

 落ち着け、咲夜。このクラスなら大丈夫。

 私は自分に言い聞かせて席を立った。

 「えっと、河野 咲夜です。勉強は全然できなくて、登校日も少なくなってしまうかもしれませんが、よ、よろしくお願いします。」

 パチパチパチ。

 拍手の音と斜め前にいる凛花からのピースサインで安堵した。

 自分の番が終わったことに意識がいっていたからその後からの自己紹介はほとんど聞けていなかったけど。

 「山口 晃大です。得意科目は・・・」

と、残り最後の数人までという時に突然、ガラガラと教室前のドアが開いた。そこには見慣れたガタイのいい男の人がいた。

 「鯉川中将!」

 思わず叫んでしまい、クラスメイト全員の視線が向けられる。

 鯉川中将は部隊の先輩だ。

 「河野准将、貴官に出動を命じる。」

唐突な出動要請に戸惑いを隠せなかった。

 「え?今日は非番のはずです!」

 流石に登校初日から出動は嫌だった。

せっかくできた友達との学校生活を楽しみにしていたのだ。

 でも鯉川中将の次の言葉でそんなこと言っている場合でないと分かった。

 「出動場所はこの校舎裏だ。」

 「え・・・?一体何があったんです?」

 「暴動軍が直接攻撃を仕掛けてくる。他クラスにいる西嶋少尉、櫻田少尉、橘中尉、相川中佐にも出動命令を出したが他学年の登校日は明日からで要請に時間を要する。直ちに補佐スーツを着用し、出動すべし。富士見先生、校舎に被害はまず及びません。授業再開は可能です。ですが、万一の場合は連絡しますので他の生徒と共に避難してください。」

 富士見先生は少し不安そうな顔を隠し、頷いた。

 クラスはざわつき始めた。出動場所が校舎裏と聞こえたのもあるだろう。

 「・・・。わかりました。直ちに向かいます。」

 富士見先生にアイコンタクトで確認をとり、席を立つと斜め左前にいる凛花が

 「大丈夫なん?」

と声をかけてきた。

 「大丈夫だよ。」

と心配させないように返した。


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