第11話 商業都市エービス

 周囲が少し暗くなりつつある頃合いに俺達はエービスにたどり着いた。アラマスを出たのが早朝で、今が日暮れ間近、時間にしてほぼ半日という旅路だった。

 ゲームではイベント含めて、数分で到着するのに、随分と時間が掛かった。今後もこの調子だと移動だけで数日かかる場所もあるだろうな。洞窟や山などのダンジョンだとどれくらいの時間が掛かるかな‥‥‥‥まあ、その辺りは今後考えよう。


「うわあ‥‥‥‥人がいっぱい」

「あわわ‥‥‥‥人が多いですわ」


 エービスに入って、人通りが多いところ、いわゆる表通りに出ると、人が多い。

 商業都市エービスは西大陸でも比較的大きな都市で、交通の要所でもあった。北は港に、東は王都に、道が繋がっている。そのため、人が集まりやすい立地のため、商売が盛んにおこなわれ、現在の様な繁栄をみせたそうだ。

 さて、エービスにたどり着いたことだし、早速色々見て回りたいところだが、今日はもう休みかな。


「アリシア、疲れたか?」

「うん‥‥‥‥ちょっと疲れたかな」


 アリシアは疲労困憊のようだ。先程まで只管喋っていたが、エービスに着いたことで疲れが出たんだろう。そうなると、今日の宿を探さなくてはならない。


「じゃあ、今日は休めるところを探そう。明日は朝からスクールに行こう。いいですかライルさん?」

「ああ、分かった。じゃあ、今日の宿は俺が紹介してやるよ」


 ライルの先導に従い、俺達はエービスの街中を進んでいく。

 周囲の様子を見ると、出店が出ていて、非常にイイ匂いがしてきた。

 俺も腹減ったな、そう思っていると‥‥ぐうー、という音が鳴った。


「あれ?」


 俺かな、と思ったが、違うな。アリシアかな、と思って見ても、アリシアと目が合った。アリシアも俺かな、と思って見たようで、アリシアではない。ライルさんかな、と思ったが、どうもそうではないらしい。‥‥‥‥となると、


「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」


 俺とアリシアはサマンサに視線を向けたら、サマンサが俺達とは逆の方を見た。

 俺達は察して、サマンサから視線を逸らした。


「ここだ」


 そうこうしていると、目的の宿に着いたようだ。宿はそこまで大きな宿ではなく、真新しい建物ではない。だが、汚いという感じは全くしない、丁寧に大切にされてきたのが良く分かる。


「入るぞ」


 宿の中に入ると、若い女性が威勢よく対応してくれた。


「いらっしゃいませ、あれ、ライルじゃない?」

「よ、ミレイナ。4人で一晩泊りで頼むわ」

「四人? あれ、今日はパーティを組んでる仲間じゃないのね、珍しい」

「ああ、俺と同じ村の出身の子が二人と道中で会った子が一人だ。明日スクールに連れて行くんだ」

「へえ、アンタも大きくなったね」

「同い年だろ」

「あ、そうだった」


 そう言ってお互いに笑いだした。

 二人の軽妙な掛け合いはその後も続いた。俺達は二人の間に入れず途方に暮れていた。漸く落ち着いたようで、俺達を見て気まずそうにしていた。


「あ、ごめんなさい。いやあ、ライルが来るといつもこんな感じなんだよね。アタシとライルのスクールの同期でさ‥‥」

「ああ、いつもこんな感じだ。まあ、同期だしな、友達、というか戦友みたいな、なんかあるんだよ」

「あ、自己紹介まだだったね。アタシはミレイナ。ライルとスクール時代同期だったんだ。君たちの先輩になるわ」

「俺はブレイブです」

「アタシはアリシアです。ほら、ご挨拶」

「うぅ‥‥サマンサです」


 やっぱり年上には弱いようでオドオドとしか話せないサマンサ。今後が心配になるな。

 

「よし、改めまして‥‥いらっしゃいませ、お泊りは4名様ですね。お食事はご入用ですか?」

「ああ、食事付きで頼む」

「畏まりました。お食事はすぐにご入用ですか?」

「ああ、直ぐに頼む。みんな腹減らしてるんだ」

「はい。では左の食堂にご用意いたします。どうぞこちらに」


 俺達は彼女の先導に従い、食堂に移動した。


 食堂に着くといくつかテーブルがある。そのテーブルの中から4人掛けのテーブルに探し、其処に座った。

 俺とライルさんが隣りに座り、向かいにサマンサとアリシアが座る。


「では、少々お待ちください」


 そう言ってミレイナは厨房に入っていった。後は食事を待つだけだ。

 椅子に座り、一息つけて気が抜けたのか、サマンサがうとうとしだした。頭がフラフラしだして、帽子が落ちた。


「え?」


 アリシアは驚きの声を上げた。

 サマンサの帽子の下からは光輝くような銀髪が広がった。サラサラとしていて、ランプの明かりが反射して幻想的な光景に見えた。

 

「あ!」


 サマンサが帽子を落としたことに気づいて、急いで広い被ろうとした。だが、遅かった。


「うわぁぁぁ‥‥キレイ‥‥」


 アリシアはサマンサの髪を見て、感嘆の声を上げる。女性から見ても羨望の眼差しを向けられるほどの幻想的な光景なのだろう。


「きゃあ!? ちょっと何するのよ、アリシア!?」

「いいじゃん、ちょっとくらい触らしてよ。うわあ、スッゴイ滑らか、ねえねえ、三つ編みとかしていい?」

「イヤよ! ちょっと、帽子返してよ」

「折角の綺麗な髪、隠すなんてもったいないよ。それにとっても綺麗な顔」

「ううう‥‥‥‥いやっ、ちょっと、放して‥‥」

「うわあ、眼も綺麗なサファイアブルー、真っ白な綺麗な肌、銀色の綺麗な髪‥‥スッゴイよ。ほら見て、ブレイブ、サマンサ、スッゴイキレイなの!!」


 アリシアが興奮のあまりサマンサの顔を両手で掴み、迫っている。

 両方とも美少女なだけに、いかがわしい気持ちになる。とりあえず、このままだと、サマンサが限界を迎えそうだ。先程から、顔が真っ赤だ。色白だから尚わかりやすい。


「はあっ‥‥落ち着け、アリシア」


 俺は椅子を立って、アリシアの背後に回り、腕を掴み上げた。


「ちょっとブレイブ、放してよ! サマンサもっと触りたい!」

「サマンサが嫌がっているだろう。いいから落ち着け!」

「うっ!!」


 頭に一撃、軽くチョップした。これで正常に戻ってくれればいいんだが‥‥とりあえず、アリシアの場所は移動させるか。


「ううう‥‥ブレイブの意地悪‥‥」

「はいはい、意地悪、意地悪‥‥」


 恨み言を吐くアリシアを無理矢理引っ張り、先程まで俺が座っていた椅子に乗せた。対面にサマンサがいるがテーブルを乗り越えてまでは行かないと思う。代わりにサマンサの隣に俺が座った。


「大丈夫か、サマンサ?」

「ううう‥‥、大丈夫じゃないわよ‥‥」

「‥‥すまん」


 今度はサマンサに恨み事を言われたが、甘んじて受け入れ、謝罪した。

 いや、俺が悪いわけではないが、何か申し訳なくて、思わず謝っていた。


「ねえ‥‥」

「うん?」

「何も聞かないのね‥‥」


 サマンサの質問は酷く抽象的だ。これでは、何を聞け、と言うのかまるで分からない。だが、この状況で聞いてきているのは、


「その髪の色と瞳の色、珍しいな」

「‥‥へえ、それくらいの反応なんだ‥‥」


 色の事だろう。

 この世界で、銀色の髪なんて、早々いない。蒼い髪や紅い髪、栗色に金色なんかは平気でいるが、銀色は全くと言っていい程いない。

 サマンサの銀色の髪はキャラ設定上の問題かと、当初は思っていたが‥‥‥‥実は違う。だが、その秘密が分かるのはずっと先だ。俺がそのことを知っているのは矛盾が生じる。だから、このまま知らないで通した方がいい。


「お待たせしました、当店自慢のディナーです」


 そうこうしていると、食事の準備が出来たみたいだ。

 テーブルに並べられるのはイイ匂いがするシチューだ。

 

「うわあ、おいしそう!」

「ま、まあまあね!」


 二人は実に嬉しそうに、食事が並ぶのを待った。俺も腹が空いたのと、イイ匂いがするので、今にも腹が鳴りそうだ。


「じゃあ、明日からスクールで頑張れよ。今日は俺のおごりだ、しっかり食えよ」

「わあ! ありがとう、ライルさん。いただきます!」

「あ、ありがとう。‥‥い、いただきます。」


 アリシアは勢いよく、サマンサはやや、おっかなビックリしながら食べ始めた。

 俺もライルさんのおごりに感謝して、一口一口、味わって頂いた。うん、実にうまい。気づけば御代わりをしていた。



 はあ、満福だ、腹いっぱい食べることが出来た。そうすると今度は眠くなってくる。見ると、アリシアもサマンサも非常に眠そうだ。


「ハハッ‥‥今日は疲れただろう。明日はスクールだ。早めに休んで明日に備えろ」

「ええ、そうします。ライルさん、おやすみなさい」

「ああ、お休みブレイブ」


 俺はライルさんに取ってもらった部屋に移動し、ベッドに入った。

 ああ、遂に明日はスクールか、漸くクラスレベルを上げられる。これで一気に強くなれる。早くクエストを受けたいし、ダンジョンにも行きたい。強い武器は欲しいし、カッコイイ鎧なんかも欲しい。楽しいエンジョイプレイはこれからが始まりだ。明日が楽しみだな。

 


 日の光で目が覚めた。

 目がスッキリと覚めた。もう、自分がブレイブなのか、生前の****なのか、気にもしなくなった。ただ今日を精一杯楽しむことだけを目指して、やっていくだけだ。


「おう、起きたか、ブレイブ」

「おはようございます。ライルさん」

「おう、ミレイナが朝食を用意してくれてるぞ、早く食って来い」

「ライルさんは?」

「俺は先に食べてきた。ちょっと準備とかあるから、少し出てくる。お前らが朝食食べ終わるまでには帰ってくるからな」


 ライルは身支度を済ませると、部屋を出て行った。

 俺も朝食を貰おうと思って、部屋を出て食堂を目指した。


「あ、おはようブレイブ」

「やっと起きたわね、遅いわよ」


 アリシアとサマンサが先に朝食を食べていた。それともう一つ、朝食が用意されていた。

 俺は用意された朝食を食べるべく、椅子に腰かけた。


「おはよう、よく眠れたか?」

「うん、元気いっぱいだよ!」

「ええ、問題ないわ」


 二人は体力万全のようだ。なによりだ。今日は昨日以上に大変かもしれない。気を引き締めないとな。しかし‥‥


「‥‥‥‥」

「な、なによ!」

「いや、今日は帽子被ってないんだな」


 そう、サマンサは昨日はあれほど帽子を脱がなかったのに、今日は朝から脱いでいる。銀色の髪を一纏め―――いわゆるポニーテールにしている。

 それを仕掛けたのは‥‥


「うんうん、キレイな髪なんだから帽子に隠しているなんて勿体ないよ!」

「‥‥‥‥このテンションに押し負けたのよ」

「‥‥‥‥すまん」


 被害者であるサマンサに加害者を止めれなかった者として謝罪せずにはいられなかった。ああ、そうか、ブレイブもきっと申し訳なくて謝ってたんだな。


「アハハッ‥‥仲いいね、アンタ達」

「ミレイナさん、おはようございます。あ、朝食ありがとうございます」

「ああ、おはよう。今日からスクール行くんだから、しっかり食べないとね。ほら、今日のお昼の分も作っておいたから、今日一日頑張んな、後輩!」


 俺達一人一人に昼食を手渡してくれた。


「ありがとうございます。ミレイナさん」

「わあ、お昼が楽しみ」

「あ、ありがとう、ございます」


 さて、朝食も食べ終わったし、お昼も貰った。後はライルさんを待つだけだな。


「おーい、ブレイブ、アリシア、サマンサ。朝食食べ終わったか」


 ライルが食堂に入ってきた。


「はい、全員食べ終わりました」

「じゃあ、そろそろ行くか。ミレイナ、世話になった」

「また来なよ、待ってるからさ」

「ああ、じゃあな」


 ライルとミレイナの二人は少し寂しそうに別れて、俺達は外に出た。


「さて、スクールに行くぞ。こっちだ」


 俺達はライルの先導に従い、ついて行く。

 街中を歩き、大通りを歩くと、人通りが少しずつ少なくなっていく。大人の数は少なくなっていくのに、代わりに同い年くらいの子供に比率が増えていく。そして、たどり着いた。


「ここがスクールだ」


 大きな門がある。その門の上にはスクールを意味するシンボルが掲げられている。剣と杖が交差し、その上に本が描かれている。

 剣は物理、杖は魔法、本は知識を指している。ここは『剣術師』をはじめとした物理でも、魔法を使う『魔法使い』でも学び事が出来る場所、という意味を持たせている。知識は力、を体現したシンボルだ。

 今日からここで、レベルとクラスレベルを上げて強くなっていける。そうなれば、この世界を思いっ切り楽しめる。さあ、テンション上げていくぞ!

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エンジョイ勢~現地ではヤベェ奴~ あさまえいじ @asama-eiji

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