終
研究所は、跡形もなくなってしまった。瓦礫すら吹き飛ばされ、更地になった。
ルッダの奇跡は、起きなかった。
だが。
衝撃が去った後。
ぽつんと巨大な黒い塊が残った。
土煙がやや収まった頃に、塊がパラパラと砂のように崩れていった。
中から、双子とオジーが出てきた。
ルッダとオジーはボロボロであったが、意識はある。
カリンは。
衝撃が訪れる直前、カリンもまた、大切な人達を守ろうと全力を出した。
これまでルッダと繋がっていた黒い水晶の欠片が、足元に落ちていた。それは、ずっと、世界に一人放り出されたカリンにとってのお守りだった。
初めて、守った。
「カリン!」
ルッダがカリンを抱き抱える。カリンはぐったりして目を閉じていた。顔から身体にかけて火傷のように爛れ、血を流している。
「…ぅ…」
カリンが痛そうに顔をしかめた。生きている。
「カリン!カリン!」ルッダがカリンを抱き締めて泣いた。
ルッダと身体を入れ替えている間に、カリンの肉体の衰弱は治まり、少しずつではあるが回復していた。魔力の行使を練習していたことも活きた。そして何より、力を放出する方がカリンの肉体にとっては良い影響があった。
カリンがゲホゲホと咳き込んだので、オジーが柔らかい土に自分の上着を敷き、彼女をその上に寝かせた。
ルッダが優しくカリンの手を握る。
全身が、呼吸をするのも辛いほどダメージを追っていた。
「これ、使えんじゃねえか」
オジーが懐から、研究所で手に入れていた薬を取り出した。
上体を起こし、少しずつ飲ませてやる。
元来、エルフは治癒能力が高い。
時間をかければ回復するだろう。
自分達を守った術の代償として、カリンの火傷の痕は生涯消えることは無かった。
相変わらず容姿について言及されることを嫌がったカリンだったが、ルッダとオジーにだけは、傷に触れることを許した。
プリズムの光を追って 惟風 @ifuw
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます