盲目な恋⑫




祭りの日を終え、予定通り引っ越した玲汰は新しい学校に通っていた。 盲目でも不自由のないよう造られていて、それでも最初はなかなか慣れなかったが少しずつ順応した。 

柚季の言った“一年”が経ち、学年も一つ上がった。 連絡は取っていたが一度も会っていない。


「行ってきます」


家を出ると、近くのバス停からバスに乗った。 それだけでも最初は大変だったが、今ではスムーズに行える。 通学専用のバスだっという理由も大きかった。


―――柚季先輩と離れ離れになってから、一年か・・・。

―――やっぱり会えないと寂しいな。


電話で声だけは聞いているが、そう思うこともある。 柚季は就活生で忙しく、玲汰もそんな彼女に気を使っていた。

本当は電話も迷惑なのではないかとも思ったが、柚季が『したい』と言ってくれたため頻繁に電話はしている。 バスに揺られていると到着のアナウンスが鳴った。 玲太はバッグを担ぐとバスを降りる。


「今日もありがとうございます」


見えないが、運転手がいるだろう場所は分かる。 頭を下げて降りるのも日課みたいなものだ。


「霧島くん、また帰りにね」


そのままバスから降りようとすると背後から声がかかった。


「ん、霧島? もしかして玲太か?」

「・・・その声は、圭斗?」


圭斗は大学でできた友達の一人だ。 互いに視力がなく環境が似ていることからすぐに仲よくなった。 


「今日は同じバスだったのか! 一緒に行こうぜ」


談笑しながら大学内へ向かっていたが、突然圭斗は用事を思い出したらしく教授のところへと行ってしまった。 玲太は一人で自分の教室まで歩く。 

廊下には点字ブロックが敷かれているし、白杖もあるため一人でも全く問題ない。 だがその時、ふいに誰かに腕を取られた。


「うわッ! え、え、何?」


急に引っ張られそのままどこかへ連れていかれる。 突然身体を触られるのは恐怖でしかなかった。 ようやく相手が止まると恐る恐る尋ねてみる。


「・・・あの、僕に何の用ですか?」


そう聞くと正面から優しく抱き締められた。 その腕の細さや感触は今でも憶えている。 すぐに柚季だと分かった。


「え、柚季、先輩・・・?」

「うん、レイくんお待たせ。 レイくんのもとへ、ちゃんと戻ってきたよ」

「でも先輩、どうしてこの大学に・・・」 

「今はもう先輩じゃなくて、教授だよ」

「ッ、え、教授!? じゃあ先輩が言っていた、新しくなりたい職業が決まったって・・・」

「うん、そう。 ここの教授のこと。 流石に一年間で、新しいことを勉強するのは大変だったけどね。 でもレイくんのために頑張った」

「そんな・・・」

「この一年間、会いに行けなくてごめんね」


そう言って子供をあやすように玲太の頭を撫でた。


「ッ、先輩・・・! 抱き締めても、いいですか?」

「いいよ」

「周りに人、いません?」

「いないところまで来た。 教授と学生がこんなことをしていたら、マズいからね」


それを聞くと玲太は強く柚季を抱き締めた。


「ずっとずっと、会いたかった・・・。 先輩、大好きです・・・ッ!」

「うん、私も大好きだよ。 というか、私はもう先輩じゃないって」

「ごめんなさい。 まだ先輩呼びから、抜け出せないかもしれないです」

「人の前では間違って呼ばないようにね。 レイくんが注目されちゃう。 でもレイくん、甘えん坊なのは変わらないね」

「そりゃあ、ずっと先輩に触れたかったから・・・!」

「・・・私ね。 目が見えない人のこと、たくさん勉強したの。 だから少しはレイくんの気持ち分かってあげられると思うし、手助けもできると思う」

「ありがとうございます。 でも僕も、この一年で目が見えない生活には結構慣れたんですよ。 先輩にしてあげられること、増えたと思います」

「本当? 頼りにしているね」


玲太は手探りで柚季の口元を探り当てた。 スマートにできず不格好な口づけだったが、柚季はそれを素直に受け止めてくれた。





                                                                      -END-



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

盲目な恋 ゆーり。 @koigokoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ