盲目な恋⑪




「これが私の答え。 レイくんは?」


柚季の答えが嬉しくて、でもどこか悲しくて涙が出てきた。


「・・・僕は、いつも弱虫で弱くて、頼りのない男です。 でも先輩にはずっと笑っていてほしかったから、傷付かないように悲しませないように努力してきました」

「うん」

「でも今の僕は、昨日の自分と比べて物凄く劣っています。 元々何もできない男だったのに、今だと先輩を見て行動に移すことすらできない。 だから、先輩にはたくさん迷惑をかけると思うんです。 

 苦しませたり、悲しませたりすると思うんです」

「・・・それで、レイくんの答えは?」


ゆっくり聞いてくれる柚季に、玲太は自分の答えを出した。


「だけどやっぱり僕は、柚季先輩のことが好きで諦め切れません。 こんなにどうしようもない僕が彼氏でも、いいですか?」


その時、柚季の手が玲太の頬に触れた。


「もちろんだよ。 また付き合うことができて嬉しい」

「ッ、先輩・・・。 大好き、本当に好き・・・!」


目の前に柚季がいることは分かっている。 玲太は触れられている柚季の手を取り腕を辿ると、柚季の肩から彼女を引き寄せ抱き締めた。


「ありがとう。 私もレイくんのこと、大好きだよ」


そう言って玲太を子供のように撫でてくれた。 落ち着いた後二人はこのまま帰ることにした。 

夜が遅いというのもあるし、あの二人とまた鉢合わせをする危険があったためあまり長居しない方がいいと考えたのだ。


「あ、そう言えば帰る方法・・・」

「電車で帰ろうか。 駅まで連れていってあげる」


玲太から柚季と腕を絡ませた。 今度は間違わないよう、駅へ向かっている最中は何度も柚季の名を呼んで確認した。 電車賃は二人分を玲太が出すと言い、時間をかけながらも切符を買った。 

玲汰にはそれくらいしかできることがなかったからだ。


「これから、私をまたレイくんのご両親に紹介してくれるんだよね?」

「はい。 それが、僕のけじめです」


電車から降りると手を繋いだまま家へと帰った。 両親には柚季と別れると言ったため、やはり少々不安だ。 それでも今手から伝わるぬくもりを手放したくはなかった。 

ポケットから鍵を探り当て家のドアを開ける。


「おかえり玲太。 外で不自由はなかった・・・! って、柚季ちゃん!?」


迎えてくれた母は玄関にいる柚季を見て目を丸くした。 二人の手が固く結ばれていることも分かっているはずだ。 玲汰には見えなかったが、母はその後穏やかに笑った。 

結局はこんな風になることも予想していたのかもしれない。


「こんばんは。 夜分遅くに失礼します」


母の声を聞いてなのか父も玄関へとやってきた。


「・・・玲太。 これは一体どういうことだ?」


父も柚季と別れると思っていたため驚いたらしい。 その声はどこか怒っているように思えた。


「改めて紹介するよ。 僕の彼女、柚季さんだ」

「玲太、お前なぁ・・・」


父から深い溜め息が聞こえてくる。 だがそんなことは構わなかった。


「僕は柚季先輩と一緒に、人生を共にすると決めた。 この繋いだ手は、絶対に離さないよ」

「まだ子供だからそんな風に言って――――」

「まぁまぁ、お父さん。 いいじゃないの。 玲汰が決め、柚季ちゃんもそれを受け入れたんだとしたら」


父の言葉に母が言葉を挟んだ。 


「玲太くんの目の事情は聞きました。 それを教えられた上で、二人で真剣に話し合って決めたんです」

「大変だぞ・・・?」

「今の私たちなら、これからどんなに大きな壁が立ちはばかっても絶対に負けたりはしません」


その言葉と同時、父が放っていた怒気が急速にしぼんだのを感じた。 


「親御さんが絶対に反対する」

「説得してみせます。 目が見えないことなんて、二人で歩む人生のハンデにすらならないって」

「・・・そうか」


父はそう言うと奥へと引っ込んでいった。 それを見送り母が茶化すように言う。


「本当は嬉しくて仕方ないんだよ。 柚季ちゃんのことはお父さんも気に入っていたからね」

「これから色々あると思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそね。 玲汰のことはかなり大変だと思うけど、見捨てないでやってね」

「はい、もちろんです」

「ッ、先輩ありがとう!」


抱き締めたい衝動を、握っている手を強く握ることによって堪えた。


「こちらこそだよ。 あ、そうだレイくん」

「はい?」

「あと一年、待ってくれるかな?」

「・・・?」



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