盲目な恋⑩
柚季との電話を切るのを見てか、莉津歌が蔑むように言った。
「柚季先輩に助けを求めたの? 一度逃げた人なのよ? 来るわけがないじゃない」
「・・・うん。 でも僕には、もう先輩しかいないから」
正直なところ、柚季すらもうどこか遠くへ行ってしまったような気がしている。 もし目が見えるなら、このままどこかへ走り去りたいくらいだった。
「もし来なかったらどうするの? 来たとしても、もしフラれたらどうするの?」
「そしたら、大人しく一人になってここから消えるよ」
「それって、もう私とはよりを戻さないっていうわけ?」
「・・・うん。 柚季先輩以外は、もう考えられないから」
「・・・」
莉津歌の反応が止まった。 暗闇の世界で何をされるのか分からない。 自分の弱さをひしひしと感じていると、突然後ろから抱き締められた。 莉津歌の気配は相変わらず正面のため、莉津歌ではない。
「・・・レイくん」
「ッ、柚季先輩!? 来てくれたんですね・・・」
「ねぇ、一体何があったの? 三人揃って。 事情を聞かせてくれる?」
玲太が話そうとすると柚季は離れた。
「ちょっと。 貴方たち、どこへ行くつもり? まだ話は終わっていないんだけど」
どうやらここから逃げようとした和也たちを止めたようだ。 “何から何まで世話になりっぱなしだな”と思いながらも、玲太は事情を全て話した。
実験室での事故、莉津歌に振られた理由、祭りでのこと、そして和也のこともだ。
「そうだったの・・・。 てっきりレイくんに、二股をかけられていたのかと思って」
「ち、違います! ・・・だけど、正直に言うと揺れていました。 柚季先輩にこのまま迷惑をかけ続けてもいいのかなって」
「迷惑だなんて思ってないよ。 言ったでしょ、たとえ目が見えなくなったとしても私はレイくんが好きで一緒にいたいって」
「・・・はい。 ごめんなさい」
「分かればよろしい。 ・・・と言いたいところだけど、私が覚悟を決めなかったのも悪いよね。 ごめんね」
「いえ、いいんです。 僕も逆の立場なら・・・」
「・・・逆の立場なら? もし私の目が見えなくなったら、私のことを捨ててた?」
「そんなわけないですよ! 先輩と一緒にいたいし、支えられるなら支えたいです」
「ほら、一緒だよ」
ひとしきり笑顔で話した後、柚季は真顔で莉津歌と和也へ向き直った。
「・・・で、貴方たちはレイくんに何か言うことはないの? ちゃんと謝った?」
その言葉に二人は黙り込んだ。 玲太も怒っている柚季に口出しすることはできない。
「私たちが付き合って、恨んだのはいいとする。 それが普通の感情だから。 でも人に危害を加えるだなんて、人として最低だよ。 私は絶対に和也くんとは付き合えないから。
こんなに呆れることをしたんだもの、仕方ないよね。 あと、莉津歌さんにはレイくんを絶対に渡さないから。 私たちに将来がなかったとしても、人として最低な貴女にはレイくんを渡したくない」
「「・・・」」
「レイくんは、二人に何か言うことはないの?」
「え、僕ですか? いえ、特には・・・」
「本当に? 会えるの、今日が最後かもしれないんだよ?」
「・・・和也が先輩のことがずっと好きだったっていうこと、気付いてあげられなかった僕も悪いですから。 和也が苦しんでいるとも知らずに、僕は先輩と付き合っちゃったわけだし・・・」
「・・・」
「りっちゃんに関しては、フラれた時は確かにショックでした。 でもりっちゃんがフッてくれたおかげで、僕は先輩と出会うことができた。 だから何も文句なんてありません」
「ッ・・・」
柚季は玲太にも呆れたのか、軽く溜息をついた。 だけど玲太の気持ちは変わらない。
「だそうよ。 よかったわね、レイくんが心優くて」
「「・・・」」
「レイくん、行こう。 もうここには用がないから。 あと、レイくんが許しても私は二人を許さないから覚悟しておいてね」
そう言って柚季は玲太の手を引いて歩き出す。 玲太はまだ柚季から返事を聞いていないため、どうしたらいいのか分からなかった。
「え、あの、先輩・・・」
「話があるの。 いいかな?」
「・・・はい」
「さっきね、一人になった時、屋台をぐるっと見てきたんだ。 そこで夏らしいラムネを見つけて。 本当は一人分だけを買おうとしたんだけど、頼む時にうっかり『二つで』って言っちゃってさ。
まだレイくんのことが、頭に残っていたのかな」
「・・・」
「だから一つ余っているの。 よかったら、ベンチに座って一緒に飲まない?」
柚季に誘導されベンチへと座った。 ラムネの蓋を開けると手渡してくれる。 ラムネを飲みながら柚季は話し始めた。
「レイくん、ごめんね」
「どうして柚季先輩が謝るんですか?」
「さっきレイくんにもう一度フラれた時・・・。 ううん、レイくんが莉津歌さんとキスをしている時に、気付いたの。 あんなに涙が出てきた理由がようやく分かった。
レイくんのことが心の底から好きだから、今こんなにも苦しいんだって。 その時、覚悟もできたの。 今の私なら、レイくんの全てを受け入れられるって」
「ッ・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます