第三十九話 人形ちゃんブチギレる

「ふざけるのも大概にしてください」


私のこの発言で、私に視線が集まる。

それもそうだろう。

私はいつも物静かで、何も話さないことが多く、話したとしても小さな声で感情が乗ってない声だったからだ。

そんな、私を見て驚愕の表情を浮かべる厳一さん。

だけれども、すぐに気を取り直して、困ったような、困惑したような笑みを浮かべる。


「な、なにを─」


「黙ってください」


「な、父親になんて口を─」


「厳一さんを父親だと思ったことは一度もない」


「な」


そうして、周りは何も言えないのか、それとも成り行きを見守っているのか、じっと私たちのことを見ている。

厳一さんは俯いて、手を握りこんでいる。

その表情は見えない。

そんな、厳一さんをみて、その隣のゴミが話しかけてきた。


「ど、どうしたんだい?柊さん。さっきまで、俺の話を静かに聞いてくれてたじゃないか」


「それは、あなたの話に興味がなかっただけ」


「え?」


「はっきり言って、鬱陶しかったから黙って相槌を打ってただけ、話なんて覚えてない」


「な、な…!じゃ、じゃあ、俺のことは─」


「嫌い。二度と顔を見たくないくらいに」


はっきりと告げる。

そうだ、私は拓斗くんが好きなのだ。

こんなゴミと付き合うくらいなら自殺してやるくらいには。

そう思っていると、ゴミは焦ったような表情をした。


「じゃあ、どこがだめだって言うんだ!」


「性格」


そう端的に答えると、ゴミは言葉に詰まったのか、黙った。

私は厳一さんのほうを向き問い詰めていく。


「厳一さん、私のことを知らないのによくあんなこと言えましたね?」


「っ!!」


「私は、厳一さんのことが大っ嫌いです。えぇ、隣のゴミは名前すら憶えていないですが、あなたのことは名前を憶えてしまうくらい嫌いです」


「私の…どこがだめだったというのだ…」


そう、隣のゴミと同じようなことを聞いてきた。

さっきよりも、具体的な内容が思い浮かんでしまい、次々に吐き出してしまう。


「…私と目を合わせて喋ったこと…一度もないですよね?私のことを気にしたこと一度もないですよね?私のことを都合のいい存在としか思ったことはないですよね?」


「そんなことない!」


声を荒げ私の発言を否定するが、そんなのはどうでもいい。


「確かに私も貴方のことは知りません。ですが、私から見てあなたはそう思っているとしか思えませんよ?」


「くっ…!」


そこまで言うと、血のつながりがあるだけの存在は膝から崩れ落ちた。

私はその姿を見て、なんとも複雑な心境になったが、もうここまで言ってしまったので、取り返しはつかない。


でも、もういいや。

だって、この人たちと関わるのは、今日で最後になるのだから。


…まだまだ言いたいことはたくさんある。

でも、この情けない姿を見て、私はもう興味を完全に失っていた。

だから─


「最後に、私にはもう心に決めた想い人がいます。二度と関わらないでください」


そう言って、スマホを持ち私は速足で自室に逃げ込んだ。

最後に見た彼らの姿は、ぽかんとした、虚を突かれたような反応をしていて、滑稽だった。


自室に入ると、私は「ふぅー」と息を吐いた。


あんな大人だらけの空間で、歯向かったのだから。

今思えば、大勢の前で思っていることを暴露するのは初めてのことで、こうなるのも当然かと思う。


あぁ、なんでだろう、膝が震える。


落ち着いたはずなのにもかかわらず、私の体は震えを増していく。

このままじゃ不味いと思った私は、震える膝に力を入れて、おぼつかない足取りでベッドに移動した。


ベッドに倒れこむと、ぽふっと音を立てて私の体を優しく受け止めた。


私は布団に抱きつく。


そして、自然とスマホのロックをして、愛しの彼のラインを開けていた。


…辛い。


自分で追い込んだ結果だから、自業自得ではある…でも、心にとげが刺さっていると錯覚するほど、胸がつらかった。


そうして、私の指は、私の意志に反して動いていく。


ひいらぎありす『すみません、今お暇ですか?』


時間は昼真っただ中、彼は勉強をすると言っていたので、この時間は既読はつかないと思っていた、だけれど。その予想は裏切られた。


拓斗『どうした?』


既読が付いて、速攻で返信が来た。来てくれた。

その一言の返信で、心の棘がはがれた、温もりが生まれた、そんな気がした。


ひいらぎありす『すみません、少し嫌なことがあったので…』


私は、その温もりをもっと、もっと、求めてしまった。


拓斗『大丈夫?話ならきくよ?』


ひいらぎありす『いいの…?』


拓斗『そりゃまぁ、友人ですし』


ひいらぎありす『嬉しい』


彼は、優しい言葉をかけてくれた。

その一言一言で、私は次々に満たされていく。


でも、どうやら今日の私は自制が効かないらしい。

私は、彼の声が聞きたくなてしまった。

ここのチャットでぶちまけただけで済ませたらよかった。でも、私の体は言うことを聞かずに─私の指は通話ボタンに伸びて行った。

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人形ちゃんは知りたい! 徒花 睡蓮 @shingo7081

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