第三十八話 人形ちゃんとクソイキリ陽キャボンボン
「それで、この前イギリスでパパが有名な宝石採掘の会社と契約を─」
「はぁ、そうですか」
私は今疲れている。
理由は、このドヤ顔で先程から話しかけてくる一つ上の遠い親戚の少年が原因だ。
名前は覚えてない。
ドヤ顔で父親の話や自分の成績を語って自慢してくる姿に、私は辟易していた。
この人は、私に気があるのか数年前から会うたびにこんな感じに、俺はすごいんだぞ自慢をしてくる。はっきり言ってうざい。
ここには私の父親の会社のグループのお偉いさんや親せきなどが集まっているため、下手に拒絶すると面倒なことになりそうなので、私は強く出れないでいた。
─はぁ、拓斗くんと遊びたい。
─一緒におしゃべりしたい。
─こんな、クズに時間を取られるくらいなら好きな人と一緒に時間を過ごしたい。
そんなことを考えつつ、目の前の人の話を聞き流している。
話を聞き始めて三十分くらいたっただろうか。
机に置いてある私のスマホにピロンとラインの通知が入ってきた。
「少し失礼します」
そう言って話を区切り、スマホを開けた。
拓斗『今度の夏祭り、どんな格好していく?』
拓斗『どうせなら同じ格好がいいからさ』
と、大好きな人からラインが来ていた。
私は、予想外の発言で思わず固まってしまった。
─お揃いの格好がいいんだ。
傍から見たら、完全に恋人に見えるであろう姿をご所望してきたので、私は思わず嬉しくなってしまい、固まってしまった。
嬉しい気持ちで心がいっぱいになったけれど、あの本のことを思い出し、興奮が一気に覚める。
─確か、あの本でこんなシーンがあった…。
友人となら、お揃いがいいとしか思ってなさそうな姿を思い出し少しため息を出してしまう。
でも、少しでも外堀を埋めたい私は、ここからどうすれば恋人っぽくみられるか考える。
そして私の出した結論は─
にしみやありす『浴衣を着ていきます。色は赤です』
浴衣にした。
普段着よりも浴衣の方が恋人っぽいとなんとなく思ったからだ。
返信するとすぐに既読が付き、
拓斗『ありがとう』
拓斗『そっちの集まり色々めんどくさいって言ってたけど、頑張れ』
と返ってきた。
この何気ないやり取りでも、目の前のクズとは全然違うとおもう。
やっぱり、拓斗くんはいい人だなぁ。
心の内が温まるような、返事をくれる。そんな彼に満たされつつ。スマホを置いて目の前のクズの話を聞き始める。
「柊さん、スマホの画面を見て百面相してたけどどうしたんだい?」
「友人とのやり取りで話が面白かっただけです」
私の表情がばっちり見られてたらしく、思わず嫌そうな顔をして、そう返してしまう。
だけれど、クズはそんなことは気にしないとでもいうのか、私の友人に興味があるのか、興味深い表情をして、この話題を掘り下げてきた。
「そうかそうか、その友人は女性かい?」
「なんで教える必要があるんですか」
少し強めに反応するも、クズは「ふっ」と鼻で笑った。
「俺は君のことが好きで、こんど君との縁談をパパにしてくれとお願いしたからね、君の友人関係も一応知っておいた方がいいのさ」
「は?」
縁談?私とこいつが?
私は、そんなことを父親から一切聞いていなかったため、困惑してしまう。
「なんだ、父親から聞いていなかったのか?」
「え?」
「この前、お前の父親に打診を入れた時にぜひよろしくお願いしますと言われたとパパから聞いたが」
まさか、そんな話になっているとは思わず、驚愕の表情を浮かべる。
すると、父親がこの話を聞いていたのか、苦笑いをして私たちに近づいてきた。
「あ、柊厳一さん。どうも」
「良哉君、久しぶりだね」
そう会釈するち、私の父親は視線をそらして、先程の会話の説明した。
「二週間前くらいに、そんな感じの話が来ていたのだが…その縁談はまだ少し先の話でな、共学の学校に通い始めたからアリスをそのような話をして、悩ませるのも…と思い、黙っていたのだ」
「はぁ」
そう、少し言い訳をするように私の目を見ないで、少し早口気味に言ってくる。
確かに、言わなかったのは正解だとは思う。でも、ぜひってなんですか?私の意見は無視ですか?あなたにとって私はいい駒でしかないのですか?
「それでだな…珍しく、アリスが話をしている相手だったから、そこまで嫌っているわけではないであろうと思い、こういった判断に踏み切った」
「そう…ですか…」
それは、善意ではなく、ここが集会という名の公の場だからそんな発言うしてるんですよね?内心では、こことくっつけば私の会社は安心だから─としか思ってないんですよね?
そうして、話を聞けば聞くほど、私は心が苛立ちによって支配されていく。
「今度、アリスがいる家に数か月住むことになったのだ、だから、今まで何も親らしいことはできなかったから、せめて、いい相手を見つけてやろうという─」
そこから、私の耳に言葉が入ってこなくなった。
その厳一さんの発言を聞いて、あのゴミはうんうんと頷いている。
私のことを何も知らないのに、知ったような口をきくな。
私の思いも知らないくせに、私の心を知ろうと思った事そらないくせに、私の目を見て話すことすらしたことないのに、私の、私の…!!!
「…かげ……ふざ…」
「ん?アリスどうした」
思わず、言葉が小さく漏れた。
でも、止まれなかった。
胸の奥から、苛立ちが湧いてきて、それが、言葉として─
「ふざけるのも大概にしてください」
全ての言葉を圧縮した言葉が、私の口からはっきりと、凍えた声で出てしまった。
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