「ダルマのとーちゃん…」

低迷アクション

第1話

「馬鹿っ!そんな、右寄ったら、対向車があっねー(危ない)だろっ」


市内技能職、ゴミ収集業務に就く“S”は、助手席に座る“クソ上司”の、舌っ足らずの怒鳴り声に思わず耳を疑った。新しい収集地区である、今コースをこの糞野郎から教わった時、確かコイツは…


「いっか、S、ここは枝が道路に張り出してるが、絶対に左にくっうま(車)寄せんな?

ほれっ、お稲荷さん見えるだろ?」


と、じゃが芋指の指す先には、ゴミのステーションが置かれている小さな林の傍に

置物狐の耳が見える。


「ここの木を傷つけたり、折る奴は皆、事故ったり、ヒデェ目に遭う。気ぃつけっろっ!」


と荒っぽい説明を受けたばかりだった。


困り顔のSを見た、クソ上司は醤油みたいなドス黒顔を歪ませ、ヤニ臭いツバを飛ばし、盛った猿のように吠える。


「なんあっ、文句あっか?それとも、オメー、まんさか、祟りとか信じるのかぁっ?」


嫌らしく笑う上司は車を降り、枝を7~8本折ってみせ、Sに放って寄越した後、大笑いをした。彼は心の中で舌打ちをする。


(クソ猿、嵌めやがった…)


大方、コイツは詰め所に戻って、この事を言いふらす。他の連中も面白がって、自身を嘲るに違いない。


嫌な職場だった。ゴミ収集と言えど、公務員…


求人倍率が上がった試験を通過し、待っていたのは“名前だけを書けば受かる、コネ採用のロクデナシ共”が上司の現状…


仕事をした感想は“中学生の職場”。


互いの陰口を言い、罵り合う。ヒドイあだ名をつける事だってある。

しかし、仕事は簡単、特に支障は無い。パワハラ、モラハラの劣悪環境だったと言う。


彼が“ビビりでカスのS”のあだ名で馬鹿にされるのが、飽きられた頃…

件のクソ上司に妙なあだ名がつく。


人を選んで上げる怒声と悪口の被害を被った連中が毒づく名前が

“ダルマのとーちゃん”…


極力、職場とは関わりを持たないSだが、訳が気になり、同僚に訪ねた。

 

「ああ、〇〇(クソ上司の本名)何でも、子供二人が事故で両手足飛んじまって、大変みたいよ?まぁ、稲荷さんとこの木の枝…折ったから、当然だな。

木の幹が、母ちゃんが怒ったんよ」


そう喋る同僚は嫌な笑みを浮かべている。他人の不幸が楽しくて仕方ない…そんな感じだ。


「なっ?オメーもそうだろ?」


何に対しての問いかは、わらかない。


(いや…そもそも、そんな複雑な事考えてねぇな、コイツ等は…)


「ああっ“ざまぁっ”だな!」


Sは職場で初めて笑い、元気に答えた…(終)

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