第36話 エピローグ

月は変わり、九月となった。

学校は始まったものの、優人はまだ帰ってきていなかった。学校には休校と説明していたが、出席日数は大丈夫だろうかと美也子はやきもきしていた。

 日々のニュースは事件のことを少しずつ語り始めていた。首都でのオートマタ大量暴走事件のこと。アリステラ社HAI<メーテール>の突然の機能停止のこと。同時にアリステラ社にIAOの査察が入ったこと。そして最後に小さく、シノシェア社に新CEOが就任したことが、小さなニュースとして報じられていた。

 美也子はそれらを実体験として得てきたけれども、その喧騒の日々が過ぎると、それらが遠い出来事のように思えてきた。わずか半月の前のことだと言うのに。

 あの後親にもこっぴどく怒られたし、友達のみんなからもあれこれ聞かれたけれども、美也子はできるだけ黙っていることにした。

 だって、あれこれしゃべると、優人に嫌われるような気がして。

 美也子はそんなおもいを心に抱いていた。


                      *


「ねえアヤネ」

「なんですか美也子さん」

「本当に今日優人は帰ってくるんでしょうね?」

「ユイリーから連絡があったし、ほんとでしょ? 飛行機がまた落とされたりしなきゃね」

 美也子とアヤネは須賀邸──優人の両親の持ち家のリビングでその時を待っていた。

 半月前、カミーラの攻撃で壊されたリビングのガラスなどは建築用オートマタなどの手により修理され、あの日の惨劇などなかったように元通りに輝いていた。

「今まで社長修行とかかなりみっちりやってきたみたいだし、それこそへろへろになってるでしょ。帰ってきたらあたしの熱いチューをあげて、なでなでしてあげたいわーっ」

「……あいつがオートマタ好きのこと忘れちゃってるでしょあんた」

 美也子が心を躍らせながら妄想していると、ホームAIが平板な声で、

「優人様が到着なされました」

 と告げた。

「え、もう!? やったあああ!!」

 彼女は喜び勇んでリビングから飛び出ると、廊下を走り、玄関で慌てて自分の靴を履いて飛び出した。その玄関前の車止めには、黒い高級自動運転乗用車が止まっていた。その後部ドアから、白いスーツを着た優人と、それぞれ白いドレスに、左薬指に銀の指輪をはめたユイリーと<エラスティス>が彼のそれぞれの手を取って降りてきた。三人共、満面の笑みで、お互いを見つめあいながら。

 その三人の爆発しろと叫びたくなるような姿を見た瞬間、美也子の顔は喜びから激怒へと一瞬のうちに変貌した。

 そして、その駆け寄る勢いを維持したまま、

「優人死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 と叫びながら、アメリカンプロレスラーもびっくりのドロップキックを憎き人形ヘンタイに向けて放っていった。


                                       <了>

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ガールズギア/ハイブリッドヒューマン あいざわゆう @aizawayu1

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