第1話 秘密のティータイム

 彼女に誘われるがままシェアハウスの中に入ると木とどこか懐かしい香りが僕を包み込んだ。

 玄関を上がると右と正面に分岐した廊下があり、正面の廊下には2階へと続く階段があった。


「どうぞ」


 と誘われるがまま部屋へ入ると窓からは心地よい光が差し込んでいた。

 入ってすぐには大きなソファそれとお揃いの背の低いテーブルの前の壁にはいまどき珍しい暖炉がある。奥には食事を取る大きな机に8脚の椅子が並べられている。


「どうぞ」


 と彼女が僕にソファを勧めた。

 勧められるがまま、僕は椅子に座る。


「多分、下見に来られたときにこの部屋は入ったことありますよね。」

「あっはい」

「今、管理人の広瀬さんがいないと空木さんの部屋を案内することができないので、とりあえず、ここで待っててもらっても大丈夫ですか?」

「あっ大丈夫ですよ。本でも読んでます。」

「そうですか」


と言うと彼女は僕の後ろに目をやる。僕もつられるように後ろに目をやる。すると、部屋の中央の柱の大きな振り子時計が目が入った。

 時計の針は2時40分過ぎを指していた。

 

「多分、1時間もすれば帰ってくると思いますんで、お茶でも淹れてきますね。」

「あっお構いなく。」

「いえいえ、私が飲みたいんですよ。コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」


 断るほうが申し訳なくなり、


「じゃあ、紅茶で」


 と答える。


「了解です。ではゆっくりしててくださいね。」


 と彼女は部屋を後にした。

 時計の振り子の音が部屋に響く。

 とりあえず、本を開いてみるものの、集中できずに暖炉に目をやり、ゆらゆらと揺れる火をぼんやりと眺めた。


 ガチャッとドアの音がして、ドアの方を向く。彼女がティーポットなどが乗ったトレーを持ってこちらへやってきたので本を閉じテーブルの端へと寄せた。

 彼女はトレーをテーブルに置くとカチャカチャと慣れた手付きでソーサーにカップとティースプーンを並べ


「お好みで砂糖をどうぞ」


 と、カフェの店員のような言葉を言いながら砂糖の入った瓶をテーブルに置いた。

 

ボーン...ボーン...ボーン...


 と振り子時計が鳴った。


「あっちょうどおやつの時間ですね」


とどこか嬉しそうに笑った。僕もどこか嬉しい気持ちになって


「そうですね」


と笑った。


「あ!ちょっと待っててくださいね」


と何かを思い出したように彼女はパタパタと部屋を出しばらくすると手には小さな瓶とスプーンを持っていた。


「これどうぞ」


瓶とスプーンを僕の目の前においた。


「ちょうど今日、バイト先で2つもらったんで、よかったらどうぞ」

「ありがとうございます」

「あっここのみんなには秘密ですよ」

「え?」

「いつも持って帰るとプリン争奪戦をやるぐらいみんなプリンが好きなんで」

「あ、わかりました」


「そろそろかなー」


 彼女はティーポットを手に取るとくるくるとまわし、カップへ紅茶を注いだ。

 綺麗なオレンジ色にカップが染まっていく共にふっと爽やかな香りが僕を包み込んでいく。


「いい香りですね」

 思わず、口にでた。

「いい茶葉使ってますから」

「そうなんですか?」

「私、紅茶が好きなんですよ。だから、いろんな茶葉買って飲んだりしてて、これは一番のお気に入りです」

「へー」

「空木さんは紅茶好きですか?」

「どちらかと好きです」

「それは良かった。ここの住人、コーヒー派の人の方が多いんですよ」

「そうなんですか」

「そうなんですよー。良かったです。空木さんが紅茶派で」

 

 そう言いながら、彼女は自分の分の紅茶を注ぐと

 

「どうぞ」


 と勧めた。


「いただきます」


 とティーカップを口元に持ってくると眼鏡が曇った。彼女が楽しそうに笑って


「あっすみません」


 と僕に謝る。


「いいですよ」

 

 と僕は笑って、紅茶を飲む。

 どこか居心地のいい雰囲気にいつの間にか僕は彼女に好感を持っていた。

 甘いプリンを口に運んで、紅茶を飲む。他愛のない会話をして、いつの間にか時間が過ぎていく。

 そして、ティーカップが空になると

「よかったら、また、一緒にお茶飲みませんか?」


 と彼女が言ったので


「もちろんです」


 と答えた。彼女は微笑んで


「新しい茶葉仕入れときます」


 言った。


「楽しみにしときます」


 と僕も答えて、笑う。


 まるで、ふたりだけの秘密事のようなそんな会話に僕は少し照れくささを感じた。


 




 






 


 



 



 

 



 

 

 

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彼女は晴れがよく似合う 菜花 @nanohanananoka

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