本作は、作中だけでなく、現実においても物議を醸すだろう。
登場人物達はこの術式の「善」の部分を実体験した。悲しいと一言で表す訳にはいかない決断によって開かれた世界は人々の心を一新する事となった。
だがしかし、この術式は主人公達が認める通り、決して推奨されるべきものではない。
人を生かす為に、誰かの犠牲が強いられる等という判断を一個人が下して良いものなのか。
その点、本作は意思表示が明記されていたのだが、果たしてそれが危篤状態にある人間が下した「正常な判断」だったのか、我々が区別する事は出来ないだろう。
生命安定に差はあれど、命の価値に優劣がないとされる限り、我々は決してこの術式を確立するべきではない。
それだけでなく、人間関係などといった様々な事を考えさせられた本作は、れっきとしたテキストであり、まさしく「小説の力」を垣間見た。