④「初めての、108回目の告白」

 台詞は人を生み、人は台詞を生む。






「フッフッフッ…さぁて、君たちのどちらから108回目リミットに到達してもらおうかな?」


 幼なじみの男女二人は買い物の途中でに拉致られていた。


 この紳士、名は不明。

 年の頃、不明。

 恋愛経験、

 必然、


 とりあえずだった。


「んんー!んんんー!!!」


 猿轡さるぐつわをされたままで、声無き悲鳴を上げた女の名は横山よこやま由美ゆみ


 次に誰かから告白されると108回目リミットを迎えてしまう横山は…いや、由美は最大級に焦っていた。


 煩悩の数と云われる108…


 この世界では、童貞と処女に対し、煩悩の数に因んだがあった。

 処女は他人から108回まで、童貞は他人に対して108回まで、それまでに告白を成功しなくてはとされている。


 何でそんな決まり事があって、成功できなければ何が起きるかって?

 そんなことは知らん。

 ただ、この作品せかいから仕方がないのだ。


「ま、待て!」


 声無き悲鳴を上げた由美を見て男が声を発した。

 男の名は木島きじま裕太ゆうた


 木島は…いや、裕太は超絶焦っていた。

 自身が108回目最後の1回を捧げようとした目の前の女の子に、先に108回目最後の1回を迎えさせるわけには行かなかった。


「待ってくれ!由美への108回目さいごの告白は、俺からの108回目さいしょの告白だ!!!」


 そして、裕太は叫んだ。

 全ての想いを込めて心の限り叫んだ。


「由美!!お前が好きだ!!大好きだ!!!俺はお前が欲しい!!!」


 ついに裕太は108回目さいごにして1回目はじめての告白を由美に届けた。


「んんん!!!んんんん!!!んんんんんんんん!!!」


「あ、ごめん。今それ外してあげるから。」


 謎の紳士はでそう言うと、由美の口を自由にした。


「裕太!!!わたしも!!!わたしも大好き!!!」


 由美は裕太の告白を受け入れた。


 裕太と由美は二人揃って泣いていた。


 それは、108回目リミットとか童貞とか処女とかは全く関係なく、今まで互いに素直になれなかった二人の男女が107回長い間すれ違った末の108回目はじめての告白に対する歓喜よろこびの涙だった。


 そんな二人を謎の紳士にした女が涙を堪えて見守っていた。


 女は如月きさらぎらんだった。


 謎の紳士は如月…いや、蘭だった。


 蘭は正体を隠して二人の心を結ぶことに成功した。


 二人はだった。


 二人はだった。


 二人はやっとになった。


 二人はついにが通じた。


 蘭は、子供の頃からこの二人が両想いだと知っていたからこそ二人が結ばれたことが堪らなく嬉しかった。




 それから、6年後…


 裕太と由美は細やかな結婚式を挙げようとしていた。

 その式の司会は蘭だった。

 式の直前に裕太と由美と蘭は三人で話をしていた。


「裕太、わたしへの愛の告白ちかいのことばは全部覚えてくれた?泣かずにちゃんと優しく聞かせてよね?」


「今度は泣くなよ?男!」


 そう言うと、由美と蘭は二人して裕太のことを笑った。


「チクショウ。次はんだ。」


 そう言って裕太は、夫婦になる由美を相手に笑顔でをやり直した。


 それは109回目の告白だった。

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109回目に笑えたら 【企画参加作品】 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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