第11話 運び屋のレスキュー ⑦

「よおおし、ポッドを回収したぞ」

 

 モニターには、DAYの半身程もある卵型ポッドが抱き抱えられるようにされてる映像が映っている。前情報では三十八人が乗ってるらしいのでかなり窮屈だろう。

 ポッドを手の中で固定し、海上までのコースをセットした。

 

「ほいじゃ浮上するんだぞ」

『客船が崩壊します』

 

 ジョルジュが言い終わる前に客船は鈍い音をたてながら瓦解していき、それらの破片が雨のようにゆっくり海底へと沈んでいった。船の崩壊を見るのは初めてではないが、何度見ても物悲しい何かを感じさせる。

 海流に流されて破片と衝突する可能性を考慮し、一度斜め下へ降りてから上昇するV字コースに変更して再始動した。


「海面まで約三分てとこだな」

『こちらカイデン、乗客の一人が発作を起こしました。治療のためなるべく揺れないようお願いします』

「分かった」

 

 速度を落とし、また海流の再計算を行って最も揺れないコースを再設定する。海面まで約五分と予想された。

 だが、ほっとしたのも束の間、DAYのコックピット内にアラームが響く。

 

『客船の破片から小型ガリトカゲが出現しました。数は八体です』

「げ」

 

 普段なら気にもとめないが、今はポッド内で治療が行われているため迂闊に速度は出せないし、衝撃を与えたらどうなるかわからない。

 そのうえギンガが乗っていないため、本来のパフォーマンスを発揮できないのも痛い。トッシーだけでは細かい動きができないのだ。

 

「ガリトカゲとの接触までは?」 

『一分もありません』

 

 何をしようにも手遅れだ。例えば黄昏の船機を潜航させて海中でポッドを拾わせるという方法があるが、小型ガリトカゲとの接触の方が早いため、下手するとポッドと一緒に小型ガリトカゲも入れてしまうかもしれない。

 ゆえに取れる手段は一つ。

 トッシーはDAYの両腕に装備させてある盾を外し、ポッドを挟むようにして取り付ける。盾の裏には蛸の脚と似た原理の吸盤があり、それを使ってポッドと盾を固定していた。

 

「DAYで可能な限り足止めしてみる」

『かしこまりました』

 

 盾に付いたブースターを噴射させ、ポッドを浮上させる。

 残されたDAYは小型ガリトカゲの群れに向き直って構えた。まずは直近の一体から、潜航してまっすぐ接近する。ギンガがいれば細かいフェイントを使えただろう。

 左腕のブレードを展開して振る。小型ゆえかあっさり回避されてしまう。

 

「そいつは読んでたぜ」

 

 ブレードを振った時の慣性を利用して機体を回転させる。その際尻尾についたブレードで小型ガリトカゲを刺し貫いた。

 

「やった成功!」

 

 尻尾の先についた小型ガリトカゲをこれみよがしに振り回す。他の小型ガリトカゲに対して「コイツは俺が倒した、悔しかったらかかってこい」と煽っているのだ。その意図が伝わるかどうかは別の話だが。

 今回は伝わったらしく、群れは一斉にDAYへ向かってきた。

 あとはポッドが回収されるのを待つだけだ。

 二体目が突撃してくるので回避を、せずにそのまま受け止める。三体目、四体目もまた受け止める。小型ガリトカゲはせいぜい五メートルが最長なので、十八メートルあるDAYにとっては痛くもない。また、下手に反撃して警戒されるとポッドの方へ向かうかもしれないので、程々にやられたフリをしなければならない。

 と同時に適度に振り払って煽る事もしないといけない。

 

「め、めんどうだぞ」

 

 まとめて倒せたらいいのだが、ギンガがいないため不可能に近い。一体目を早めに倒せたのは運が良かったというのが大きい。体格差や諸々のハンデを甘味してもまともに戦うのは得策ではない。

 倒せないのではなく、倒すのがめんどうなのだ。やたら回避率の高い敵を相手にするようなものだ。

 

『トッシーちゃん聞こえる? ポッドの回収に成功したからこの海域を離脱するわ』 

「よしきた!」

 

 待ちに待ったと言わんばかりにDAYを急回転させる。尻尾で囲んでた小型ガリトカゲを散らしてから海面へ全速浮上する。そこで待ち構えていた黄昏の船機の格納庫へ入った。

 

『DAYの格納を確認しました』

『それでは行きましょう、みんな、お疲れ様』

 

 ゆっくり海域を離れる黄昏の船機に張り付くように、小型ガリトカゲが攻撃をしかけるが、DAY以上に体格差があるゆえ衝撃すら伝えられないでいた。

 そのうち、諦めたのか小型ガリトカゲがいなくなった。 

 

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マカロン・ファミリーと海の先 芳川見浪 @minamikazetokitakaze

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