第10話 運び屋のレスキュー ⑥
重い水密扉がゆっくりと開け放たれる。
リナリアとカイデンが中に入ると、一瞬どよめきが聞こえてつい身構えた。しかし携帯ランプの僅かな明かりで照らされた室内に目を凝らすと、それが生き延びた乗員乗客であることがわかる。
「こちらカイデン、生存者を確認しました。これより負傷者の応急手当を行います」
『了解したわ、こちらも丁度今ガリトカゲを排除したところよ。ギンガをそちらに送るから合流したら乗客を連れて避難して頂戴』
「了解です」
通信が終わり、カイエンが一人ずつ怪我の具合を確認していく。その間にリナリアは水密扉の外にでて監視を行う。
幸いにもほとんどの人が無傷だったが、一名のみ、左膝から下がごっそり消えていた。
「こちらカイデン、重傷者が一人、左膝より下を消失しております。おそらく噛みちぎられたかと」
『マージラだ、出血はどうだね?』
「素早くタンパクスプレーを吹きかけたようで出血はそこまでではありません」
『わかった手術の準備をしておくから早く連れてきたまえ』
「かしこまりました」
ギンガが到着し、改めて脱出を図る。ルートは来た時と同じだが、今回はギンガがいるので先頭をギンガが務め、真ん中にカイデンと重傷者、殿をリナリアが行う。
他の乗員乗客達はギンガの後ろについて慌てず慎重に上を目指していく。
道中にガリトカゲが出現しなかったおかげで安全に移動できたが、最後のフロアに到達した時に船体が大きく揺れ、何かが大きく壊れる音が鳴り響いた。同時に壁の隅から海水が浸水してきて間もなくフロア全体が水没してしまう。
その前にフロアから退避し水密扉をしめて何とか凌いだが、そう長くはもたない。
『マカロンよ、予想より早く船体の破損が始まったわ、早くてあと一時間てところ』
「カイデンです。脱出口が塞がれました。新たなルートの検索をお願いします」
『今やってるわ。ジョルジュ急いで』
『今完了しました。お二人のデバイスに転送します』
『素敵よジョルジュ』
間もなく二人が腕に装着してるデバイスに反応があった。それはジョルジュが検索したルートである、空間投影して素早く確認する。
「下へ?」
「これは、後部デッキから外へ出るのか」
ジョルジュの指定したルートは意外にも真下へ行くものだった。それもデッキまで降りてそこから海中へ出ろという無茶なもの。
今の時期海中温度は三℃以下で体感温度はもっと下がる、健康的な男性でも凍死しかねない、負傷した人や高齢の人に泳げというのは不可能と言えよう。救助対象のメンバーには六十歳以上が五人いるので無理だ。そう抗議しようとしたが、その前にジョルジュから補足が足された。
『後部デッキには大型のポッドがあります。普段は緊急時に貴重な貨物を海に放流して回収するためのものですが、今回は人に使用し海中に放流、DAY でそれを回収する方法となります』
「了解、直ぐに行動へ移す」
「皆さん、聞いての通りです。下へ向かえば助かる見込みがあります。どうか落ち着いて私達についてきてください」
リナリアが救助者達に向けて語りかける。幸いかどうかはわからないが、アマリウムにおいて海難事故は日常茶飯事なので人々はどこか慣れており取り乱した様子は見られない。
どちらかというと人の命を預かっている自分達の方が落ち着かなかったりする。
「ギンガさんは負傷した彼をお願いします」
「……」
ギンガは何か言ったようだが、ここにはトッシーがいないため何を言ったのかわからない。しかし負傷者を背負ったあたりカイデンの意図は伝わったらしい。
「行きましょう」
リナリアが先頭を進む、途中で小型ガリトカゲを何体か射殺しながら下へ下へと降りていく。救助者の足並みを考慮して休憩を挟みたいが船体の崩壊が始まっているためのんびりできない、カイデンとギンガで運動能力の低い人間を補助しつつ、四十分かけてデッキまで降りた。
「ここだ」
大型ポッドがある船室に辿り着く。
「よしガリトカゲはいないぞ!」
「皆さん急いで乗り込んでください!」
リナリアが周辺警戒を行い、カイデンが誘導する。全員が乗り込んだ後、リナリアがポッド内から射出口へ移動するための操作を行うが、丁度船体が限界を迎えたらしく激しく揺れた。
その際ポッドの固定具が外れ浸水の始まった船室に転がってしまった。
これではポッドが射出されないどころか、ポッドが海水の中に沈んで身動きがとれなくなる。
「私が外に出てクレーンで押し込みます!」
「よせ! 今からでは間に合わない」
「ですがこのままでは!」
「……」
「え?」
外に出ようとするリナリアを止めるため、ギンガが前にでて何事かを言ったのだが、やはり何を言ったのかわからない。
だが、ギンガの目は何かを確信した強いものであったので、リナリアは思わず前に踏み出した足を引っ込めた。
その決意の表れか、トッシーから通信が入る。
『ふっふーん、オイラが来たぞー』
「トッシーさん?」
『場所はわかってる、安心していいぞ』
何をするつもりなのか、と聞く暇は無かった。突如船室に大きな刃が差し込まれたのだ。それもポッドを挟む様にして二本。それがDAYのものであることに気付いた頃にはポッドを鷲掴みされており、また同時に海中へ引き摺りだされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます