第9話 運び屋のレスキュー ⑤

 ズンッ、とDAYのシールドにガリトカゲの巨体が衝突する。衝突の際にシールド内が圧迫され、中の空気が押し出されて排出口からキャビテーション(スクリュー回した時に出る泡とか)のように勢いよく噴出した。

 その瞬間トッシーがレバーを押して排出口の機能を解放する。つまり出てくる気泡をそのままスラスターとして使おうというのだ。

 

「ぬぬ、抑えきれないぞぉ」

「……」

「わかった、やってみるぞ」

 

 トッシーはギンガの言う通りガリトカゲを受け流す事にした。ギンガが向きを変えてトッシーがスラスターの出力を調整する。

 左へガリトカゲを流して後方に。

 

「よし」

「……」

 

 向きを変えてガリトカゲと向き合い、守るべき客船は斜め後ろにする。

 

「オラオラこいよ爬虫類がよぉ!? ビビってんのか?」

「お? ようやくギンガ兄ちゃんのスイッチ入った」

 

 ギンガの声が聞こえている筈は無いのだが、ガリトカゲは真っ直ぐ向かってくる。今度は腕を不自然に構えているのでどうやら殴り合いを所望のようだ。

 受けて立つ……事などする筈が無く、左手のシールドで伸ばされたガリトカゲの腕を受け止めてから尻尾の短刀で切りつけた。

 水中を伝播してガリトカゲの鳴き声が聞こえる。ガリトカゲが一度距離をとった。

 

「あまり効いてないみたいだぞ」

「だったらくたばるまで切り刻んでやるだけだ!!」

 

 シールドの下に隠れていたアームブレードを両手共に展開してブースターで加速する。排出された水が前へと押し出していく。

 同時にガリトカゲとの深度を合わせるため機体の吸入口から海水を取り込んでパラスト水とする。

 

「そぉこだあああ!!」

 

 DAYがガリトカゲに切り掛る加速を殺さずに振り下ろす。相当なダメージが入るだろう。

 肩から腹にかけて深く斬ったつもりだが、意外と浅かったのかまだ元気に泳いでいた。

 

「ちっ、しぶてぇ」

「でも大分ダメージ与えられたみたいだぞ」

 

 トッシーの指摘通り、ガリトカゲは傷口を抑えながら反転して泳いで行った。つまりこの場から逃走を測ったのである。

 追おうかどうか悩んだ時、祖母のマカロンから通信が入る。

 

『ガリトカゲの作戦海域外への脱出を確認したわ、二人共一旦戻ってちょうだい』

「おす」

「……」

 

 いつものギンガに戻ったのを確認してからトッシーは黄昏の船機へオートで帰れるようセットした。

 ひとまず外側の仕事はこれで終わりだ。

 

 ――――――――――――――――――――

 

「制圧完了しました」

 

 通路にいた最後の小型ガリトカゲに、メーザーガンでトドメを刺したリナリアが淡々と報告した。

 正直に言うとカイデンの出番は無かった。ほとんどリナリア一人でこの怪物達を片付けてしまったのだ。

 

「つ、強いんだね」

「元メイドですので」

 

 メイド凄い。

 

「行きましょう、要救助者はこの階段を降りた先です……ああいえ、落ちた先ですかね」

 

 階段の先を指差して先を促す。逆さまになっているので階段は頭の上にある事になる。帰る時の事も考えてペグを刺してロープを垂らしてから降りる事にした。

 四階下に降りると正面に要救助者が避難している倉庫があるのだが、案の定ガリトカゲの群れが大挙していた。

 

「片付けます」

「援護するよ」

 

 先程と同じくリナリアが素早くナイフと拳銃で小型ガリトカゲを殲滅し、彼女が動きやすい用にカイデンが援護射撃を行う。

 二回目ともあってか思いの外スムーズに事が済んだ。

 

「クリア、中に入ります」

「え、あ、うん」

 

 あまりにもスムーズすぎて淡々と事を進めるリナリアに少しだけついていけてないカイデンであった。

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