0-2 僕は妹と仲良く心中する

「瞬ーー!起きなさぁぁぁぁぁーーい!!!瞬ーーー!!!」


(ん…なんだ…?)


1階から母親の声が家中に響きわたり、僕は重たいまぶたをゆっくりと開く。

起きてすぐ、横にある自分のスマホを開いた。


9月1日。そして、8:17。

まだ、どうやら朝の8時のようだった。


(あの後、お風呂に入ってすぐ寝たんだっけ…?)


「はぁぁー…」


つい、大きい欠伸をしてしまう。


(なんでこんな朝早くに…)


夏休みは、午後1時起きの体にこの時間は早過ぎる。


(まぁでも、この時間にそろそろ慣れておかないとな…)


4日後の9月5日から2学期が始まる。

多分、早い時間に起きる練習でもやらされているのだろう。

やるならやるで言って欲しかったなと思いながら、嫌々1階のリビングへと移動する。








リビングには、もう電気がついていた。

中では、制服に着替えている妹の赤間碧が机に座って朝ご飯を食べているようだ。


「あ、お兄ちゃん、おはよ〜。」


「お、おう…」


適当に挨拶を済ませて、僕も机に座り朝ご飯を食べる。

そういえば、妹と一緒に食べる朝ご飯は久しぶりだ。夏休みは、ずっとお昼に起きていたから一緒に食べるのは、休み前の最後の学校の日以来になる。


(なんか懐かしい感じだな…。夏休みが終わったら、またこういう忙しい朝になるんだろうか…今度は、僕も制服を着て一緒に朝ご飯を…………)


「って、なんで制服着てんの!?」


ここで一気に目が覚めた。

なんでこいつ制服着てんだ??

朝起きる練習にそこまでしなくても…


「ふふっ。」


…良いだろうと思ってたら、またこの不気味な笑いを見せてきた。


「お前さぁ…あの時も急に笑ったりしてきたけどさぁ…それ結構キモいぞ?」


「ふふっ。あの時って?」


(キモいに動じないだとぉ!?)


で、また笑った。

こいつの笑いは無自覚なのだろうか…。

ちょっと、兄として心配してしまう。


「あの時ってほら、お前が深夜に必死こいて宿題してた時だよ。登校日前日にしかやらないお前があんなに…って…あれ……」


刹那、頭の中に嫌な予感が駆け巡っていた。


前日にしか宿題をしない妹。

僕が登校日の話をした時に笑い出した妹。

今制服を着ている妹。


不自然に思っていたピースがどんどんと繋がり合う。

あの時感じた妹の違和感…

頭の中を駆け巡る嫌な予感…

これは…まさか…


「も、もしかして…」


「うん、今日、9月1日が登校日だよ??お兄ちゃん?」

 



「はぁぁぁぁぁぁーーーー!?」




つい、大きな声を出してしまった。

そうか、今振り返ればそうだった。

登校日の前日にしか宿題をしない妹の事や、僕が登校日はまだ先だからと言った後の困惑。からの、僕の数学ワークが終わってないと言った後の妹の不気味な笑い。

さらに、急にお風呂に入るのを辞めたらって提案してきたのも、お風呂入らずに僕を登校させようとした妹の性格の悪さ…

あいつのSっ気の性格を少し考えればわかる事だった。


「ふ、ふ、ふはっはっはっはっはぁ〜〜」


と、僕の驚きで妹がまた今まで以上に大きく笑い出す。


「いや〜、バカだね〜〜、お兄ちゃん。」


そう言いながら、嫌味っぽく妹は僕の肩にポンポンと叩いてきた。


「お、お前…なんであの時言ってくれなかったんだよ!」


「いや〜言っても良かったんだけどさぁ〜。終わりそうになかったから…。」


「何がだよ?」


「宿題だよ。夏休みの。」


「は?お前、必死こいてやってたんじゃないのかよ?」


「いや、やってたよ。しっかり…でも、徹夜で全て終わらせることなんて出来る訳ないじゃん。で、登校日どうしようかな〜って思った時、お兄ちゃんが来たの。で、お兄ちゃんが登校日勘違いしてて、さらに数学のワークやってないらしいから、これだぁ、同じだぁ!って思った訳よ。」


「これだぁ、同じだぁ!じゃねーよ!!言えよ!!言ってくれたら手伝ったかもしれねーだろ!!」


「あぁ。」


「あぁ。じゃねーよ!」


「まぁ、てな訳で…今日は2学期初日になりますが、1日頑張ろ〜〜〜う!」


「勝手に終わらせるなよ!!」


妹は、せっせと朝ご飯を済ませる。

そして、手を合わせて…


「ごちそうさま。そして、お兄ちゃんご愁傷様。」


「うるせぇ!!」


ドS妹は学校に行く準備を済ませ、そのまま玄関へ向かう。

でも、ここまでされてそう簡単にいかせる訳にはいかない。


「おい、てかその情報いつ言われたんだ?」


学校から貰った年間の日程表には、確かに登校日は9月3日としっかり書かれていた。

だから僕は、9月3日が登校日だと思っていたんだが…


「いや、普通に1学期の終業式の集会で何度も言われたんだけどねぇ…」


(そんなの聞く訳ねぇだろ…)


「集会って…」


「いや、しっかり何度も言われてるからね。お兄ちゃんの人の話を聞かない悪い癖が出たねぇ〜。後、クラスのグループメッセージにもそういう会話すると思うから、普通は気づくはず…

…ってお兄ちゃんまさかクラスのグループ入って…」


「入ってぇぇ!……るよ………」


もちろん苦し紛れの嘘。

さすがに妹であっても2年生なのにクラスのグループに入ってない事を知られたら…


「うん、悲しいね…」


(なぜバレたぁ!?僕の必死の嘘がぁ…)


「って、そ、そんなことよりもなぁ…やっぱりあの時お前僕に言ってくれればよかったじゃないかよ。」


「まぁ、まぁ、お風呂入れただけでも良かったじゃん。宿題に関しても私も出来てない訳だし…まぁ、私たちこれから仲良く心中するということで。」


「心中って…一緒に地獄行きなんですが…それは…。だいたいなぁ…お前が言っていればこんなことに…」


「ん??ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。全ては、話を聞いてなかったプラス地味で、キモくて、人見知りなお兄ちゃんが悪いんだよ??」


(ぐっ…こいつ…)


正直自分にも非があるのは事実。全て妹のせいにするのは間違っているのかも知れないけど…


「まぁ、私が言わなかったのもちょっぴり悪かもね。ちょっぴり。怒りたいなら怒ってもいいんだよ??」


妹は、目をパチパチとさせながら上目遣いを繰り出してくる。


(く、くそ…かわいいじゃねぇかよぉ…)


ま、まぁ、正直自分のミスもあるし、もう妹の事は許して…


「あっ、でも〜、学校でしかその怒り受け付けないからね〜。」


「は?」


「あっ、でも〜、学校のお兄ちゃんはモアイ像だから怒れないか。じゃ、行ってきま〜す!」


…やらねぇぇ!!!!絶対許さんぞ!!!!


「ちょ、おい待てぇ!!」


妹は、家から出て行くと同時に僕の方を振り向いて、


「数学モアイ兄ちゃん。いってきま〜す。」


と言いい、またしてもあのてへぺろ☆を繰り出してきた…。








9月に入って初めの日はどんよりした曇り模様。今にも雨が降りそうで、今後の天気が心配だ。

あのドSリア充妹は、傘を持たずに行ってしまったけど、大丈夫なのだろうか…


…ん?なんで、妹の事を心配してんだ?

やっぱり撤回。雨降れ雨降れ。大雨降ってずぶ濡れになって風邪ひいてしまえ…

…本当まったく、とんだドS妹になったものだ。


「はぁぁー…」


大きなため息を漏らしてしまう。ふと時計を見ると、もう8時半を過ぎていた。


(あ…やっべ。)


2学期最初の登校日に遅刻はさすがにまずい。

まぁ、宿題の数学ワークしていないのも充分まずいんだけど…


僕は、わずか5分で慌てて朝ご飯を食べて、学校に行く支度をした。

友達がほぼいない人見知り隠キャは、朝の準備は少なくて楽だ。


「い、行ってきまーす。」


そのまま駆け足で学校に向かった。


どんよりした曇り模様は、やがてどんどん暗くなっていき、雨が降るまで後数分というところだろうか…




「あっ、傘忘れた…」




結局、僕はまた妹と同じミスをやらかしてしまった。



「はぁぁ…妹よ…今日は心中だ…」





2学期は最悪のスタートになってしまった…

まぁ、少なくともではない…よな??

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赤間くんは帰りたい! 折花ダイ @orihanadai

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