赤間くんは帰りたい!

折花ダイ

0-1 僕は「平凡な」高校2年生だ

ラブコメ主人公は、自己紹介時、必ずといっていいほど自分のことを「平凡だ」という。

自分はイケメンじゃないとか、何の変哲のない人生を送ってきたとか、何かにかこつけて自分は「平凡だ」と主張してくる。

だが、彼らのいう「平凡」とは容姿に限った話であり、性格や個性などといった中身の部分はカウントされていない。

だからこそ、彼らはさも当然のように美少女達との小競り合いが出来たり、なぜか最初から好感度MAXの幼なじみがいたりしていて、そこに僕達はラブコメとして面白いと感じているのだろう。

つまるところ、自己紹介時に使われる「平凡」とは、ラブコメ主人公達に対して親近感を感じさせ、物語をスムーズに展開するためだけの定型句でしかないのだ。



では、顔は平凡でも、超絶人見知りな僕、

赤間瞬あかましゅん は彼らと同じく「平凡」な高校生と言っていいのだろうか?












「はぁぁー…」


つい大きく欠伸をしてしまう。それも仕方ない。夕方から見始めた1クールのアニメを一気見したからだ。ふと時計を見ると、もう深夜の2時を過ぎていた。


「寝るか…」


もう何も考えられないぐらい眠気が襲っている。目は、常時半目で油断するとそのまま寝てしまいそうなぐらい限界だった。

バタンと音をたて、ベッドに倒れ込む。

が、髪に違和感を感じ、手を添えた。


「ベッダベタじゃん…」


よく考えてみると、お風呂に入らなくてもう5日目になっていた。



今は、絶賛夏休み期間中。

この僕、高校2年生 赤間瞬 はこれといった友達がいない。学校でも基本的に1人で生活している。2年生となればもう慣れたものだ。だから、もう「友達が新たに欲しい!」と言った願望はなく、逆に、1人でいることが好きなほどだ。

そんな僕の唯一の趣味は、アニメ鑑賞。

そういう事から夏休みの活動場所は、ほとんど家。友達とやら、彼女とやらと花火大会、肝試しといった夏休み青春イベントは、当然訪れることはない。基本的に家族以外の人と会うことのないので、この夏休みはほとんどお風呂に入っていなかった。

でも、そろそろ気持ち悪さの限界が来たようだ。僕は、眠っていた体にムチを入れ、のろのろと一階へと移動した。








リビングには、まだ電気がついていた。

中では、妹の 赤間碧あかまあお が机に座っていて何か作業しているようだ。妹は、僕の1個下で高校1年生。そして僕と同じ私立城竜高校しりつじょうりゅうこうこうという高校に通っている。髪はショートカットで、身長は僕より低いがスタイルは良く、まぁ、可愛い妹だ。でも、僕と違ってとても気さくで、男女から人気だと聞いている。夏休みは、毎日のように友達と遊びに行っていて、まさにリア充というものをしていた。


「あれっ、お兄ちゃん何してんの?」


妹がハァーっと小さな欠伸をした後、僕の存在に気付き何らかの作業を止めた。


「いや、久々のお風呂に入ろうかなと…」


「あ、お兄ちゃんやっと入るんだぁ〜〜。もうこのまま入らずに学校に登校するのかと。」


僕が何日もお風呂に入っていなかった事は、家族の中でも周知の事実である。


「さすがにそれはねぇーよ。お風呂入らずに登校してしまったら、悪い意味でクラスで人気出ちゃうからな。人気出ちゃうと、クラスの人から話かけられてしまう。話かけられると、1人の時間が減る。それは避けねばな…」


「あ〜はい出た出た。ぼっち脳。なんでそんなに1人が好きなの?みんなでいる方が楽しいじゃん??てか、そもそもお風呂入らない人なんかにわざわざ話かけたりしないよ。」


「ほうほう、確かに…。あれっ、じゃ、このまま気持ち悪いの我慢して、登校すれば1人に…」


「いや、しないで。お兄ちゃんのせいで、私もクラスのみんなからいじめられるからやめて。」


「お、おう…って、僕は別にいじめられてはないぞ!」


「え?お兄ちゃんが学校で喋らないのは、集団的にお兄ちゃんの事を無視しているとかそういう類のいじめじゃなかったの!?」


「ち、ちげーよ!喋らないのは、仕方ないだろ…」


喋らないというか、喋れない訳なのだが…。


「でも、まぁ実際、お兄ちゃんが変な事したとしても私に何も影響しないと思うけどね〜。だって、お兄ちゃん地味だし。キモいし。人見知りだし。」


おぉ…こいつ淡々とえぐい事を言うな…。

まぁ、どれも事実なんだけど…。


「だ、黙らっしゃい…。で、でもこう見えても僕、夏休み結構リア充しているんだぞ?」


事実、今年の夏アニメは豊作だった。

毎日毎日徹夜でこの夏はハードスケジュール。これは、充実していると言っても過言ではない…よな…?


「ん?充実??お兄ちゃんが???」


まぁ、当然妹は僕のセリフに噛み付いてくる訳であって…


「お、おう…じゅ…充実よ…」


改めて言われると自信がなくなっていく。

でも、う、嘘は言ってはないからな…嘘は…

夏、豊作…だったし…


「じゃ〜、お兄ちゃん聞くけど、夏休みに何回外に出た?」


「ご、10回ぐらいか…?」


「その内、コンビニに行ったのは?」


「よ、9回かな…」


「残りの1回は?」


「お、お盆でおばあちゃん家です…」


「一緒におばあちゃん家に行ったもんね〜。で、お兄ちゃんは夏休み充実してると??」


「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」


反射的に誤ってしまった。いくら自分自身が充実してたと思っていても、本物のリア充の妹に夏休みの過ごし方でマウント取ろうとしたのは無茶すぎた。これは反省。


「うん、わかればよろしい。」


妹は、腕を組みながらうんうんと頷く。

満足したのか、シャーペンを握り作業を再開し始めた。


「ち、ちなみにお前は何回外に出たんだよ…」


「ん?そんなのわかる訳ないじゃん。」


さも当然であるかのように言ってきた。


「いや〜でも、確実に毎日は外に出てるからお兄ちゃんよりか充実しちゃってますね…ごめんね〜。」


と言って僕に向かって、てへぺろ☆っとしてきた。


(ぐっ…なんだこいつ…)


初めて妹にイラッとしてしまった。

今時、てへぺろする奴なんかいないと思ったが、やられたらやられたで結構うざいなこれ…

てか、こいついつの間にこんなドSになってんだよ。

くそっ…このまま調子に乗らせてはいけないと思い、少なからず言い返す。


「で、でもな…夏休みに外にたくさん出ているから充実してるということは必ずしも決まった訳ではないんだよな…家の中でも十分、充実した生活を送れる事は出来てだな…だいたい夏休みに祭りだの、海だの、肝試しだの、すること自体おかしいんだよな…そもそもな…夏休みが出来たきっかけと言うのはな…夏の特に暑い期間に熱中症とかで勉強が出来ないからな……」


「あ〜、なーなーなーなーうるさいうるさい。は??勉強??勉強って…じゃお兄ちゃん毎日夏休み勉強してたの?」


「え?えーと、い、いや………あっ…び、美術の勉強なら…」


「アニメ観る事を美術の勉強なんて言わないから。」


「す、すいません…」


(こいつ…)


「はぁ…本当、家と学校では大違いだよね、お兄ちゃん。家ではこんなにベラベラと喋るのに、学校ではお兄ちゃん、モアイ像みたいに喋らないんだから。」


「も、モアイ像て…」


なぜモアイ像をチョイスしたがわからんが、ぐさっと心にきたぞ…。


「この前だって、学校でお兄ちゃん見かけたから、手を振ってお兄ちゃーーんって声かけてあげたのに、完全に知らんぷりするんだもん。あれ、正直周りの私の友達引いてたよ?人見知りだが知らないけどさぁ、我が妹ぐらい学校でも家と同じように接してくれればいいのに…ねぇ、モアイちゃん?」


「おい、モアイやめい。」


「あ、ちなみにモアイ像って名前、私の友達が命名したあだ名ね。モアイ像みたいに喋らなくて、顔が似てるからだって。」


「お前の友達が!?まぁ、喋らないのは仕方ないけど…は?顔が似てるって言った??え?待って…僕そんなアゴ長くて、彫り深いか???」


僕は、これまで「平凡」な顔だと思ってたのに、まさか僕イースター島にいる顔だったとは…。それも、友達からなのかよ…。ぐさっときた心がえぐられてんぞ、今…。


このまま話を続けたら、こっちの心が持たないので別の話題に切り替える。


「そ、それにしても、深夜2時だぞ?今まで何やってんだ、お前?」


さっき会話の時も、妹が何か作業していたので気になっていていた。


「あ〜、宿題だよ?夏休みの宿題。」


「マジか!?」


意外だった。妹は、はっきりいって頭が悪い。大の勉強嫌いな妹が、夜遅くまで宿題を頑張っていたようだ。


「いやー、お前が宿題だなんてなぁー。昔は登校日の前日になってでしか宿題なんてしなかったのになー。いつもギリギリに終わらせていたけど登校日まで、まだまだ時間あるから、今回は余裕持って出来るんじゃねーか?」


今日は日付けを跨いで9月1日。

登校日は9月5日なので割と時間に余裕がある。


「…ん?え…?う、うん…そ、そうだね…。ふふっ。」


妹は一瞬眉をひそめたと思ったら、急に笑いだした。

ん?僕、何か変な事言ったかな?


「あ〜、で、お兄ちゃんは宿題終わらせたの?」


「ん?僕?あー…後、数学のワークだけだな。まぁ、登校日の前日に終わらせよっかなと思ってるけど…どうした?」


「ん?い、いや、なんでも…ふ〜ん。前日ねぇ…。うんうん…。ふふっ。」


「な、なんだよ…」


またも、不気味なな笑いを見せてくる。

何考えてんだ、こいつは。


「い、いや…って、お兄ちゃんやっぱり今日お風呂入るの辞めたら??」


「な、なんでだよ。髪がベトベトして気持ち悪いんだよ。あっ、てかそういえばお風呂入るために一階に下りたんだった…。まぁ、とにかくお前は宿題早く終わらせるんだな。」


「は〜い。」


僕は妹の素っ気ない返事をよそに、本来の目的地お風呂場に向かう。


それにしても、さっきから妹の様子がおかしいな。急に不気味な笑いをするし…急にお風呂に入るなって言うし…

なんか最近、あいつの考える事がわからなくなってきたな…


「はぁぁー…」


またしても大きな欠伸をしてしまう。徹夜には慣れてるけど、今日はなんだが一段と疲れた気がする。変に頭が回らない。早くお風呂に入って寝るか…


僕は、目を擦りながらお風呂場に向かう。

と、その前に洗面台の鏡で確認を…





「やっぱりモアイ像ではない…よな…??」





やはり僕は、「平凡」な高校2年生だ。

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