桃太郎ファンタジー

斉藤一

第1話

 昔々、始まりの村に、山野爺さんと山野婆さんという夫婦が住んでおりました。

 毎日、爺さんは山へ柴刈りに、婆さんは川へ洗濯に行きました。

 爺さんは元戦士で、スキルを使って柴をさくさくと刈っていました。

「剣技、四肢裁断剣!」

 爺さんは、刈り終わった柴を背負った籠に入れると、家に帰りました。


 ある日の事です。婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が一つ流れてきました。

「おやおや、この川の上流に桃なんて生えていたかしら?とりあえず、爺さんへのおみやげに、家に持って帰るとしましょう。剛力!」

 婆さんは元僧侶で、ステータスバフ系の呪文は得意でした。見るからに筋肉が膨張した婆さんは、川へ入ると、大きな桃を軽々と持ち上げて帰りました。


 柴刈を終えた爺さんが山から帰ってきました。

「今日も沢山刈れたぞ。」

 爺さんの背中には、百キロ近く、柴が山盛りと積んでありました。

「爺さん、今日は良いものを見つけたんですよ。見てください、この立派な桃を。」

「ほぅ、大きな桃だな。2人で食いきれるだろうか、はっはっは。」

「大きな桃ですから、包丁じゃ切れません。爺さんのスキルで斬って下さいな。」

「任せておけ、覇断剣!」

 爺さんは、桃を真っ二つに斬りました。

「まあ大変! 爺さん、中に赤ん坊が! 蘇生!」

「すまんすまん、まさか中に人が入っているとは思わなかった。」

「おぎゃあ、おぎゃあ!」

 蘇生された赤ん坊は、元気よく泣き始めました。

「あいにく、私たちには子供が居ません。私たちで育てましょうか。」

「それがいい、婆さん、洗ってやると良い。」

 少し血で汚れていたので、婆さんはお湯を沸かし、たらいに入れて洗ってあげました。


 この赤ん坊は、桃から生まれたので、桃太郎と名付けられました。

 爺さんは、桃太郎に剣術を教え込みました。桃太郎はどんどん強くなり、子供ながらに村一番の強者となりました。

 桃太郎は、自分がどのくらいの強さなのか試したいと思うようになりました。

 すると、村に立ち寄った都から来たという商人から、鬼ヶ島の鬼という者が都を荒らし、金銀財宝を盗んでいったことを知りました。

 桃太郎は、いい機会だと思い、爺さんと婆さんに言いました。

「私は、自分の力を試すために、鬼ヶ島へ行ってまいります。」

「それでは、私が特製の団子を作ってあげますよ。えーと、マンドラゴラはどこにあったかしら?」

 爺さんがついたモチに、婆さんが怪しげな材料を混ぜて吉備団子が作られました。そして、餞別に用意した陣羽織と、刀を渡しました。

「行ってまいります!」

「気を付けて行っておいで。」

 爺さんと婆さんは、桃太郎が見えなくなるまで見送りました。


 しばらく道を歩いていると、妖気の気配がします。

「誰かいるのか?」

 そう草むらに声をかけると、犬の様な妖怪が出てきました。

「いい匂いのする食べ物を持っているな?俺様に寄越せ。」

「断る。紅蓮剣!」

 桃太郎が、刀を振ると、その刀身が炎に包まれました。そして、犬の様な妖怪を一太刀の元斬り伏せました。

「ぐあ、すさまじい強さだ。」

「私の攻撃で死なないとは、お前も、なかなかの強さだ。一緒に鬼ヶ島へ行くなら、団子を一つあげよう。」

「その強さの秘密が知りたくなった、一緒について行こう。」

 こうして、お供に犬の様な妖怪がついてくることになりました。


 桃太郎たちは旅を続け、山の中へ入りました。すると、再び強大な妖気の気配がしました。

「そこだ!」

 木の上にある妖気の出どころへ、落ちていた石を投げると、一匹の猿の様な妖怪が降りてきました。

「うまそうな物を持っているな?俺に寄越せ。」

「真空断裂破!」

 桃太郎が切裂いた空間が真空になるくらい素早く刀を振り下ろしました。猿の様な妖怪の胸を、袈裟のように切り裂きました。

「ぐは、まいった。降参する。しかし、うまそうな匂いだ。」

「それならば、一緒に鬼ヶ島へ行くなら一つやろう。」

 猿の様な妖怪は吉備団子を受け取ると、口に含みました。食べるにしたがって、桃太郎に斬られた傷が塞がっていきました。

 

 森を抜け、旅を続けていると、海が見える草原で出ました。すると、空から強大な妖気を放つ鳥が襲ってきました。

桃太郎がサッと避けると、鳥の妖怪は地面に降り立ちました。

「うまそうな人間だ、我が食ってやろう。」

「八咫烏!」

 桃太郎の刀から、3つの斬撃が飛ぶと、鳥の妖怪の羽を切り裂きました。

「ぐああ、これではもう飛べぬ。殺してくれ。」

「私の吉備団子を食べると良い。その代わり、一緒に着て働けよ。」

 鳥の妖怪が吉備団子を食べると、羽の傷は治りました。

 

 三匹の妖怪を仲間に加えた桃太郎一行は、海に着きました。

「さっそく、働いてもらおうか。」

 桃太郎と、犬と、猿は、鳥の背中に乗りました。

 海の向こうに、黒い雲に覆われた島が見えます。きっとあそこが鬼ヶ島だろうと、そこへ向かいました。

 鬼ヶ島に近づくと、嵐の様に天候が悪くなったが、なんとか海岸に降り立つことが出来ました。

 すると、さっそく赤鬼が出てきました。

「何者だ?ここが鬼ヶ島と知っての事か?」

 犬が真っ先に対峙しました。

「下っ端程度が何を言う。牙岩砕!」

 桃太郎には負けた犬ですが、常人より遥かに強いようで、鬼が持っていた金棒を噛み砕くと、赤鬼は城へ逃げていきました。


 赤鬼を追いかけ、鬼が住んでいる城に着くと、赤鬼が鉄の門を閉めてしまいました。

「ここは俺に任せてください。絡手。」

 猿はそう言うと、手に妖気が集まり、まるで吸盤の様に門にくっつくことが出来るようになりました。

 そのまま門を登り切り、門の反対側へ降りると、門を開けてくれました。

すると、城からワラワラと青鬼、黄鬼、紫鬼など、様々な鬼が、いろいろな武器を持って出てきました。

「次は、我がやりましょう。突貫閃!」

 鳥はくちばしに妖気を集めると、まるで矢のように次々と鬼を倒して行きました。残った鬼は、犬と猿も攻撃し、最後に鬼の王が残りました。

「やってくれるではないか。吾輩は鬼の王であるぞ。ひれ伏せ!」

「私は、自分の実力を試しに来た。尋常に勝負してくれ。」

「よかろう、1対1の一騎討といこうではないか。」

 鬼は、多勢に無勢だと思ったのか、桃太郎の申し出を受けました。


 城壁から石がカコンと落ちたのを合図に、一騎討が始まりました。

「くらえ、金剛破軍!」

 鬼の棍棒が巨大になり、地面に叩きつけられると、地面が割れるほどの衝撃が起きました。

「当たらなければ、怪力など無意味。奥義、神魔滅殺剣!」

 桃太郎の剣が、数千の太刀筋をもって鬼を滅多切りにしました。鬼が頑丈だったのか、桃太郎が手加減をしたのか分かりませんが、鬼の王は生きていました。

「ぐふっ、吾輩の負けだ。好きなものを持っていくがよい。」

 桃太郎は、戦利品として、金銀財宝を貰う事にしました。

「これは持ち主に返しておく。強くなったらまた再戦しようではないか。」

「ふっ、これは盗みを働いている場合ではないな。よかろう、また再戦といこうか。」

 

 戦いが終わると、鬼ヶ島の天気も回復し、飛べるようになったので、鳥の背中に乗り、足に袋に入れた金銀財宝を掴んで飛び立った。

 村に戻った桃太郎は、爺さんと婆さんに旅の話をしました。

「それでこそわしらの息子だ、日本一強いんじゃないか?」

「そうですね。それと、返した財宝の1割はお礼にもらいましょうか。」

 結構あざとい婆さんであった。その後、様々な出来事を終えて、桃太郎の強さは日本中の知ることとなった。

「強さに自信のある者は、私に会いに来い!」


おしまい

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桃太郎ファンタジー 斉藤一 @majiku77

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