自分が読む用の掌編
シオン
ストーカー
一目見た瞬間、俺は彼女に一目惚れしていた。
端正な顔立ち、今時の女子高生ながらその立ち振舞いは名家のお嬢様とも引けを取らない優雅さに目を離せなかった。
彼女はよく駅で見かけた。俺とは別の高校だがあの制服からしてきっとお嬢様学校で名高い桜空学園に通っているに違いない。
そうして彼女を眺めている内に俺は、
彼女のストーカーになっていた。
◆
俺もどうかしていると思う。しかし彼女を眺めているとつい動向が気になってついていってしまう。先日高校をサボって彼女の通う学校までついていってしまったのは流石にまずいと思った。
最初はそう、彼女が危険な目に遭わないか心配になってちょっとだけ監視していたんだ。彼女は顔が整っていて笑うと可愛い。そんな彼女が痴漢や誘拐に遭わないとは限らないのだ。
いやいや、お前がそれをする可能性があるだろってツッコミは無しで頼む。俺はこう見えて紳士だ。プチストーカー紛いなことはするが、彼女を傷付ける気は毛頭ない(つもり)
そうして監視すること3ヶ月、俺は今日も心配になりながら彼女を見守っていた。そう、それは純粋な父性から来るものであって、決して不純な気持ちは一切入っていない。
しかし今日は珍しく夜遅くまで彼女は外にいた。いつもは17時30分に帰宅し習い事を始めるのに、今日は18時に電車に乗っていた。
夜は危険に満ちている。今彼女を守れるのは俺だけなのだ。そう意気込む俺だが、彼女が角を曲がった時彼女を見失ってしまった。
何故?確かに後を追っていたはずなのに。
焦った俺は背後から忍び寄る魔の手に気付くことが出来ず、何か甘い匂いを嗅がされ気を失ってしまった。
◆
気が付くとベッドらしきものに寝かされていた。しかし状況は穏やかではなく両手両足が縛られていた。
パニックに陥った俺は助けを呼んだ。しかし声は虚しく響くだけで反応はなかった。
目が覚めて数時間、もう声すら出すことをやめた俺は遠くから足音を聞いた。俺を捕まえた奴がこっちに来ているのか?俺は両手両足を縛られている状態だ。助けに来る分には良いが、それは期待出来ないだろう。
扉が開く。その人物は俺がストーカーしていた女の子本人だった。
「何故君が!?」
俺は訳が分からなかった。何故彼女がここに?彼女も捕まったのか?しかしどこも拘束されているところはない。
彼女は微笑んで近付いてきた。
「それは、あなたを監禁したのが私だからですよ?」
それは甘く、囁くような声だった。
「君が、俺を?」
「えぇ、あなたが私をつけ回していたのは知っていました。いえ、そうさせたのは私ですが」
そうさせた?どういうことだ?
「あなたが私に興味を抱くように仕向けました。毎日同じ電車、近い距離に位置して、常に私を感じさせる距離で私を意識させました」
そんな、俺は彼女を好きになるよう仕向けられていたのか?でもなんでそんなことを?
「私は今の日常に退屈を覚えていました。だから刺激を求め、私に興味があって、それでいて私にどんな目にあっても私を好きでいてくれる殿方を探していました」
彼女は妖しく微笑む。
「痛い目に遭っても苦しい目にあってもお腹が空いても家に帰りたくなっても人生が台無しになっても、あなたは私を好きでいてくれますよね?」
「俺は、俺は・・・・・・」
「さあ、夜は長いですわよ?」
俺はこれから後悔するくらい彼女から苦痛を受けることになる。しかし、それはまた別のお話で語られるだろう。
あぁ、今日も彼女の足音が聞こえてくる。
おわり
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