暇だったので
週末は何もしないで過ごすことが多い。
仕事を週五日で働いてせっかく二日休みが貰えるのだから何かしたほうが有益なのだが、そう意気込むときに限ってただグダグダと時間を浪費して、結局は何もせず週末を終えることが多い。
決して無趣味な訳ではない。といっても唯一の趣味は読書なのだがその読書が最近身が入らず、本を手にとっても物の十分程度しか集中して読めないのだ。後は最近手に入れた毛布にくるまって一日を過ごす。
そんな生活が一ヶ月続いた頃、流石にまずいと思ったので無理矢理外出することにした。仕事以外で外に出ることはあまり無く、こうして自分から外に出たのは本当に久しぶりである。しかし困ったことに玄関を出たのは良いが、肝心の目的地がまだ定まっていないのである。
近所にはコンビニと公園があり、遠出すれば本屋やカフェもある。しかし遠出するにはバスを使う必要があり、バス停は約一キロ先にある上今日は気温五度を下回っており、非常に寒くてバスを待ってられないのだ。仕方ないので私はコートのポケットに手を入れまずはコンビニを目指した。
コンビニで温かいレモンの飲み物を購入し、一口付けたところでまた行き先の問題にあたった。今からバス停に向かうのは面倒臭い。しかしこのまま帰るのも少々味気無い。そう悩みつつコンビニの端でたむろしていたら一組のカップルを見かけた。
お互い中学生だろうか。少女は髪を伸ばした可憐な顔つきをしていて、男はいかにもスポーツをやっていそうな爽やかな風貌だった。よくいるカップルに過ぎない。しかし今日は何故か私の胸が傷んだ。
私は週に五日も働いて、残業も断らずにしてようやく休みを過ごしているのに何故こうまで虚しい休日を送っているのだろう。特に恋人が欲しいというわけではないが、他の誰かが幸せそうに生きていることが無性に腹が立つ。私はこれ以上関わらないよう静かにその場を後にした。
公園に行くこともなくふらふらと裏の道を歩いた。最初は家ばかりだったが、少し抜けるとそこら一面に田んぼが広がっていた。自宅からだと住宅街に隠れて気付くことはなかったが、この景色は壮観だった。少し歩くと堤防があり、向こうには川が流れていた。
私は堤防の上を歩くと向こうからジョギングをしているおじさんがやってきた。この寒い時期に半袖短パンである。寒くないのだろうか?しかし筋肉のある人間は寒さに強いとも言うし、意外と平気なのだろう。私は軽く会釈をしてすれ違った。
私はいい大人だが、初めて歩く道はいつもワクワクする。これでも学生の頃は冒険心に溢れていて自転車で何十キロ先まで走ったものだ。向こうの川の音が心地良い。風の音も耳に響くが気を紛らわしてくれる。外は意外にも環境音に溢れていて、イヤホンで音楽をかけなくても退屈はしない。
歩いていると堤防の下に階段があり、降りるとちょっとした広場になっていた。特にそう意図して作られた訳じゃないだろうが、私はそこでしばらく景色を見ていた。たまに仕事の愚痴を独り言のようにぼやくが、こう人がいなければ誰にも聞かれはしないだろう。
外で一人になるとたまに思う。広い世界で自分一人になったらどうなるのだろうと。多分間違いなく生きていけないだろう。しかし、人間も退屈も悩みもない世界は、不謹慎だが少し夢見ている。
気付くと空は薄暗くなっていた。そろそろ帰ろう。私は通ってきた道を引き返した。また明日から仕事が始まる。そんな日々に辟易しつつ、これからも生きていくのだろう。
今日は少しは良い日になれただろうか?
おわり
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