週末問答

冥仙りな

週末問答

それは、何の変哲もない週末の話だった。



「なぁ、羊って眠れない時に何数えてんだろう」

一人の男が唐突にそんな問いを投げかける。

「草の数とかじゃないの。まぁ、こんな明るいんじゃそうそう眠れないよな」

眼下に広がる青々とした芝生を眺めながらそう答えるもう1人の男。二人は新緑が鮮やかな河川敷に寝そべっていた。人もまばらで、大の大人が昼間から二人してくだらない会話をしていても好奇の目線をやる者は居ない。

「理論上はマグニチュード12の地震で地球が割れるらしいぜ」

先程質問を投げかけた方の男がまたそうつぶやく。無造作な髪だったが、元からかかっている緩いウェーブのお陰でそういったセットなのではないかと思わせる、中々の伊達男だった。

「そういえばそんなキャラ居たな。杖で地面叩くと地球割れるの。分数で調節するんだよな」

眼鏡を押し上げながらきっちりと撫で付けた髪の男がそう返す。誠実そうな見た目に対するラフな服装が、アンバランスなのによく似合っていた。

「お前やけに詳しいな、ファンか?」

「いや、実家で良く流れてたんだよ」

滔々とうとうと繰り広げられていく会話劇を気に留める者は誰一人としておらず、当の本人達もこの行為に大した意味を見いだせていない様子だった。

「お前はゾンビパンデミックが起きたら終盤までは生き残るけど終盤で死にそうだよな」

速い雲の流れを目で追いながら放った言葉はゆっくりと五月晴れの空に消えていった。

「お前は序盤でフラグ立てまくって死ぬよ」

辛辣ながらもどこか信頼を感じさせる男の口調はたった一人のためだけに誂られたようなものだった。

「超新星って英語でスーパーノバって言うんだぜ、かっこいいよな」

「お前はさしずめスーパーロバだ」

「なんだよスーパーロバって」

次第にこの静かな河川敷にも喧騒が広がり始めた。話題はまだ尽きそうになかったが、この会話にも終わりが近いことを二人は悟っていた。

「ノアの方舟ってスゲーよな、めちゃくちゃ色んな種類の雌雄をノアは見分けられたんだよ」

「ヒヨコ鑑定士として生まれ変わったら最強かもな、ノア」

先程よりも随分と水かさを増した川を彼らは無視する。

空が赤い。

「なぁ、週末何するのが好き?」

「そうだな、お前と話してるので大体時間潰れるからな」

「それはアレだろ、終末の過ごし方だ」


陽は沈まず、大地は揺れ、疫病が街に溢れ、星は死に絶え、海が世界を侵食した。



これは、何の変哲もない終末の話だった。

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