第34話 怒りと恨み
グランツの猛攻を、ミーティアは相も変わらず避け続けていた。
突風、足蹴り、翼打ち。巨躯から繰り出される殺意はどれもこれもが大きく、鋭く、凶悪な射程をもって襲ってくる。
であるにもかかわらず、どの攻撃も一つとしてミーティアを捉えることはなかった。
グランツの胸中に、苛立ちだけでなくほんの微かの焦燥が混じり始めた。
「風みてえにふわふわと逃げやがって! どういうカラクリだゴルァ!」
「おぉっ、それって褒め言葉? ありがとー!」
「褒めてねえクソが!」
「ちぇー。おっとアブなっ」
ミーティアがまたもやグランツの足蹴りを避け、続けざまの突風もやり過ごす。
そのとき、ミーティアは新たに加わった飛翔音に気が付いた。飛行機のほうを見ると、ロイが単身飛び出し、飛行機を鷲掴みにしているココに話しかけていた。ココは驚いた様子だったが、敵意を示している様子ではなかった。話し合いがきちんと成立している様子だった。
「おー、うまくいきそうな感じかな」
ミーティアが呑気につぶやいたとき、
「よそ見してんじゃネエ!」
グランツが強大な嘴で食らいつこうとし、ミーティアが避けた瞬間に体を当ててくる。それをすんでのところで避けて、ミーティアは一旦距離をとった。
「てめえ! 反撃の一つもしてこねえってのはどういうことだ!」
ミーティアが、間髪入れず追撃してくるグランツから逃げる。
「だってー! 別に喧嘩したくて来たわけじゃないし。それに、反撃って言ったってこんなのしかないし! こんなんじゃあそっちだって怪我の一つもしないでしょ?」
そう言いながら、握っているナイフを小さく振ってみせた。
「くっそくだらねえ……! 戦う覚悟もねえ奴が、空を飛んでるんじゃねえ!!」
グランツが再び加速し、ミーティアを鷲掴みにしようとする。またもや避けると思われたミーティアだったが、グランツの言葉を聞いてあからさまにむっとした表情を浮かべると、避けるどころか、正面から肉薄し、その肢にナイフを突き立てた。
「ってぇ!」
ナイフがグランツの肢の爪と肉の間に刺さり、鮮血が流れた。
グランツが怯んだすきに、ミーティアはその目の前まで飛んでくると、グランツの眉間の羽毛を掴んで相手の目を、文字通り目の前でまっすぐに見据えた。そして、まるで叱りつけるかのように言った。
「そんな覚悟がなきゃ飛べないほど、この空は小さくないでしょ?」
グランツの体から思わず血の気が引いた。自分よりもはるかに小さくて非力な生き物が、自分よりも冷静な目で自分のことを見ていた。なによりも、人間という生き物を、これほどの距離で見るのは初めてだった。
「……っ、黙りやがれ! てめえら人間が空を空を飛んだりしたせいで争いが始まったんだろうが! てめえらはおとなしく地面に這って生きてりゃいいんだ!」
「どっちもどっちじゃん。あなたたちだって、飛ぶのに疲れたら森に木々で翼を休めるじゃない。その木々は地面に根を生やしてるんだよ?」
「その木を奪いに来たくせにどの口でモノを言ってやがる!」
グランツはミーティアを振り払った。放り出されたミーティアが何かに気付き空を見上げる。グランツはなおも吠えた。
「散々奪ってきたやつらを森に入れるわけねえだろうが! これ以上は近づけねえ、まだ進むってんなら死んでから魂だけで行きな!」
「だからー! そういう物騒なことをするつもりじゃ……さっきナイフ刺したのも申し訳ないって思ってるしー!」
「まだ言うか……! 減らず口の止まらねえ奴だ、我慢ならねえ。殺して黙らせる!」
その瞬間、ミーティアの目の前に巨大な影が降ってきた。それはグランツと重なったかと思うと、
「っぐあぁぁおあぁ!?」
グランツの頭を鷲掴み、そして締め上げた
ミーティア・ウォリスという名の空戦史 るどるふ @LUDLUF
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