四牡(引用3:任務に就く配下を思う)

四牡しぼ




四牡騑騑しぼひひ 周道倭遲しゅうどういち

豈不懷歸がいふかいき 王事靡盬おうじびこ 我心傷悲がしんしょうひ

 四頭立ての馬車が進む道は、

 周の政局のように曲がりくねる。

 どうして家に帰りたいと

 思わずにおれるだろうか。

 けれども王よりの命を

 ないがしろにはできぬ。

 ああ、痛ましきは我が心よ。


四牡騑騑しぼひひ 嘽嘽駱馬たんたんらくば

豈不懷歸がいふかいき 王事靡盬おうじびこ 不遑啟處ふこうへきしょ

 四頭立ての車を引く馬たちは、

 その辛き道のりにあえぐ。

 どうして家に帰りたいと

 思わずにおれるだろうか。

 けれども王よりの命を

 ないがしろにはできぬ。

 ああ、休むことも許されぬ。


翩翩者鵻へんぺんしゃすい 載飛載下たいひたいか 集于苞栩しゅううほうく

王事靡盬おうじびこ 不遑將父ふこうしょうふ

 空を飛ぶのはハチマンバト。

 あるいは飛び上がり、あるいは下る。

 そうしてトチノキの枝にとまる。

 ああ、王命をないがしろにはできぬ。

 老いた父の世話も、満足にできぬ。


翩翩者鵻へんぺんしゃすい 載飛載止たいひたいし 集于苞杞しゅううほうき

王事靡盬おうじびこ 不遑將母ふこうしょうぼ

 空を飛ぶのはハチマンバト。

 あるいは飛び立ち、あるいは留まる。

 そうしてクコの木の枝にとまる。

 ああ、王命をないがしろにはできぬ。

 老いた母の世話も、満足にできぬ。


駕彼四駱がかしらく 載驟駸駸たいしゅうしんしん

豈不懷歸がいふかいき 是用作歌ぜようさくか 將母來諗しょうぼらいねん

 四頭立ての馬車に乗り、

 ガラガラとひた走る。

 どうして家に帰りたいと

 思わずにおれるだろうか。

 だからこそ、この歌を歌うのだ。

 ああ、早く母を世話したいもの。




○小雅 四牡


唐風鴇羽

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069/episodes/1177354055175937486

との関連性も見出しうる詩であるが、当該詩が「民の視点からの辛さ、怨嗟」を歌ったのに対し、当詩は上の立場から、父母を心配しつつも公役に従事する配下の辛さに同情したもの、という違いがあるそうである。わかるかそんなん。このあたり、断章取義的に取り扱ってはまずそうな雰囲気を感じずにはおれぬな。「王事靡盬」句を鴇羽からの引用とするか、当詩からの引用とするかで全くニュアンスが変わってこよう。




■お前頑張ってんな


三國志64 諸葛恪

功軼古人,勳超前世。主上歡然,遙用歎息。感『四牡』之遺典,思飲至之舊章。


呉の重臣諸葛瑾の息子、諸葛恪。彼もまた呉後期の重臣として活躍した。ここでは諸葛恪が山越という蛮族討伐に出た時に、孫権から発されたねぎらいの言葉である。当詩に乗るような苦労をお前にもかけてしまっているな、というわけである。




■この旅路の気の重さ


宋書43 傅亮

四牡倦長路,君轡可以收。


劉裕の後継者である劉義符は皇帝として不適格であったため、傅亮をはじめとした臣下は劉義符を廃位の上、その弟である劉義隆を次なる皇帝に推戴しようとした。この句は劉義隆を迎えるための旅路に出た時の傅亮がなした詩の一節である。その長い旅路に倦み、かつその先に待っているのであろう破滅の気配がひしひしと伝わってくる。なお傅亮らは廃位後の劉義符を殺害したため、その咎を劉義隆に責められ、殺されている。




■臣下を心配してくれ


魏書21 元雍

非所以奬勵皇華而敦崇四牡者也。


北魏宣武帝(元恪)の時の王族の一人である。宣武帝の下で法令を定めようとするときに表明した中に見える一節で上掲句が見える。次に紹介する皇皇者華は任務に従事した配下を盛大に労う詩、である。それを奨励せず、当詩のごとき想いを厚くせよ、というのであろうか。褒美とかそういったものも重要だが、臣下を思うことの方がより大切だ、となろうかな。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B9%9D#%E3%80%8A%E5%9B%9B%E7%89%A1%E3%80%8B

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