最終話 そして未来へ(後)

甲板から放たれた擲弾の合図で式典が開幕した。


「只今より、第70回海軍戦勝記念式典を開催します。司会は私、高浪たかなみが勤めさせていただきます。」


綺麗に通る声をマイクに響かせ、司会が開会の宣言をする。


「それでは、まず始めに国旗掲揚ならびに国歌斉唱。日本海軍儀仗隊にほんかいぐんぎじょうたい第3小隊および台湾高砂義勇隊たいわんたかさごぎゆうたい、陸海軍軍楽隊による祝賀儀仗です。」


予め待機していた軍楽隊は君が代行進曲を奏で、戦艦大和のドックと戦没者慰霊碑の前に作られた観覧席の前に作られたスペースにどこからともなく彼らがカツカツとコンクリートに革靴を打ち付ける軽快な歩みと彼らの持つ三八式歩兵銃が鳴らす細かな金属音ともに一寸たりとも乱れぬ隊列を組み入場する。そしてその後方には袴を着て日本刀を構え、江戸の武士に似せた歩兵と、高砂族の民族衣装である布衣ホンイを纏い蕃刀ばんとうを装備した高砂義勇隊がやってきた。


軽快な行進曲のリズムに合わせて一歩一歩と前進する。


「しょうたーいっ!とまれっ!」


小隊長の合図とともに儀仗隊全員がその場に静止する。


「みぎむけーっ、みぎっ!」


大きく足を上げて二歩その場に足踏みをする。その過程で右方向を向く。隊員のまるでプログラミングされたロボットのように正確かつ高速なその動きは日頃の厳しい訓練の賜物であった。そして二つに分けられた観覧席の間の花道に日本国旗を掲げた儀仗隊指揮官と銃剣を構える二人の兵が行進して花道の先にある台に登り、国旗を掲げる。


「それでは、国歌斉唱を行いますので、ご観覧の皆様はご起立、ご脱帽のほどよろしくお願いいたします。」


司会の指示から数秒たち、軍楽隊指揮者が腕を振り上げる。そして、君が代の演奏が始まった。観客席では大合唱が起きていた。


国旗の掲揚を終えた儀仗隊指揮官と横の歩兵が先ほど来た道を辿り、観客から見えないところへと向かった。


「続いて、日本海軍儀仗隊第3小隊及び高砂義勇隊、陸海軍軍楽隊の儀仗演武です。演奏される曲は海軍行進曲です。それでは、どうぞ。」


司会の声が会場に響く。すると、


「ささげーっ、つつっ!」


儀仗兵が銃を目元の高さまで上げる。そしてそこで数秒間保持してから、


「おろせーっ、つつっ!」


その合図で足踏みし、銃を銃口を上に向け銃床を下に地面につけ休めの体制をとる。その一糸乱れぬ動きに観覧席から歓声と拍手が上がった。


軍楽隊の方から指揮者が国旗掲揚が行われた壇上に上がり、腕を振る。



勇ましい管楽器と打楽器の音が鳴り響き、儀仗隊もそれに合わせて演武を始める。一列に横になった兵士たちが銃を体の横に立て新体操のバトンのように回す。体の横に立てた銃を両手で握り前方下部に向け、回しながら元の場所へと戻す。そして横に立てられた銃を体の前に置き、たんたんとストックを叩きそのままくるりと左右に一回づつ回転させ、また体の横に戻す。そしてまた前方下部に銃口を向け、一回転させた後に空へ投げ放つ。最後は銃床を下にして地面に接地させ、俯きながら休めの姿勢をとった。周りから拍手が鳴る。

演奏の中にある一音の合図で移動を開始する。片足を内股にして後方に向く。銃装儀仗兵は横にそれ、横で先ほどと同じ動きを、中央に入った武士の装いをした歩兵と民族衣装をまとった高砂兵たちは彼が持つ太刀と短刀で演武をする。

隊列を乱さぬままに整列した武士らは腰に提げた鞘から目に見えぬほどの早さで抜刀し、またそのまま一瞬で鞘の中に戻し、また抜刀して中段の構えを取る。高砂兵は蕃刀と言われる短刀をバタフライナイフのようにくるくると回し、刀の投げ渡しや鞘ごと銃のように空に投げ放った。毎年恒例の動きではあるが、今年は一段とキレが良かった。

最後は全員がいくつかの円になり、銃装部では横の兵士同士で銃を刀のようにクロスさせ、銃床を互いに上に弾き、銃を回転させ相手の元に渡す。刀装部は中央に一人の武士と一人の高砂兵を置き、斬り合いを模した演武をする。刀をぶつけ合い、弾き合いと。周りの兵は刃の部分を地面につき、八相の構えをとる。

そして演奏が終了したのと同時に銃装部の兵士が空に向けて空砲を放った。


観客先からは割れんばかりの拍手が響いていた。


儀仗奉納後には弔文奉納や黙祷が行われる。そして最後にはこの式典の大目玉、日本海軍観艦式が行われる。




展示ドックに停泊していた大和が錨を引き上げ、すでに待機列をなしていた海軍艦艇の前につく。



「それでは、本日最後の大一番!日本海軍の観艦式です!まず一番手前に見えますのは第二次世界大戦中様々な海戦で猛威を振るい、今では作ることが不可能な46センチ三連装砲は様々な国の海軍艦艇を海の底に沈めました。」


おおっと観覧席から歓声が上がる。


「大和の祝砲斉射です!」


〈主砲打ち方始め!〉

〈うちーかたーはじーめー〉


ヂリリリリリリと警告のベルが鳴る。46センチの三連装砲の爆風は至近距離にいたものを木っ端微塵に破壊し、少し離れていたとしでも全身大火傷、もしくは体の一部が持っていかれるか風圧に押し飛ばされて海にドボンだ。このベルがなった時、甲板にいる水兵たちは皆安全な場所に避難していたそうだ。


ベルが鳴って1分後、主砲から大きな炎が上がり、数秒遅れてドオン!という耳を破壊するほどの大きさの砲撃音が轟いた。大和から放たれたのは空砲ではなく徹甲弾。海に突き刺さった時、とてつもなく高い水柱が3本上がった。


水柱が上がると観客は拍手する。


「続いて見えますのは日本海軍第一艦隊の艦艇です!」


旗艦である空母紀伊きいを先頭に様々な艦種の船が行進する。


「第一艦隊は空母出雲いずもを旗艦にミサイル駆逐艦、駆逐艦、巡洋艦、潜水艦、そして哨戒艇など総計40隻を、180機の航空機を保持しており、普段は主に南シナ海やインド洋を中心に活動している艦隊です。」


司会より簡単な説明がなされ、その説明を横目に説明された40隻の艦艇が観客たちの前を通り過ぎる。


「すげぇ!この前就役したばっかの摩耶まやじゃん!」


観艦式に入りテンションは最高潮に達していた拓海はパシャパシャとカメラのシャッターを切る。実はさっきの祝砲斉射も連写で一秒たりとも逃さずにしっかりカメラに収められていた。主砲斉射時に撮った写真はなんと300枚以上に達していた。


そして、大艦隊の行進は一時間にも及び、午後一時丁度に始まった式典が終わった時にはすでに三時半をすぎていた。式典が終了してからまたはじめの艦艇ドックに入った大和の前ではたくさんの人が写真を撮っていた。


大和公園の中には戦争資料館に軍用機展示場、第二次世界大戦の最後の艦隊決戦である北西太平洋海戦を生き残った空母や駆逐艦を展示する場所があった。式典が終わってもなお、そこで拓海はカメラのシャッターを切り続ける。




そして、拓海と憬は帰路につく。

「あのさ拓海。」


憬が口を開く。


「なんだ?」


カメラで撮った写真を見ていた拓海が反応し、カメラを下ろして彼の方を見る。


「もし、第二次世界大戦で日本が負けてたら、どうなってるのかな。」


「さあ?僕にはわからない。まぁ僕にわかることは...」


「わかることは?」


拓海は一拍ついてから、


「今の日本と、ほとんど変わってないんじゃない?ただ負けたってことが事実になっただけだと思うな。」


彼はそう言って、また歩き始めた。









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皇國最期の反抗~Empire War~ 犬飼 拓海 @Takumi22119

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