第三十九話 そして未来へ(前)

-そして、現在。

「遅いなぁ、あいつ」

一人の青年が溜息をつきながらスマートフォンの画面を眺める。もうかれこれ十分以上経っているのに一向に姿を現さない友人に一抹の怒りを感じていた時、


「ごめんさとる、寝坊した!」


人混みをかき分け彼の友人であろう首に一眼を掛けた眼鏡の青年が奥から走ってくる。


「遅いぞ拓海たくみ!整理券配布に遅れちまう!急ぐぞ!」


憬は拓海を置いていかんばかりの勢いで配布所に向けてダッシュする。それを後ろから拓海が必死に追いかける。



 配布所には長蛇の列ができていた。促されるままに最後尾に駆け込んだ彼らははあはあと二人とも肩で息をしていた。


「ぎりぎり、貰えそうだな」


「ああ。一瞬ヒヤヒヤしたぜ、お前さんのせいでな」


意地悪っぽく憬は笑いながら拓海に言った。



「今日はいい天気だし、儀仗隊の銃剣も刀もいい感じになりそうだな。アマチュアカメラマンの腕が光るぜ!」

 

拓海は自身の恋人とも言える帝国映研(帝国映像研究所)の一眼レフを撫でる。


「そろそろアマチュアの看板はおろしとけよ...」


 少々呆れたように憬は彼の言葉に言い返す。ふと、遠くからメガホン越しに大きな声が響く。なんだなんだとその方角を見ると、

「戦争反対」「軍隊いらない」「軍事費を福祉に回せ」と書かれた赤い横断幕を掲げ、横断幕に書かれたそのままのことを大声で繰り返す集団がいた。

「また共産の連中か...式典の場なんだから静かにしてくれよ...」と周りにいる一般市民は露骨に嫌な顔を向ける。


 彼らは時折道行く外国人労働者の男女に機関紙の赤旗を渡そうとするが、「No thank you.」「いらないです。」とことごとく断られていた。


 小一時間ほど待ち、整理券の配布が開始される。彼らは残り3枚のうちの2枚を手に入れることができた。


「本当にギリギリだったな...」

「本当にすまなかったよ。」


 共産党の連中はあからさまに外国人を狙って赤旗を配っていたためか労働者たちの怒りを買い、「Go to hell!」「Fuck you!」と罵声を浴びせあうものだったが、ついには殴り合いのkilling Field殺戮場となり、警察が出る羽目になっていた。



 整理券を受け取った彼らはそれを持って「大和公園」の入場ゲートを潜った。

 入場ゲートを通った後、右手には戦争資料館があり、その奥には航空機展示場、戦闘車両展示場がある。そして大きな広場を抜けると、戦艦大和が錨を下ろす艦艇ドックと今日のために設置された大きな観覧席がある。呉の旧大日本帝国海軍軍港跡地に作られた軍事資料館である。


 この式典が終わったら兵器展示場と戦争資料館を覗いてから帰ろうとと二人は決め、観覧席へと向かった。



 入場から30分、戦艦大和の前方甲板から放たれた擲弾花火の合図によって、待ちに待った戦勝記念式典がついに開幕した。

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