新世代と旧世代

プロラシオン「……おぉ!演奏会!やっと大講堂の再建が終わったんだねー」


ポストの中に入っている手紙と宣伝の紙。こんな辺境までお疲れ様です。

手紙の大多数は【我が部隊に復役して欲しい】というものだった。

もう僕は戦場には戻らないとあれほど言ったのに。それに僕が所属していたのは近衛兵科直系の防衛偵察大隊なのに、どの手紙も内容から考えると駆逐艦職しか用意していないらしい。

駆逐艦は正直興味無いし、武器も全然適合出来ないからやりたくない。身体が小さいとこういう時悔しいよね。


プロラシオン「……?なんだ、総火力演習も同時に行うんだ。じゃあ軍楽隊の人が最初の演奏会を独占してるんだ。当たり前かー」


とにかく。呼ばれてるなら行ってみよう。最後に本格的な演奏を聞いたのは、僕が軍を去る一日前の戦闘の時。あの時の曲は……AC7の【Anchorhead Raid】


プロラシオン「やっぱり入ってる……あの時から広がったもんだね。」


僕からしてみれば、この曲は軽いトラウマになっている。勇ましいが勇ましい故にみんな暴走状態になる。その結果いつの間にか壊滅寸前になったり。


でもせっかくなんだ。あの時のことを思い返しながらこの曲を聞こう。演奏している人が違うなら、きっと違う感想が生まれるに違いない。


プロラシオン「よーし。覚悟決めたぞ。もう年数経ってるんだ。大丈夫。……大丈夫」



#####


数日後、演奏会が行われる大講堂に泳いで向かう。既に大講堂は開放しており、様々な人魚が入場している。大抵高貴な衣装をしているのが少しだけ顔を顰めてしまう。貴族連中は僕達前線の人魚を捨て駒のように使い潰す時があるし。高級将校はトップエースの人魚を信用していない。机上の空論ばかり言いやがって。


プロラシオン「うげぇえ……あいつ出世してる。うひぃ……うぅぅ~~」


よく覚えている顔や敵対していたグループの人魚が居たりして居心地が悪い。そもそも今新しく入ってきた子達に比べたら旧式の癖になにデカい顔してるんだか。

うげうげーってなりながら大講堂にはすぐに入らず、併設されている巨大演習場に浮上する。大講堂は海中で、演習場は海上なのだ。人間にはどう説明すればいいんだろうなぁーと毎回思う。


プロラシオン「ここは変わってないねー。設置してある的を変えるだけだもんね」


かなり遠距離に置かれている的もあれば近い距離に巨大な的が設置してある。誰でも遊べる演習場。子供の頃からこうやって遊び感覚で射撃訓練させるんだから、そりゃ才能ある子は強く成長出来るよね。


???「そこにいるとぶつかっちゃうわよ。らしくないわね。」


周囲がいきなり暗くなれば、けっこう上の方から声が聞こえてくる。

見上げれば優しい微笑みを僕に向けている人魚が居た。このサイズは戦艦か空母かな。体長は僕の十倍以上は確定であるから、近付くことは殆どなかった。だから手を伸ばせば触れられる距離は正直怖い


プロラシオン「……怖い。離れて欲しいよ。えーっと…?」

グロワール「グロワール・プラットフォーム。貴女とは1度だけ大討伐で共に戦ったわね。あの時の活躍は今でも覚えているわよー?」

プロラシオン「その名前は空母だね。……艦載機は何を乗せているー?」


他愛ない会話をしていきリラックスしていく。相手は僕の今やっている事を知らないみたい。

そりゃそうだ。まさか人魚が少ない浅瀬に居住して、過去の遺物を探しては人間に売り捌くなんて普通しないからね。


グロワール「それで。その軍服はいつも着ているわけないよね。そんな目立つの着ていたら、すぐ上層部の耳に入るはずよねー」

プロラシオン「もう軍には戻らないって何度も言ってるのにしつこいんだよぅ。なんとかならない?」

グロワール「中途半端な旧式の空母の私がそんな権限あると思うー?クローバーさんやケストレル様ならなんとかなりそうだけどね」


クローバー。稀代の幸運艦として最前線に居た空母。名前だけなら僕も知っている。かなり長生きしているって聞いたけど。

んで、ケストレル。人魚史上初の空母であり、人魚の繁栄を導いた立役者と本に書いてた。まさに伝説の人物であり、僕は伝聞でしかその活躍などを聞いたことがない。


プロラシオン「その2隻って本当に存在しているの?嘘くっさいんだけど」

グロワール「存在しているわよー。クローバーさんは確実に。ケストレル様は……わかんない」


やっぱり。ケストレルなんて一番最初の空母だもん。もう沈んでるって考えた方がまともだよ。いくら人魚が長命種だとしても、歴史の本に載るくらい昔の人魚だもん。

僕達の代には【歴史上類稀なる豪運を発揮した】としか伝えられていない。


プロラシオン「……まぁいいや。僕は軍には戻らないよ。うん」

グロワール「私に言われても……まぁ覚えておくわ」


しばらく雑談し続ければ演奏会が始まる時間になる。前の方の席や別の階の席は埋まってしまっているため、1階の一番後ろの席に寝転がる。人間みたいに椅子に座るようなことはしない。ここも人間との違いだよね。

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大海原の宝を探して もょもこ @pupurakkyo

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