見えない宝探し

プロラシオン「はぁーー。何しようー?」


桟橋に寝転がり土砂降りの雨で自分の身体を潤していく。

こういったとんでもない日はお客さんが来ない。来ないからつまらない。

海に潜ろうにも波が荒れてて、僕みたいな小さい人魚にはちょっと大変。


プロラシオン「こういった大荒れの日でも泳げるくらい大きい人魚になりたいなー。そうすればもっともっといろんな物を探せるのに」


風が強くなり雨粒が勢いよく身体に当たっていく。勢いがあり過ぎて若干痛いくらい。


プロラシオン「……今日はのんびり室内に籠ろっと」


ドベッドベッと桟橋を跳ねて移動する。人魚は地上では呼吸は出来るが活動は難しい。一部の人魚は浮遊して移動しているとか聞いたけど、僕はそんな凄い魔法覚えられなかった。

店のドアの開閉に苦戦しながらも無事店内に入れば背伸びをする。

元々人魚である僕が住んでいるのだから店内がびしょぬれでも全然違和感はないはず。


プロラシオン「えーと。この雨っていつまで続くのかなー?」


店の奥に置いてある大型の無線機を軽く操作する。無線機は机の上に置かれており、僕は毎回椅子に座って会話をする。普段なら穏やかな海が真横の窓から見えるが今日は荒れ模様。仕方ないね。


プロラシオン「誰かここら近辺を飛んでる子はいるかなー?」


受話器を耳に当ててはクリアな音声を探し続ける。たまーに貨物船の通信が聞こえたりするためやめられない。

この探す時間も楽しむことが大事。宝探しは何も海中で行うものではないからね。


プロラシオン「んー!この魔力波!当たりだー!!」


受話器から聞こえる羽ばたきと空気を切り裂く音。間違いなく高高度を飛行しているハーピーの特徴に当てはまっていた。

無線機の通話スイッチを押して通信を繋げる。しっかり繋がると無線機が少しだけうるさくなる。


プロラシオン「ハローハロー。初めまして。僕はサルベージ屋【レッデンバハス】のプロラシオン。そちらの状況は良好ですかー。お返事どーぞっ」

ナイトウォーカー3「ハロー♪よーっくぞ私の無線を探り当てたね!感度も良好だよー!あ、私はアルべリアラインヒッド空軍基地所属のナイトウォーカー3!よろしくね!プロラシオンちゃん!」


アルべリアラインヒッド空軍基地。無線機の近くにある世界地図を流し目で確認する。僕が構えている店からはかなり遠い位置にある基地だ。もしかしてとんでもなく遠いハーピーと通信を繋いでしまったのではないのかと不安になってしまう。


プロラシオン「ナイトウォーカー3。聞きたいことがあるんだけどー。雨雲って見える?」

ナイトウォーカー3「雨雲ー?ばっちり見えるよ。それがどうしたの?」

プロラシオン「どの方角にどのくらいの速度で移動してるか教えて欲しいんだー」

ナイトウォーカー3「なるほど。ちょっと待ってねー。測距とかするからねー」


随分と明るいハーピーが出てきたなぁーと思いつつナイトウォーカー隊が何処で同活動しているのかなどを軽く調べる。なるほど。夜間専門の爆撃部隊なのかー。


ナイトウォーカー3「オッケーオッケー。こちらナイトウォーカーよりプロラシオン。貴艦の位置を教えて欲しい」

プロラシオン「了解ー。僕の店はねー?」


つらつらと店の位置を言っていく。こういうことでも実は店の宣伝になったりするのだ。店の位置を教えれば雨雲の形や速度を教えて貰えた。


ハーピーはお話が大好きな子が多いため、今回のように無線をガッツリ解放したまま飛行している子が多い。

その分、戦時中はガッチガチの無線封止を行ったりする。そういうことがあるため、その反動で平常時はお喋りしたいのだろう。


ナイトウォーカー3「プロラシオン。貴艦は座礁しているのかな?その位置はかなり浅いから、この無線に繋げることが出来るサイズ軍艦は存在しないはずなんだけど?」

プロラシオン「あー。えーとね。僕、退役軍艦。今使用している無線は専用の無線機を介して行っているんだ」


そういうとナイトウォーカー3が口笛を吹いた音が聞こえてくる。退役軍艦は大抵そのまま破棄されるか次戦までの劣化を防ぐために凍結・石化させられる決まりになっている。なので僕みたいな人魚はかなりレア物でもある。


ナイトウォーカー3「なるほどねー。まぁ、前の戦争は一生語り継がれるくらい消し飛んだからねー。未だに文明残っている事が奇跡だもんなぁー。退役の理由は聞かないことにするよ。話したくないでしょ?」

プロラシオン「う……うん。ありがと。ナイトウォーカー3は現在編隊飛行中なの?」

ナイトウォーカー3「ううんー。私1人だーよ。今は怪しい魔力源が見つかったから、その上空を飛べって指示が出たんだー。プロラシオンちゃんの店からは凡そ1か2日分くらいは離れてるかなー?」


なるほど。怪しい魔力源。まぁ、戦争の名残として高濃度の魔力溜まりが存在していることは知っている。僕の店から1か2日くらいの場所。

まぁ、お客さんが来るであろう街道にはそんなに近くないから大丈夫だろう。ハーピーの1か2日は相当遠いはずだし。

世界地図にガリガリとメモしていき、地上のことを聞いては別のノートに書いていく。人魚だから、どうしても水が全然存在しない内陸部のことは喧伝されたのを精査するしかない。


プロラシオン「うんうん。なるほどねー。ナイトウォーカー3。情報提供感謝するー。貴機の幸運を祈りますっ」

ナイトウォーカー3「了解プロラシオン。それでは会話を終了する。Have a nice day!」


ハーピーお決まりの挨拶が聞こえれば無線が切断された音が聞こえる。もう一度同じ魔力波に通信すれば大抵同じ相手と会話できる。

まぁ、相当うっかりした忘れ物などをしない限り、切断後即再接続なんてしない。


プロラシオン「ハーピーはいいよなぁ。大空を思いっきり飛べるもんね。でも僕達みたいに海中を自由に泳げないもんなぁ」


大粒の雨が窓に当たって不思議な音色を奏でる。荒れた海を見ながら、少しだけ椅子をギシッと揺らしてみる。

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