話すこと。大事だね。

プロラシオン「暇暇ー暇ーー」


水面を尾鰭でリズムを刻む叩き身体を揺らす。

昔に聴いた音色や音質を真似てアカペラで歌い続ける。

人魚は歌が得意とよく言うが、楽器だって中々に上手な同族がいる。

それこそ、戦場のド真ん中でカルメンを演奏しちゃうほどの剛の者だって。

僕はそんなことしなかった。歌も楽器も全然成長の見込み無かったからね。


プロラシオン「きらくぅ~にぃーーうみーのひろぉお~~♪」

「お姉ちゃーん!」


幼い子供の声が水面から聞こえてくる。

声の主はたまに遊びに来る人魚の子供だ。


プロラシオン「今日は何の用だよー!武具は絶対売らないからなー!」

「違うよー!今日は楽器を買いに来たんだよ!ヴァイオリンっての!」


ヴァイオリン。人魚の楽器は一応取り揃えているけど、なんで急にそんなこと言いだしたんだろう?

そもそも楽器はちゃんとした公式のお店で買えばいいのに。


プロラシオン「なんで僕の店なんだよー。アトランティス大楽器博物館のお土産屋さんの方が良質な楽器置いてあるじゃんー」

「お姉ちゃんのお店の楽器なら凄く安いもん!」

プロラシオン「値段で決めるのかー!!」


両腕をうがー!と威嚇するように上げれば、海の中に隠れた子供が出てくるまで待機する。


客「プロラシオンちゃん。今日はお店は休みなのかね?」

プロラシオン「うんうん。今日は休み!良い物拾えなかったからね!」

客「そうかそうか。仕方ないことだね。ところで、そちらの人魚は知り合いなのかな?」


お客さんの視線の先には目から上だけを出したさっきの子供の人魚が居た。


プロラシオン「うん。たまに遊びに来るんだよね。ほれ、挨拶しろってー」


僕がそう言うと、観念して僕と同じように桟橋に腰かける人魚の子供。

僕の魚部分よりも小さいため人間でも「この子は子供なのか」と理解できるはず。


「初めまして!僕はアキリーズ2等少年海兵!所属はブリティッシュキングダムワークス!将来でっかい戦艦職に絶対なるからね!」

客「ブリ……?人魚にも国とかあるのかい?」


少し困惑しているお客さんに苦笑いしながら解説しようと思った。

だいたい人魚のことなんて、人間には難解だろう。


プロラシオン「人魚は人間でいうところの【兵士】って職業に就いてる人魚が大半なんだよねー。そして子供の頃から自分に合った特色の軍隊に入隊するんだよー」

アキリーズ「僕は魔弾の発射速度と精度が良いからブリティッシュキングダムワークスなんだ!」


偉そうに腰に手を当てて「ふんっ!」とドヤ顔するアキリーズに興味津々のお客さん。そういえばこのお客さんって文献とか読み漁っている頭の良いお客さんだったや。

「知識に限界はない!」ってよく言って僕に古本を売りに来ることが多いんだよね


プロラシオン「そういえばお客さんは今日も僕のところに本を売りに来たの?」

客「そうなんだが……君のお店はいつ閉まっているかわからないからなぁ」


気まぐれに閉店しては開店しているから、よくこんなこと言われる。


プロラシオン「あははー。今日は僕がいるから買い取るよー。お客さんが持ってくる本は難しいのばかりだから、読むの大変だけど」

アキリーズ「本!見たい見たいー!」


アキリーズが目をキラキラさせながらお客さんが持っている本を見つめる。

人魚は読書をあまりしない。本が濡れるし防水仕様にするのも大変だからね。


プロラシオン「また難しいのを持って来たってことー?うーん……」

客「今回は簡単な本だよ。孫が読み終わって飽きたと言っていたからね」


孫。そっか。人間って寿命が短いんだっけ。そりゃ世代交代も早いか。

時間の流れというのは残酷なものだね。人間の中では大きな戦があったことを文献や語り部を通して知ることしか出来ない場合もあるのか。


アキリーズ「あー!本を買い取るってことはお店を開くってことだよね!楽器!」

プロラシオン「……だから何で楽器が必要なのか言えー!」


楽器はあまり売買したくない。劣悪な楽器は音質に関わるから、まだ子供であるこの子にはちゃんとした楽器を使って欲しい。


アキリーズ「………」

プロラシオン「……新学期に向けて楽器を調達してこいって学校で言われたけどすっかり忘れていたんだなー?」


僕がそういえばアキリーズはビクンッ!と身体を跳ねさせてから苦笑いをして僕を見る。図星かぁー。

人魚の学校の必修科目には楽器と砲術が入ってるもんなぁ。


客「人魚は楽器を使った授業を行うのか。だからあんなに上手な人魚が多いんだね」


お客さんは感心した声を漏らす。もうー!いっぺんにあれこれ行うのは面倒くさいからちゃっちゃと終わらせちゃおう!


プロラシオン「本!買い取り!査定するからお店の中に来てください!……アキリーズも!」


少し大きな声を出して二人を店内に誘導する。

お客さんが持って来た本は【絵本】だった。確かに分かりやすい。人間は子供向けとしてこういった物を作っているんだ。

アキリーズには変な音が出ない程度に調律したヴァイオリンを渡した。代金は当然【出世払い】。かなり納得できないが子供からお金を巻き上げる趣味もないし。それに子供にはのびのび学んでほしい。


プロラシオン「学校かぁ……僕が通ってた頃がガッチガチに戦時だったしなぁ」


少し懐かしい気持ちになった。それと共に、少しだけ世代の壁っぽいのを感じた。

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